作品解説
「なんで学校の夕暮れ時を題材にしたの?」
放課後、皆が教室を離れた後、私達は居残って薄いメモ紙を机いっぱいに広げていた。夕暮れ時の橙の光が卓上を照らしている。そう、ちょうど私が考えた設定のように。
「何か起きそうだから。昔から夕方は逢魔ヶ刻って言うじゃん? だから怪異が出てきてもおかしくないかなって。あと学校の怪談もあるぐらいだから、非日常と親和性が高い」
楽しい。自分の書いた小説に興味を持ってくれて、解説を望まれるなんて。しつこく話せば鬱陶しがられるのは分かりきった事なのに、止まらない。
私は自分が書いた一説に線を引き、頬杖を着いた。
「学校での殺人事件って、非現実的だけど、どこか現実的でしょう? そう言う奇妙さを感じて欲しい。そう言う自分の考えた雰囲気とか、考えイメージまで伝わるなら、それ作家の本望なんじゃないかな」
ここまで言って現実に引き戻される。話し過ぎた。そろそろ話題を切り上げよう。思わず顔を引き攣らせて、散らばったルーズリーフを掻き集めると、詠利は怪訝な顔をした。
何故そんな事をするのかと聞きたそうだ。
「いや、鬱陶しくない?」
「自分の書いたものに凄い誇りを持ってる。読んでもらう為に同じような構図で書いてない」
また瞳孔が開く。狂気混じりの双眸が私の紙切れに注がれている。それから束ねた紙を指で摘み、自分の方に引き寄せてくる。
正直ゾッとした。この強烈なまでの作品の執着に、思わず息を飲んだ。ここまで作品に執着されるのは、作家として本望なのかもしれない。しかし、私はまだ納得していない。まだ最後まで見届けてない。完成形とは言えない。だから渡すことは出来ない。
この小説の元ネタは高校時代に書いたもの。
まだ全然分量が書けなかった時代。
どうやら私はくどくど話すことに向いてないようです。
でもここまで求められたらきっと本望。




