108:女子寮①
セルロッティさんとの邂逅?からしばらく後。
私は道に迷いまくりながら、どうにか女子寮に辿り着くことができました。おそらく一時間くらいは校舎内をうろうろしていたのではないかと思います。
女子寮は校舎から少し離れた場所にあり、薔薇色の外壁の可愛らしい建物です。
マンションのようなそれは、奥までずらりと並んでいます。その中で手前から三番目の建物が私がこれから暮らす寮だと事前に説明されていたのを思い出しました。
「えっと、お邪魔しまーす」
誰に言うでもなくそう呟いて、私は女子寮の中へと足を踏み入れました。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「まあ、あの方が新入りさんでしょうか?」
「あれが噂の……小さいわねぇ」
「こら、そんなこと言うものじゃないのです」
ひそひそ声――と言っても私には丸聞こえなのですが――囁き合い、入って来た私を見つめるのは三人の女性でした。
私より体格がずっと大きくはありますが、おそらくは同じ三年生でしょう。私を小さいと言った女子生徒は教室で見かけた覚えがないので、身分が高いのかも知れません。
私は彼女らに頭を下げました。
「初めまして。私、早乙女聖です。今日からここでお世話になります」
「ごきげんよう。私はピンケル子爵の娘、ダーシー・ピンケルと申します」
「伯爵家のイルゼ・シュガーゴットよ。あなたが聖女様だっていう人ねぇ。これからよろしく」
「わたしはハンナ・ペリーヌなのです。ペリーヌ男爵家の長女なのです。改めてよろしくお願いしますなのです」
ダーシーさんは錆色の髪、イルゼさんは濃いめの灰色のサイドテール、ハンナさんは淡いクリーム色のおさげ髪です。
これが私の寮仲間。一眼見ただけでかなり個性的な人たちだろうなと思えましたが、少なくとも第一印象的には悪い人間ではなさそうで安心しました。
「……あ、でもそういえば寮って確か全部で五人じゃありませんでした? 私を入れても四人ですよね。もしかして誰か一人不在ですか?」
と、私がふと尋ねたちょうどその時。
「ただいま〜。サオトメ嬢、迷わずにちゃんとここまで来られたんだね」
そんな呑気な声がして、私が振り返るとそこにはドアから入って来た人影が。
ストロベリーブロンドの髪を波打たせる彼女は、間違いなく先ほど別れたばかりのエマさんでした。
目を見開く私にケラケラと笑うエマさんが言います。
「驚かせちゃった? ごめんね。サオトメ嬢がここに入って来るってのは、あたしたちからしたら周知の事実過ぎて言い忘れてたよ」
「つまり、エマさんもこの寮で生活しているってことですよね」
「そうそう。これできっちり五人揃ったでしょ?」
エマさんと同じ寮というのには驚きましたが、彼女は頼れる人のようなので一緒に寮生活をしてくれるのは非常にありがたいことです。
まあ、タレンティド公爵令嬢評についてはまるで的外れでしたが。
これで一件落着……かと思いきや、割り込んで来る声がありました。
「モンデラグ男爵令嬢、ずるいです。魔法授業の時だって聖女様とのペアという大役を勝手に掻っ攫って行き、今も自分だけに注目を集めようとするだなんて……!」
エマさんに突っかかって行ったのはダーシーさん。
確か彼女もあの教室の中にいた一人だったように思います。私と組めなかったことを恨んでいるに違いありません。
「ごめんね、ピンケル嬢。でもあたしにはあたしの都合ってもんがあるからさ」
「身分が下のくせに生意気です。成金男爵家と由緒正しき子爵家では天と地ほどの差がありますよ」
それからしばらくダーシーさんはエマさんに愚痴を垂れこぼし続けていましたが、正直言ってどうでもいいです。
なので私はイルゼさんとハンナさんに寮のルールを聞くことにしました。
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