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11:ご馳走

 食堂に入った途端、鼻をつく香りに私は思わず目を見開きました。


「……いい匂い」


 一流レストランや高級ホテルでも滅多に見ないような高級料理の数々。それが私のすぐ前のテーブルの上に並べられていたのです。

 こんな物が出されるなんて、さすが王宮です。先ほどメイドさんが「それはそれは料理長がすごい方で」と力説していたのですが、それが嘘でないことは見ただけでもわかりました。


 食堂の席についているのは国王様と他数人。おそらく王族と思わしき、高価な服を着た人たちです。

 彼らは私を一斉に見ると、それぞれが反応を示しました。


「待っておったぞ、聖女よ」

「あなたが聖女なんですってねぇ。これからこの国を守ってくださいましね」


 国王様の隣にいるのがおそらく王妃様でしょう。男と見紛う巨体でありながら幽霊かと思うような青白い肌をしており、少しばかり不健康そうに見えます。

 一方でそのさらに隣には私より数歳下と思われる少女と少年がいました。異世界人で私より小さい人、初めてみました。もしかすると私が思っているよりも幼いのかも知れません。


「わあ、聖女様だー!」

「あなたが噂の裸の聖女ね。センスの悪いドレスを着て、はしたない」


 女の子の方は毒がきついですね。地味に傷つくんですが。

 他にも彼らの親族と思われる青年は私の胸をジィッと見ていますし、かなりお年を召したご婦人は私に身を擦り寄せて嫌悪の目を向けていたりしました。正直言ってかなり居心地悪いです……。


 私はすぐに食べ始めようと思ったのですが、そうはいかず、まずは自己紹介からということになりました。これが王族貴族のマナーとのことです。

 歓迎会の参加者はざっと十人近くいて、その挨拶を聞いているうちにご飯が冷めてしまいそうです。全部国王様とその弟の家族だというのですから多くて驚いてしまいます。でもこれくらいの数がいないと国の運営はやっていけないのでしょうね。ちなみに先ほどの少年少女は王女様と王子様みたいです。王女様、態度悪くないですかね?

 しかも聖女の歓迎会なのに王太子だとかいう人はどこかへ行ってしまっていていない様子です。王太子って次の国王なんですよね……? 顔合わせしないで大丈夫なのでしょうか?


 ――とまあ、色々言いたいことはありますがそれをグッと飲み込んで。


「皆さんありがとうございます。私は、ここと別の世界から来ました早乙女聖といいます。元の世界に帰るまでの間、お世話になります」


 そう頭を下げたのでした。

 ふぅ……。ようやく終わりました。これでやっと朝食にありつけますね。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「聖女の降臨を祝して、乾杯!」

「「「「「乾杯!」」」」」


 グラス――お酒のようなものが入っていますが子供たちも呑んで大丈夫なんでしょうか?――が軽く触れ合って音が鳴り、祝賀が始まりました。

 まだちょっとギスギスした空気は残っていますが、食べ始めた途端私のことなどどうでも良くなってしまったのかしてすでに存在感は薄れています。でもむしろ無視してもらった方が楽なので何も言いませんが。


 腹ペコだった私は、居心地の悪さも忘れ、お皿にがっつくようにして食事を平らげてしまいました。

 味わう暇さえないほどのスピードでしたけど、それでもその料理がどれだけ工夫された高級品なのかがわかります。王宮暮らしも悪くないかも……。

 いけないいけない、ついうっかりあまりの料理の美味しさにこの世界の虜になるところでした。なんとしても帰るのだと昨夜決めたばかりではありませんか。しっかり心を強く持たなければ!


 と、私が一人そんなことを考えていると、ふと王妃様から声をかけられました。


「それにしてもまさか本当に聖女が現れるだなんて思っていませんでしたわ。……あなた、本当に聖女なのでしょう?」


「はい。多分そうですけど……。それが、どうしたんですか?」


「私事で申し訳ないのだけど、実はわたくし、一月ほど前に魔物に襲われてしまって少々腕を怪我したんですの。それを治していただきたいと思いまして。聖女は浄化の力を持つと言われるでしょう? せっかくなら今、その力を見せていただきたいわ」


 じょ、浄化の力……。

 二次元しか聞いたことのない言葉に私は少し身を固くしました。しかも、それを今からやれと言われたのです。

 素敵な食事にすっかり緩み切っていた思考が一瞬で引き締まります。


 でもたくさんの王族に見られている上、王妃様からの頼みである以上、簡単に断れないことくらいはわかりました。

 スプーンを置き、一息つきます。そうやって気持ちを整えてからゆっくりと頷きました。


「できるかどうかはわかりませんが、やってみます」


 これが私の異世界での第一ミッション。家に帰り着くための第一歩に違いありません。

 そう信じ込んで私は、王妃様からの無茶振りを受けることに決めたのでした。

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