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113:二日目にして遅刻

 エムリオ様と話し込んだ後、もう少し周辺をぶらぶらしてから寮に戻ると、そこにはもう誰もいませんでした。

 一階食堂にポツンとパンが置かれているだけで、それ以外は何もないのです。それはあまりにも異様な光景でした。


「皆さん、どこへ行ってしまったんでしょう……?」


 しかしどうやら何かの事件が起こったわけではないということは、すぐにわかりました。

 なぜか帰り道ではまるで気づかなかったのですが、すでに日がそれなりに高い位置に昇っていたのです。しかもパンを手に取るとすっかり冷めきっていました。


 これらの状況が指し示す答えは一つ。

 ――ズバリ、遅刻。


「いやあぁぁぁっ!」


 私はパンを咥えると、一も二もなく走り出していました。

 二日目から遅刻とか最悪過ぎます。まさかエムリオ様との立ち話がこれほどまでに長かったとは思っておらず、「そろそろ用意をすれば間に合うでしょう」などと呑気なことを考えていた数分前までの私を殴りつけてやりたい気分です。


 寮仲間の皆さん、せめて私を探してくれたら良かったのに!

 しかしそんな愚痴は何の意味も成しません。だって勝手に寮を抜け出して勝手に立ち話をしていた私が悪いのですから。


 女子寮を駆け抜け、急ぎ過ぎたために道に迷い、どうにかこうにか教室に着いた時にはすでに授業が始まっていました。

 教室に入った途端、女子男子問わずたくさんの生徒から憐れむような視線を送られます。私は震えながら、「遅ればせながらやって来ました……」と言うのがやっとでした。


 ベッキー先生がまるで私のことを気にする様子なく授業を続けてくれたから良かったようなものの、もしも皆の前で叱られるようなことになっていれば羞恥心で軽く死ねました。これでも私、元の世界では学校に遅刻したことなんてなかったのです。

 私はできるだけ皆さんの視線から逃れるように縮こまりながら、エマさんの前の席に座ったのでした。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 昼休み。それは女子たちのお喋りタイム。

 昨日はエマさんと話せて楽しいななんて呑気に思っていましたが、今日の昼休みは地獄でした。


 テラスに逃げても多くの女子生徒たちが追って来て、私がどうして今朝遅刻したのか、嵐のような質問攻めをしようとするのです。

 女子たちにとって、聖女の醜態なんて格好のネタでしょう。それに、聖女である私に多少なりとも嫉妬している人にとっては、ちょうどいい見下すための口実ですしね。


 なんとか逃れようとしましたがそれにも限界があり、しかしエムリオ様とのことを話していいようには到底思えず、困り果ててしまいました。

 もしも話してしまえば、下級クラスにいるくせに王太子様と親しくするとは何事だ!と言われ、石が飛んできてもおかしくなかったと思います。


 なので私はまるっきり嘘ではない嘘を吐くことにしました。


「ちょっと朝の散歩をしていたら時間を忘れてしまって。この学園の建物、とっても綺麗だったので」


 それで半数ほどは納得してくれたものの残り半数はまだ疑いの目を向けて来ます。

 それだけではなく、ハンナさん――彼女も同じ教室です――が、「聖女様がどなたかとお話ししているところを見たのです」なんて余計なことを言い出すものですから、さらに混乱を極めて……。


 もしもエマさんが「ペリーヌ男爵令嬢が見たのはあたしだよ」だなんて適当な嘘を言ってくれなかったら、収まりがつかないところでした。

 まあ、その代わりと言わんばかりに今度はエマさんに詰め寄られることになったので彼女に感謝していいのか否かは悩むところではありますが。


 その後の授業はまるで集中できなかったことは、言うまでもありません。

 二度と遅刻などすまいと固く固く心に誓った私だったのでした。

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