表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/239

105:昼食時のテラスにて

 教室から命からがら逃げ出した私とエマさんは、昼食をいただくために学園のテラスにやって来ていました。

 学園のことを何も知らない私にとって、こうして同行してくれる人がいるのは非常にありがたいことです。彼女がいなかったら私、きっと迷子になっていたに違いありません。


 学園は無駄に広くて道が迷路のように入り組んでいる場所があったりするのです。実際、テラスに着くまでかなり歩かないといけませんでした。


 テラスには、私たちと同じく昼食を求めてたくさんの生徒が集まっています。

 男子生徒は皆礼服を、そして女子生徒は華やかなドレスを着ているのがほとんどなので私の異質さはここに来ても変わりません。が、談笑に夢中なのかあまり私を見て来る人はいませんでした。


 エマさんに適当な学食を買って来てもらうと、空いていた円テーブルを挟むようにして二人で腰を下ろします。

 そしてまもなく運ばれて来たパンのような何かを食べ始めると同時に、エマさんが口を開きました。


「いや、さすが聖女様だよね。さっきの風には驚いちゃった。すごいよ、サオトメ嬢は」


 ネイビーブルーの目を輝かせてこちらに身を乗り出す彼女は、本心で感心しているようです。

 が、私はゆるゆると首を振りました。


「……とは言っても、魔法はこちらの世界に来てから得たものというか、与えられたものなので、褒められてもそこまで実感がないんですよね」


「へぇ、そうなんだ? その話、もっと聞かせてよ」


「いいですよ」


 今までの一連の出来事をざっくりと語ると、エマさんはさらに興味津々といった顔になりました。


「異世界、ねぇ……。魔法がなくて代わりに『カガク』ってのが発達してるとは、興味深いよ。聞いたことはあったけど、本当にそんな世界があるなんて」


「はい。私の方も、ここに来るまではフィクション以外でファンタジー異世界があるとは思ってませんでしたけど」


「ってことは召喚の儀でしか繋がらないってわけね。残念。できれば異世界と道を繋げて商業利用したいところだけど難しそうだね」


「貴族の方ってすぐお金儲けを考えるんですね……」


 少し呆れ気味で呟くと、エマさんがなぜか自慢げに言いました。


「実はあたし、今でこそ男爵令嬢だけど元々商人だったんだよね。だから商人気質っていうか、ちょっとそういうことには敏感でさ。成り上がったからこそこうやって一応は貴族の地位を手に入れたわけだし?」


「そうなんですか」


 それを聞いて私は内心で叫びました。あなた、王道ヒロインじゃないですか!と。

 平民だった少女。父親が金で成り上がり、男爵令嬢になって貴族たちの世界に飛び込み、運命の王子様との恋が始まる……という恋愛ものを昔読んだのを思い出したからです。

 聖女というのも随分ヒロインっぽいポジションではありますが、エマさんの方がずっとヒロイン体質な気がします。


「サオトメ嬢、何考えてるの?」


「あっ。ごめんなさい、何でもないです。ただちょっと、エマさんって恋愛運がありそうだなと思って……」


「えぇー、何それ。面白いこと言うね。あたし、恋愛なんて一度もしたことないよ。あははっ。あたし、男より稼ぐ方が興味あるから。金のある男なら考えないでもないけどね」




 ちなみに、そんなことを言って笑っていたエマさんが数年後に第二王子のジョン様と大恋愛の末、身分差、そして十歳差という異例の結婚をすることになるのですが、テラスで昼食を貪る今の私たちには知る由もない話です。

 面白い! 続きを読みたい! など思っていただけましたら、ブックマークや評価をしてくださると作者がとっても喜びます。

 ご意見ご感想、お待ちしております!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