経験談
かなり倫理に反する事を言う描写があります。
お気おつけ下さい。
様々な作品を見て、小説の書き方本を読んで、ふと思ったことがある。その経験をしなくては、その人が感じた感情だとか、思いとか、そんな根幹に関わる部分は書けない気がする。
物を書いたことがない人に、作家の楽しさとか、苦しさを訴えたところで、なかなか理解はして貰えないだろう。それと同じで、書けなくなった時にしか、その苦しみは分からない。あんな薄暗いトンネルを、光さえ与えられない闇の中を、延々と歩き続ける苦しみ。それは書けなくなった人にしか分からない。
書く覚悟を決め、再開しても、なかなか筆が乗らなかった。設定は思いつく。でもストーリーが横切らない。何となく仄暗い感じがする。けれどもそれだけ、そこから先は全く見えない。
..............今のままではまだ甘いのかも知れない。行動を経験を積まなくては、それこそ倫理を捨ててでも。
私は食堂のテーブルに突っ伏して、ぽつりとボヤいた。
「もうクズに成り下がるしか、いいもの書けない気がしてくる」
手を滑らせると、コツンとシャーペンが当たった。何も言われていないが、紙から、シャーペンから、書かないの? と問われている気がする。
「人として地に落ちないと、上質の物は.......」
見えない、書けない。あの仄暗い雰囲気は。何か..............破壊の限りを尽くして西洋の投獄でも突っ込まれないと、書けないと思う。人間性を捨て去り、心まで売り捌いて.......。でもそこまでした小説をはきっと上質だと思う。きっと死んでも良いと思わせる程に。
無理矢理首をねじ曲げると、目の前に座る はパックの苺牛乳を飲みながら、私のメモ書きに目を通す。感情は見えない。ただ現状を目に写したような無機質な色。でもその奥では僅かに好奇心か蠢いていた。
「殺人でもすんの?」
「まさか。私はそこまで作品に全てを食わせられない。でもそこまで行けたらきっと一流。作家として誇り高い一流だ」
そう、一流なのだ。芸術家としても作家としても。人間としては終わっても、創造主としては最高。そんなの冥利に尽きるじゃないか。
「見てみたい気もするけどな」
「私も」
あの目、あの目は高校生の時に見た色だった。標的を捉えた狩人の目。
倫理は捨てちゃ駄目です。人間では無くなってしまいます。
でも良質な物を届けたい。という思いは作家なら誰でもありそうな気がします。
もしこの子の小説を代筆する時がくれば、初期案とかなり変わりそうだなーと。思います。
特に主人公のお相手。