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114:二人きりの勉強会

「ヒジリ、なんかぐったりしてるように見えるけど大丈夫かい?」


「一応大丈夫です……」


 放課後、柔らかな光が差し込む空き教室で、私はエムリオ様と向かい合っていました。

 約束通り二人きりの勉強会の始まりです。心身共にクタクタになっていた私ですが、それでも今後の勉強に備えるためにこれは外せません。

 何せ、一刻も早く読み書きを覚えないと授業に全くついていけなくなりそうですから。


「上級生下等クラスは、そこまで難しい学習内容ではないと思うから安心してほしい。もちろんボクらとキミの世界での教養は全く違うだろうけど、キミならきっとできる」


「頑張ります」


 エムリオ様、まるで熱血系の教師みたい……。

 できれば優しめに教えてほしいな、とは思いますが、贅沢は言えません。全力でついていくのみです。



 この世界には複数の国家がありますが、言語はどの国でも共通だそうです。

 それは国の成り立ちに起因し、元は一国だったのが約千年前に分裂したからなのだとか。千年もほぼ同じ言語を使い続けているのは何気にすごい気がします。

 ちなみに、女神様の名前を真似て『ヴォラティー語』と呼ばれているそうです。


 『ヴォラティー文字』は八十字以上あるそれを組み合わせる形で使うのですが、全部くねくねと蚯蚓がのたくったようにしか見えません。

 とりあえずはこれを全部覚え、かつ、文法などもマスターしないといけないのですからなかなかに大変です。


 ノートに文字を書き写しつつ、うんうんと唸る私にエムリオ様は辛抱よく付き合ってくれました。

 そして的確な指導をしてくれて、私も少しずつですがわかるようになっていきました。エムリオ様が教え上手だと自称していたのは、どうやら嘘ではなかったようです。さすが王太子様。


 これほど熱心に勉強したのはいつぶりでしょうか?

 私は現役高校生です。毎日学校には行っていましたし、勉強をサボったこともありません。それでもこんなに真剣に取り組むことなんて数年なかったように思います。


「今日はここまでにしようか」


 エムリオ様の声でハッと我に返った時には、すっかり窓の外の陽が傾き始め、教室が赤く染め上げられていました。


「あ、もうこんな時間……! すみませんっ、帰ります」


 私はそう言うなり慌てて席を立ちます。

 早く帰らないと寮仲間に心配をかけてしまうかも知れません。まあすでに私のことは寮で話題にされているでしょうが……。


「お疲れ様。ヒジリは本当に勉強熱心なんだね。感心したよ。

 もしよければまた教えてあげよう。キミの力なら上級生中等クラスにはいける。頑張れば上等クラスも夢じゃないと思うよ」


「ありがとうございます」


 別にクラスを変えるつもりは今のところありませんが、勉強に行き詰まったらまたエムリオ様に教えてもらうことはあるかも知れません。

 できれば関係を持ったらいけないのはわかっていますし、距離を取りたいのが本音ではありますが、背に腹は変えられませんもの。


「ありがとうございました。では」


「またね、ヒジリ。近々会えることを願っているよ」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 エムリオ様に見送られながら私は教室を出ます。

 そのまま後はできるだけ誰にも見つからないようにして寮に帰り、夕食にありつくだけ。そのはずでした。


「……そこのあなた、今すぐ立ち止まりなさい。アタクシからあなたへ直々に話がありますわ」


 そんな声と共に金髪縦ロールの美少女――セルロッティさんがどこからともなく姿を現すまでは。

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