106:才女タレンティド公爵令嬢について
昼食のパンを数度おかわりしながら、私はエマさんとの雑談を続けていました。
今は服装について話しているところです。
「ふーん。それでそんな格好してるんだね。『光の騎士』の指導だから仕方ないとはいえ、サオトメ嬢は絶対ドレスの方が似合うと思うけどなー」
「そうでしょうか? 一度だけドレスを着てみたことがあるんですけど、センスが悪いと言われてしまって」
「えぇ? そのツンツルテンよりずっといいでしょ」
「ツンツルテンって言わないでくださいよ。自分でも気にしてるんですから……」
「あははっ。みんな言わないだけで絶対思ってるって」
ケラケラと笑うエマさんは、全く遠慮がありません。
先ほど本人も言っていたように、元々貴族ではないからかして令嬢らしさが皆無です。しかし私はその態度に少し安心していました。
――最初に交流できたのがこの子で良かった、と。
全然まだ友人と言える関係ではありません。ただのクラスメイト、それ以上でも以下でもないです。それでもこうして気兼ねなく話すことができ、笑うことができる相手はありがたかったのです。
「どうしたの、ぼーっとして」
「エマさんは明るい人だなと思って」
「よく言われる。この方が人に好かれやすいからね。打算ありきだよ」
「たとえ最初は打算ありきでも、少しずつでも仲良くなりたいです」
私がそう言うと、「貴族の世界はサオトメ嬢が考えてるほど甘くないよ」とエマさんは笑い、すぐに次の会話に移ってしまいました。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「この学園で一番の有名人? そうだなぁ、学園長のとこのジュラー侯爵令嬢もかなりすごい人だけど、やっぱりタレンティド公爵令嬢じゃないかな」
話は変わって今度はこの王立学園の有名人について。
現在私が把握している中でこの学園に在籍しているのはエムリオ様とアルデートさん、そして目の前のエマさんだけ。クラスメイトとはまだろくに話したことすらありませんし、他の人のことなど全く知りません。
もしもこの学園で何かあった時に頼れる人を作る意味と、人脈を増やした方がいいのではという判断の元、エマさんに有名人を尋ねてみたのです。
「タレンティド公爵令嬢、ですか。公爵令嬢って言うと身分的にはかなり上ですよね?」
「そう。筆頭公爵家のご令嬢だから、王族の次に偉い家なんだ。でもタレンティド公爵令嬢が有名なのは身分が高いからじゃないの。
たとえば類稀に見る才女で、学園の成績はいつも主席だし。二人いる生徒副会長のうちの一人で、学園内カースト一位。かっこいい系の美人で、女でさえ見惚れちゃうような人だよ。できればあたしも喋ってみたいんだけど、これだけの身分差だと近づくだけでも一苦労でね。遠目に見たことしかないけど、聖女のサオトメ嬢なら交流の機会があるかもよ」
成績優秀、容姿端麗、そしてカリスマ性もある……。
二次元でありがちな超絶完璧人間そのもので、私は驚いてしまいました。もし本当にそんな人がこの世界には実在するなんて。確かに一度は会って話してみたいです。
もしも話して良さそうな人だったら、少しずつ関係を築いていきたいものです。
が、あまり急ぎ過ぎないようにしないと。何せ学園はまだ始まったばかりなのですから。
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