01:お風呂に入っていたら
……目を開けるとそこは、柔らかな光の差す大きな部屋でした。
光源はどうやら、天井に吊るされた豪華なシャンデリアのようです。おとぎ話に出てくるようなキラキラした物で、実際にこの目で見るのは初めてでした。
そんな華やかな広間の中で、私はただ一人呆然としていました。
だってこの景色は、今までに見覚えのカケラもなかったのですから。
「落ち着きなさい聖。決して慌ててはいけません。冷静に、冷静に」
私は自分に言い聞かせ、深呼吸を繰り返しました。
しかし、一体今何が起こっているのかは全然わかりません。一体ここはどこなのでしょう……?
と、その時でした。
「セージョだ!」
「おぉ!」
「降臨されたのか」
「まぁっ」「あら!」
「セージョ様が現れたぞ!」
「セージョ様だわ。本当にいらっしゃったのね」
「セージョ様!」「セージョ様!」
無数の声がして初めて、私はとある重大な事実に気づいてしまったのです。
――私を取り囲んでじっと見つめてくる、無数の人々の存在を――。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
状況を整理しましょう。
私の名前は早乙女聖。特筆することのない、高校一年生女子です。
ごく平凡な休日、蒸し暑い夏の夕方、ごくごく当たり前のように私は入浴の準備をしていました。
両親が共働きの私は、小学生の弟の面倒を見ながら家事をしなくてはなりません。
だから少しの間心を休めることができるお風呂は癒しそのものでした。
「皿洗いお願いしますね」
「はいはい、わかったよ」
今までゲームをしていた弟が、面倒臭そうに顔を上げます。
私はそれを見届けて、浴室へと急ぎました。
そういえば最近薄着でいると、弟から色っぽい視線を受ける気がするのですが、気のせいでしょうか……。そんなどうでもいいことを考えつつ、服を脱いで裸になり、湯船に浸かったのでした。
ああ、気持ちいい。心が綺麗に洗われるようです。
そのままリラックス……のはずが。
「そうだ忘れてた、明日は小テストがある日だったのでした!」
ふと大事なことを思い出して、私は慌てます。どうしよう、勉強し忘れた部分があります。寝る前にやらないと。でも徹夜は嫌だなあ……。
私はあまり成績のいい方ではないのです。まだ高一とはいえ、有名大学を目指すならば今からしっかり勉強しておかないとならないというのに。
と、そんなことを考えていた、その瞬間のことです。
「……? 何でしょう、これは」
最初に感じたのは、体の芯に訴えかけてくるような、妙な感覚でした。
そして直後――突如として異変が起こりました。
「わっ」
足元から、まるでスポットライトでも下から浴びせられたかのように、目も開けられないほどの眩い光がパァッと溢れ出したのです。
一瞬で体がその白光に包まれてしまいます。あまりに急なことだったので、何がなんだか全然わかりません。
悲鳴を上げようかと思い、しかし掠れた息が出るばかりです。
戸惑いながらも立ち上がろうとした一瞬前、誰かの声がしました。
「――うかん」
それと同時に私の意識はあっという間に薄れ、真っ白な光に飲み込まれていったのでした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そして冒頭に戻り、気づいたら見知らぬ場所にいたというわけです。
あの、この状況は一体どういうことなのか誰か教えていただけませんか!?
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