身に付けた鑑定能力は、思った以上に役立つもので、人生の先の事も鑑定してくれる
「これはどっちかな……」
篠原ヒビキは呟きながら能力を発動させていく。
彼がこの世界で得た能力、【鑑定】
それは様々なものを識別・解明していく。
その能力で目の前の分かれ道を調べていく。
【鑑定結果】
右: 奥へと続く
左: 行き止まり。強力な敵の存在。
【鑑定終了】
これでどちらがどうなってるのかが分かった。
調べようと思えばもっと調べることも出来る。
だが、そこまでする必要は無い。
今はこれで十分だった。
調べる量が増えると、頭の処理能力が追いつかなくなる。
決してバカではないが、平凡や平均、人間としての中央値程度のヒビキの脳みそだ。
全ての情報を瞬時処理する事は出来ない。
なので必要な情報だけを表示するようにしている。
このように鑑定能力は様々なことを解析していく。
このおかげで様々な事が分かった。
目的のものがどこにあるのか、現在地がどこなのか。
目の前にいる人間の能力や考えてる事も。
鑑定という名前にとどまらない範囲も識別してくれる。
そんな能力を使って、ヒビキは様々な事を調べていた。
その際たるものが、迷宮の調査になる。
何百年も前に世界中にあらわれた迷宮。
その内部は迷宮と名づけれるだけあって、中は複雑な通路で出来ている。
この迷宮の中を調べあげる事で、情報を売ることが出来る。
鑑定能力のおかげだ。
それだけでもヒビキはかなり儲けることが出来ている。
怪物が徘徊する迷宮内部。
その中の情報は貴重だ。
それを提供するだけで、結構な金になる。
だが、鑑定能力の凄さはそれだけではない。
更に有益な使い方がある。
分かれ道を前に、ヒビキはその使い方を用いていく。
「鑑定」
能力の対象を自分にする。
そして示される己の能力。
ここまでは一般的な鑑定能力の使い方だ。
現在の状態を余す事無く示してくれる。
更にそこで、
「鑑定」
もう一段階使っていく。
そうする事で己について更に鑑定していく。
【鑑定結果】
右へ行けば、無難に調査を続行できる。
生きて帰ることは難しくは無い、
ただし、怪物も強くなるので注意が必要。
選んでも大きな損は無いが、特別大きな得もしない。
左に進んだ場合、強力な敵と戦うことになる。
危険ではあるが、打倒可能。
また、行き止まりの部屋から転移が可能。
その先で未発見領域に入ることが出来る。
新発見であり、その情報だけでも大きな儲けになる。
だが、未発見領域で得られるものの方が利益は大きい。
危険は大きいが、得られる可能性は高く挑戦する価値はある。
【鑑定終了】
一見して、鑑定とは思えないような情報が出てくる。
だが、これが鑑定能力の気づかれてない効果だった。
鑑定能力は様々な物事を見通す。
それこそ個人の運命すらも鑑定する。
このことに気づいてからヒビキは、鑑定能力で様々な利益を手に入れていきた。
腹黒い輩を発見して、距離を置いたり。
その情報を元に、危険を排除したり。
村を出て迷宮にやってくる時にも役立った。
そもそも村を出たのも鑑定のおかげだ。
念のためにこの先について鑑定してみたら次のように出た。
『村にいても部屋住みで田畑を耕して終わるだけ。
迷宮に行けば、死ぬ可能性もあるが大成できる可能性がある』
それを信じて迷宮にやってきて、今に至る。
鑑定結果どおり、確かに上手くやっていた。
迷宮に到着してから2年。
ヒビキはかなり上手くやっている。
荒くれ者が多い迷宮探索者たちの中で上手く立ち回り。
素性の悪い者達から距離を置いたり。
金目のものを奪われそうになっても、そこから逃れたり。
逆にたちの悪い連中を一網打尽にしたり。
そうやって安全な道を常に選択する事が出来た。
また、成功するために必要な事。
何をすればよいのかも鑑定能力が教えてくれる。
それにしたがって、ヒビキは必要な事をなしてきた。
技術や知識も身につけた。
おかげでたった2年で自活できるほどに稼いでいた。
今もその可能性が目の前に出てきている。
誰も入ったことがない場所に至る道。
それが目の前にある。
危険な存在も含めて。
「危険な奴に現状でも勝てるのか?」
『勝率48%』
「勝率をあげるには?
