104:初めての魔法授業②
「こうやって魔術式を描いて……あたしの風魔法の力を流すね。それからサオトメ嬢、ここに力を注いで」
「力を注ぐって、普通に魔法を行使する時の感じでいいんですか?」
「うん。でも出し方は細く長くを心がけて。あまり一気にぶつけると爆発しちゃうから。見てて」
「わかりました」
エマさんは風属性の魔法使いでした。
力はそんなに強くないらしいのですが、魔術式を描くのが上手いことが自慢で、厨二病の子が描くような魔法陣を一瞬で机の上に描いて見せました。
その魔法陣に向かって、エマさんは手から薄緑の光のようなものを出していきます。
あれが風魔法なのでしょうか。そういえばここはたくさんの魔法がある世界だというのに、まだ聖魔法と光魔法、時魔法の三種類の魔法しか目にしてこなかった事実に気づいて今更愕然としてしまったりしたのですがそれはさておき。
エマさんが力を注ぐのを見終われば、次は私の番です。
「……これ、制御が難しいから。やばそうになったら言ってね」
「はい」
間違いなくやばい事態になりそうな予感を胸に、私は教えてもらった通りに聖魔法を注入し始めたのでした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
魔法陣はまるでブラックホールのように力を吸い込むので加減が難しく、しかし一気に注げば爆発するというので、なんとか必死に調整していました。
魔法を使い過ぎたせいか頭がふらふらしてきて、目の前がチカチカと光ります。魔力が多いというお墨付きをもらっているのに、すぐこんな風になるのではダメですね。
もう少し練習しないと……。
細く長く、まっすぐ伸ばすようなイメージで。
息が荒くなり、何度か意識が遠のきかけましたが、「もういいよ」とエマさんに言われるまでは持ち堪えました。その後、膝から地面に崩れ落ちてしまったのですが。
「無理しないでって言ったのに」
呆れたように言われ、渋々私以外の人とペアを組みながらもこっそりこちらの様子を盗み見ていた多くの生徒たちも唖然としている様子です。
当然ですよね……。「えっ、このレベルで倒れるの? 聖女様が? 偽者なんじゃないの?」という声が聞こえてきそうでした。
しかしそんなへっぽこ聖女でも、『融合魔法』には成功したようで……。
ふわり、と魔法陣の方から爽やかな風が吹いてきて、私は驚いて顔を上げました。
風に触れられた瞬間、全身を覆っていた疲労感がすっかり消え去ったのです。それはまさに癒しの風でした。
「これは……?」
「『融合魔法』に成功したみたい。でもすごい、聖魔法と合わせるだけでこんな風になるなんて……信じられない」
教室中から、先ほどとは打って変わって感心したような声が漏れ出します。
なんだかよくわかりませんが、成功したようで安心しました……。
と、思っていたら。
「やっぱり私とペアを組んでください! 私なら、あなた様の力をもっと活かせると思うのです。お願いします聖女様!」
「いいえ、わたしよっ。わたしの魔法さえあれば……」
「僕が」「俺が」「私が!」
その後、教室の半数以上の生徒が私に群がって来てもみくちゃにされ、死ぬような思いをすることになったのでした。
ですがまあ、初めての魔法授業は無事に終了したので良しということにしておきましょう。
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