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『裸の聖女』が世界を救うまでの物語 〜異世界召喚されてしまった少女は、早くおうちに帰りたいのです〜  作者: 柴野いずみ@『悪女エメリィ』一二三書房WEB小説大賞銀賞受賞!
第1章 お風呂に入っていたら見知らぬ世界に召喚されてしまいました

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100:カケラを持った者たちを探して ――??視点――

 ――この世界を滅ぼさなければならない。


 それが私に課せられた使命であり、今の私の存在理由の全てだった。

 私には破滅の他に何の道も残されていない。辛いことも悲しいことも、奔走するのも裏切られることももう嫌だ。これ以上この世界で無駄に生き続けていいことなど一つもありはしない。

 無こそが私にとって終焉は安寧と同義なのだ。


 世界を終わらせるために、私は再び立ち上がる。


 あの時、私の中から飛び散ってしまったカケラを全て拾い集めなくては。

 あれが集まってこそやっと私の願いを叶えられる。悪魔を失い、力を落とした今の私ではまだ不十分なのだ。


 ……私は紫の髪を揺らしながら、カケラを持った者たちを探して歩み続けた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 それはとても哀れな少女たちだった。

 身なりはボロボロで痩せ細り、今にも死んでしまいそうだ。自分にもこんな頃があったな、などと思いつつ、私は苦笑する。

 運命とはなんて残酷なものなのだろうか。まだ何の罪も犯していない子供にこのような過酷な生活を強いて苦しめるのだから。


 この世界にもしも本当に神がいるとすれば、それは間違いなくろくでもない奴なのだろうと断言できる。

 人々を嘆かせて楽しむそんな意地の悪い趣味をお持ちに違いない。


 神云々はどうでもいいので置いておくとしよう。大事なのは少女たちの話だ。

 彼女らとの出会いは偶然だった。久しぶり――それこそ千年ぶりに街を歩いていた私は、物盗りに遭った。それが彼女ら二人なのだ。

 おそらく食べる物も住む場所も行くあてもなく、仕方なしに盗みを働いたのだろう。


 でもそんな二人を見ても胸は痛まなかった。ただ感じたのは、これ(・・)だ、という確かなる感覚だけ。


 私は拘束した少女たち――ピンク髪と青髪の二人に声をかけた。


「あなたたち。……『魔女のカケラ』を持っているだろう?」


 それまで離せ離せと喚いていたピンク髪も、死んだ魚のような目をしていた青髪の方も驚いて固まっている。

 ああ、そうだろう。きちんとした鑑定でもしない限り普通は『魔女のカケラ』を感じることはできない。ドス黒いそれが見えるのはきっと、私の中にもそれがまだほんの少しばかり残っているからだと思う。


「どうして、そのことを知ってるんだよ? おかしいよ」


「それは私が魔女だからだ」


 二人の少女は全く同じタイミングで息を呑んだ。顔立ちも似ているしおそらく双子なのだろうなと私は思いながら、言葉を続ける。


「物盗りのことを許してほしくば私の(しもべ)となることを選べ。そうでなければあなたたちの命は今ここで散るだろう」


 しばらくの沈黙が流れた後、ピンク髪の少女が「わかったよ!」と明るく笑って言った。

 それに追従するかのように青い娘も頷く。こちらは渋々のようだが、まあいい。


 私は彼女らを見つめながら薄く笑った。この二人の幼い少女の存在が破滅への第一歩となるのだ。考えるだけで笑みが漏れてしまう。

 ……それが悲しさを押し殺した微笑みであることは、あえて気づかないふりをしていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 双子姉妹をほどよいと思える年齢まで育て、教育し、魔女として覚醒させるのには一年ほどかかってしまった。

 しかしその成果があったのか双子はいくつもの村や街を滅ぼすまでになっている。魔女としての出来は上々と言ったところか。


 私はその間にも『魔女のカケラ』をその身に宿した女を三人ほど見つけていた。

 一人は緑髪の女。元々どこぞの姫だったが『魔女のカケラ』のおかげで長きに渡って幽閉されていたという。それを私が救い出し、手下に加えてやった。

 二人目は白髪の女。……私には白髪には悪い思い出が付き纏うので好きではないのだが、彼女の魔力は常人とは比べ物にならなほど大きかった。冒険家としてあちらこちらの国を渡り歩いてその日その日をやり過ごしていたと聞いた。私が出会った時も旅の途中で、私はすぐに彼女を手懐けると魔女にしてやったのである。

 そして三人目は土色の髪をした少女。不潔なのと、何を考えているかわからない焦茶の瞳のせいで彼女そのものが泥のように感じられる。彼女が今までどうやって生きてきたのか私は知らない。ただ、金もなく野垂れ死にそうな彼女を発見し、双子と同様に調教しただけのこと。


 水、風、土、火、氷、五人の魔女が誕生した。

 飛び散った『魔女のカケラ』は今も彼女らの体に宿っている。私は運命の日、彼女たちを使って目的を果たす。……そして私以外には何も残らない、暗黒の世界を作り上げるのだ。


 ああ、その日が楽しみだ。――そんな風に思っていたある日のことだった。


「大魔女様ぁ。ドローナ、すっごい話を聞いちゃったんですけどぉ」


「何だ?」


 泥臭い少女――ドローナに問いかけると、彼女は眠たげな、それでいて何かを狙っているような昏い目を私へ向け、


「スピダパム王国に聖女が降臨したんですってぇ。なんでもぉ、世界の危機を救うためとからしいですよぉ?」


 信じられないようなことを言い放ったのだった……。

 これにて第1章完結となります。

 次からは第2章・王立学園編は書き上がり次第(おそらく半月から一ヶ月ほど)で更新していきますので、お楽しみに。


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[一言] 第1章完結おめでとうございます! これは続きが楽しみです!
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