『以下のものを準備…………』
「それをそろえた場合の勝率は?」
『勝率73%』
「100%にするには?」
『以下の知識・技術を、以下の段階まで向上させること。
内訳は…………』
必要な情報を回収していく。
道具も能力も、あと少し頑張れば手に入りそうだった。
時間はかかるが、手に入らないわけではない。
「それなら、もう少し頑張ってからにするか」
今すぐにではなく、もうちょっと時間をかけてから。
準備が出来てからことにあたる事にする。
『5ヶ月以内なら、他の者達に気づかれずに達成可能。
その先は、別の誰かが未調査地域を発見する可能性が出てくる』
猶予も分かった。
それまでにはどうにかしたい。
そして能力を磨いて道具を手に入れて。
3ヶ月余りの期間を置いて、ヒビキは行き止まりと言われた場所へと向かう。
その場に居た強力な敵を倒し、転移方法を発見。
未発見地域に足を踏み込む。
そこで得た情報が更に名声と金を呼び込むことになった。
これらのおかげで、食うに困らないだけの金を稼げた。
もう探索する必要も無い。
だが、それでもヒビキは迷宮に挑み続ける。
ヒビキとしては、もう引退して悠々自適な生活をしたいのだが。
【鑑定結果】
ここで探索を終えれば、後に迷宮の奥からやってくる邪神との戦いで死ぬ。
霊魂ごと収奪され、転生すらも不可能となる。
生き延びるならば、更に能力を高め、邪神を倒さねばならない。
可能であるならば、邪神が誕生する前に、その原因である迷宮の中核を破壊するしかない。
なお、現状ではこのことを伝えても、信用される可能性は無い。
迷宮の奥で見つかる証拠となるものが必要。
それでも現時点で何人かに伝えておく意味はある。
信じる者達が協力者になる。
その協力者の中には、迷宮攻略・邪神撃破の仲間になる者もいる。
【鑑定終了】
こんな鑑定結果が出てるのだ。
止めるわけにはいかない。
やむなく、迷宮探索や調査を続けていく。
また、こういった鑑定結果があるから、迷宮に挑んでいるのだ。
出来れば、仲間も見つけたいところであるのだが。
それも実績を積み上げなければ意味がない。
迷宮にやってきた時点で声をかけても、協力するもの一人もいない。
実績がないものが何を言っても信じてもらえるわけがない。
なので、まずは実績作りのために、迷宮で活動をしていた。
その甲斐あって、迷宮にやってきて2年たった今は、それなりの信用や信頼を勝ち得ている。
おかげで、真相を喋っても信じてくれそうな者も出てきた。
これも鑑定能力で分かったことだ。
(そろそろ切り出すかな)
そろそろ単独で迷宮入りするのも面倒になってきている。
また、邪神と戦うにせよ、その前に迷宮の中核を破壊するにせよ。
一人でやるのは手間がかかる。
出来る人間を仲間にしたいと思っていたところではある。
こうしてヒビキはその日から迷宮調査の協力者を募りはじめた。
さすがに邪神討伐や迷宮攻略の人員とは言わない。
いきなりそれではさすがに誰も信じないと鑑定結果が出た。
なので、無難で成功率が高いところからこなしていく。
こうして集めた者達が、後に迷宮攻略の精鋭になり。
出現してしまった邪神撃破の英雄となっていく。
そんな未来も鑑定能力で見ながら。
まずは今やるべき仕事をこなしていった。
新たに増えた仲間と共に。
異世界転生要素がなかったから、題名を変更