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111:いつもより早い朝

 色々ありつつも、王立学園での寮生活一日目は無事に終了し、二日目へ。



「聖女様。起床時間になっているのです」


 ハンナさんの声がして目を覚ますと、まだ薄暗い時間帯でした。

 この世界の時刻が二十四時間制であるかどうかは知りませんが、私の感覚で言うと夏であれば午前五時かそれくらいの時間です。


「う〜、もう起きなきゃだめなんですか……。まだ寝ていたいのですけど」


「淑女たる者常に規則正しく行動せよ、なのです」


 寮に起床時間があるのは知っていました。でもさすがにこの時間は早過ぎやしませんかね?

 異世界に来てからもいつも日が昇ってから起きるという普通の生活を送っていた私にとっては、この時間の起床はかなりきついです。女子寮……というか学園の朝が早いことを事前に知っていれば、もっと前から体を慣らしていたものを……。


「ふわぁ」


 いつもより随分と早い朝、堪え切れずにあくびをしながら私はベッドを抜け出しました。

 こうして今日も一日が始まるのです。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 朝食までは一時間ほどの猶予があります。

 その間、寮の生徒たちは思い思いに時間を過ごすそうです。大抵の者は勉強に時間を費やすらしく、私も頑張ってやってみようとしたのですが……。


「ああっ、無理!」


 ノートを広げ、私は天を仰いでいました。


 私、別に勉強嫌いっていうわけじゃないんです。

 高校はそれなりに学力が高くないと入れない場所でしたし、成績もどちらかと言えばいい方でした。

 ですがそれでも急に異国の言語を学ぶのは難しく、アラビア文字のようなわけのわからないくにゃくにゃした文字を解読するのは至難の業。

 昨晩エマさんにノートを貸してもらい、それを自分のノートに書き写しているのですが何が書いてあるのかさっぱりです。私は頭を抱え、呻くことしかできませんでした。


 こうなったら本格的に誰かに教えを乞わない限り、覚えることは無理でしょう。

 悔しくはあるものの独学を諦めた私。ですがそうすると、時間を持て余してしまいます。


 かと言って二度寝は許されません。二度寝をすると「だらしない己を律しなさい」と言われて課題が二倍に増えるのだそうです。二度寝、絶対にできないです。


「じゃあどうすれば……。あっ、そうだ、いいことを思いつきました」


 そういえば昨晩、イルゼさんたちに寮の出入りは自由だと言われていたのでした。

 なら、少し外を散歩しても誰にも文句は言われないでしょう。迷わない程度ならどこをほっつき歩いても大丈夫なはず。

 そう考えるなり私は、早速部屋を飛び出していました。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 昨日は忙しかったので、学園の校舎の外はまだ全然散策していません。

 女子寮の建物が立ち並ぶ通りを少し行くと、知らない樹木に両脇を囲まれた小道が見えて来ました。

 朝早くだからでしょう、まだ誰もいずひっそりと静まり返った小道を私は歩きます。その先には漆黒の門があり、それを潜り抜けると灰色の建物の群れが現れました。


 おそらくここが男子寮に違いありません。

 これ以上進むかどうか。少し躊躇った後、私はさらに踏み出そうとして――。


「これ以上入ったらいけないよ、ヒジリ」


 そんな声にドキッとして顔を上げれば、エメラルド色の瞳とばっちり視線が合いました。


「はぇ?」


 情けな声を上げてしまったのは、急に現れたようにしか見えない彼の存在が信じられなかったからです。

 いいえ、それだけではありません。私を見下ろしているのが赤髪に緑色の瞳の超美形であるということにもかなり驚いていました。


「こんな形で会うとは思わなかったよ。数日ぶりだね。元気そうで良かった」


 そう言って笑うのは、この学園では会うことがないだろうと思っていた人物。

 ――エムリオ様でした。

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