1、嵐は突然に(1)
以前連載を休止してしまったものです。
少し(いやかなり)変わりますが、話の筋は変わりません。
以前読んでいただいた方も、お初のかたも、どうぞ、お楽しみください。
――いつからだろう、
こんなにも、彼が愛おしくなったのは・・・。
もう、手を伸ばすことさえ許されないというのに。
あたしはまだ、あきらめきれずにいる。
◆ ◇ ◆
『嵐は突然に』
◆ ◇ ◆
夏。
2階の窓から覗く街の景色は、ぎらぎらと輝く太陽に照らされて、眩しいくらいだった。
時折深い風邪がカーテンを揺らす。
目を細めて空を見上げると、美しい、水色をしたそれに、白い雲がまた美しく流れていった。
「夏・・・か」
気付かないまま1人呟いていたことを少し恥らいながら、それを隠すように真理は大きく伸びをした。
まるでここにはない何かを見つめるような瞳で、家屋の並ぶ大好きなこの街を見下ろした。
中学2年生になって、もう4ヶ月。
お盆休みで部活もない真理は、あまりの暇具合に宿題も終わってしまった。
仕事柄お盆休みというものがない父親のため、帰省はほとんど時期がずれるのだ。
それか、母と真理、父が別にそれぞれ帰るか。
しかしそれも、今年は叶わなくなったかもしれない。
お盆が開けると、部活の休みがほとんどないのだ。
バスケ部の真理は、あまり部活を休むことを好まない。
チームプレーの競技だから、チームワークを乱すのがいやなのだ。
「お母さん、アイス、ある?」
真理はリビングに降りると、台所で洗い物をしていた母に問いかけた。
「あるんじゃない?棒アイスが入っていたはずよ」
母は、1度手を止めて真理に言う。
「はーい」
真理はそのまま台所に足を運び、大きくクリーム色したまだ新しい冷蔵庫の1番下を引いた。
冷気が顔に当たって気持ちいい。
見つけたソーダ味のアイスを取り出すと、名残惜しいと思いながらも冷凍室を閉めた。
カウンター席に座って1口小さく口に入れる。
一瞬で溶けるそれは、まるで天からの贈り物のように感じられた。
そして、そんな幸せな気分に浸っていると、幼かった日々を思い出すのだった。