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第2話


『見合いの席には食事を用意しておいた方が()()()()でしょうな』


 今日の日に先だってツベルク伯爵からそんな助言があったので、俺はそれに従い会食形式で卓を用意していた。


 こちらとしては『会うだけ』と決めてかかってはいるものの、シーンと静まり返って気まずい席となってしまうのはいやだったしな。


 だが、相手のランスハルト氏は沿岸の要地フォート領を治める名門公爵家である。


 めったな料理をお出しすれば恥ずかしい思いをするかもしれない。


 俺の普段のメシと言えば故郷の味を再現させた米と味噌汁、焼き魚に山菜……


 もちろん超ウマイんだけど、この辺りの貴族の口に合うかどうかわからなかった。


 そこで前日、あらかじめ領内の岩山へ出向いて【アース・ドラゴン】を狩っておいたのである。


 うちの山の地中に出現するアース・ドラゴンは、そのムネ肉、モモ肉のウマさで有名なんだってさ。


 あとは町の料理人を今日1日屋敷に呼び寄せ、先方のいらっしゃる時刻にこれを調理して西方風のコース料理にしてもらうことになっていた。


「まあ!」


「こ、これは……」


 で、実際の見合いの席。


「うーまーいーぞオオオー!!!!」


 なんかうるせーのはツベルク伯爵だ。


 まあ、伯爵は置いておいくとしても、アース・ドラゴンのコース料理はめちゃウマくて、ランスハルト一家にも大変気に入っていただけたようだった。


 ホスト側の俺としても安堵あんどの息をつく。


「いやあ美味しかった」


「本当に!」


 食事が終わるとみなさん口々にそうおっしゃり満足気であった。


 よかったよかった。


「それにしても、このような貴重な食材をいったいどうやって手に入れたのです?」


「ええ。実はうちの岩山に出現するので、昨日ちょっと行って捕って来たんです」


 そう答えると、夫妻は互いに顔を見合わせて叫んだ。


「なっ……アース・ドラゴンと言えばA(クラス)の強モンスターですよ?」


「それを裏山でウサギを狩ってくるようにおっしゃるとは……」


 え、そうなの?


 美味おいしいって聞くのに領民が誰も食べてないから不思議に思ってはいたんだけど……


「いや、すいません。俺も一応前は冒険者をしていたんですけど、モンスターのランクとかよく勉強してなくて(汗)」


「はっはっは! いえいえ、もちろんクロウド様の冒険者時代のおウワサはかねがねうかがっております。さすが、と感服致したまでですよ」


「ええ、うちの婦人会でもクロウド様のことはよく話題にあがっていました。魔王戦の時分じぶんなどはもう毎日のように……」


 ランスハルト夫妻は交互にそんなふうにおっしゃる。


 うーん、失敗したかな。


 お客に美味しいものを振る舞おうとしただけだったのに、力自慢のようになってなんだか申し訳ない。


「ふっふっふ、クロウド殿はかつて極東にあった島國しまぐにの出身でございましてな……」


 そこでなぜか得意気に言い始めるツベルク伯爵。


「……かのくににはかつて『武士サムライ』という、これはもう大変強いジョブが存在したのです。実を申しますとクロウド殿はその最後の生き残りでございましてな。教皇圏にやって来て冒険者ギルドに登録された時にはすでにグリーン・ドラゴンをたったの3ターンで倒しておられたそうですぞ」


「それはすごい。やはり名を残す冒険者は一味違いますな」


「それに武士サムライの生き残りだなんて、なんともロマンチックなお話ですね」


 ツベルク伯爵はこの場で俺の後見人という役処やくどころであったから、さかんに『俺』の宣伝を行うのである。


 それをランスハルト夫妻は感心したように応答するので、食事の後も会話は盛り上がっていた。


 俺としては閉口する他ない。


 まあ、静まり返るよりはいいが……


 こんなツマんねー話、あちらの若いお嬢さんからすればさぞ退屈されているのではなかろうか?


 そう思って、俺は視線を対面の少女の方へやった。


「……」


 ジェニファ嬢は、しかし、よほどしっかり者のお嬢さんらしく、内心退屈であろう大人たちの会話の中でも静かに座っている。


 時おりうなずいたりしながら、場に笑いが起こると自分も口元を押さえるしぐさを見せた。


 確か17歳と聞いたが……


 こうして見ると齢不相応に大人っぽく見えるな。


 椅子いすに座る姿勢は正しく、背筋せすじをS字にのばして胸を突き出すようにするから、よく見ると少しタイトなピンクいろのドレスにたっぷり育った乳房がミチミチと張りつめて、その形がまざまざと映し出されてしまっていた。


 そんな発育した胸の一方で、あどけなさの残るほおや首元の鎖骨さこつとがり方など細かな部分は17という年齢とし相応にあわく見える。


「あら……」


 で、ジロジロ見ていたのがよくなかったのか。


 ジェニファ嬢はふと俺の視線に気づいたらしく、青い瞳をこちらへ向けて来た。


 ヤバ……


 目ががっちり合って気まずく思い、俺は視線をそらしかける。


 が、その刹那せつな


 少女はむしろニコッとほほ笑みを返して来たのだった。


「っ……」


 俺は遅まきながらあわてて目線を外す。


 でも、ほほ笑みかけられてただ目線を切るだなんて、子供相手とは言え失礼なことをしたかもしれないな……。


 そう後悔しながらももうこの場では正面を見ることはできず、ただ横耳でツベルク伯爵の演説を聞くばかりであった。



 ◇



「雨が振りだすかと思いましたが、なんとか持ちこたえたようですね」


 見合いが終わると、俺は玄関で空を見上げながら言った。


 一面(おお)っていた雲にもわずかにが射し、領地の森、山を(こう)(ごう)しいものに照らしている。


「今日はとても良い時間を過ごすことができました」


「本当。くれぐれも今後ともよろしくお願いいたしますね」


 ランスハルト夫妻は上機嫌にそうおっしゃった。


 いい人たちだ。


「こちらこそ。たいしたおもてなしもできませんで。それに……お嬢さんはさぞ退屈だったでしょう?」


 俺は冗談めかすように軽く笑いながら、ここで初めて娘の方へも直接話しかけてみる。


 ジェニファー嬢はふいをつかれたようにドレスの肩をぴくんと跳ねたが、すぐにあの青い瞳をジッと俺へ向けて、


「……いいえ。お会いできて嬉しゅうございましたわ」


 と、少女のあわい声で答えた。


 ランスハルト夫妻はそんなしっかり者の娘をほほえましそうに見つめる。


「ウフフ、それではお邪魔いたしました」


「また、後日に」


 こうしてランスハルト一家は馬車へ乗り込むと、自分たちの領地へとコトコト帰って行ったのだった。



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