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彼女が引き寄せた方と逆の方向に私は紙切れを引き寄せる。渡すなら曲がりなりにも完結した形で読んで欲しい。
「まだ渡せない。まだ完成していない」
「じゃあ完成したらその紙を頂戴」
収集家は金に糸目を付けないという。付けた時点で半人前なのだと聞いた事がある。彼女にもその匂いがした。自分が気に入った結末を最後まで見届ける、執念の匂いがした。
先に折れたのは の方だった。紙切れから手を離すと、卓上に腕を組んで口角をあげた。依然として瞳孔は開きっぱなしだ。
「動機と過程があって作品を作っている。結果だけを真似した奴ほど過程を話せない」
「言ってることがよく分からない.......」
今度は私が怪訝な顔をする番だった。胸の近くまで原稿を引き寄せて、その上に腕を置くと、ぽかんと口を開けた。
解説を求めると、彼女は美術の教科書を取り出した。開かれたページにはよく言えば芸術的、悪くいえば何を書いているか分からないようなゴテゴテとした色彩の塊だった。詠利はその絵に指さして口を開く。
「パッと見は何を描いてるのか分からない。でも画家は信念を持って描いている。だから心から描いた奴は質問した時に答えられるんだ。この色は何を意味し、何を伝えたいか。でもただ真似をしただけの奴らは答えられない。表面しか汲み取ってないから、そこに考えがある訳ない。あんたは前者だって言いたい。自分の描いた作品を心から愛してる。その精神に価値があると思ってる」
プライドが高いんですよ。恵美。
生半端な物を読ませたくない。
そこんとこも、私と違うところですね。(前科あり)
芸術を理解出来ない人間なんで、とりあえず出来たら解説を付けて欲しいと思ってる人間です。
でも、分かる人は分かるんだろうな。