第8話 GOKAIチェンジ!
「ど、どうしたんですか魔王様!?」
「まずい被疑者が興奮してる! 先輩、俺一か八か突入します」
「やめろ、本署から応援が来るまで現状待機なんだ!」
まだかろうじて冷静な警察官がいた。
こいつが状況を落ち着せくれないか、とイズミは耳を澄ます。
「先輩! 今あの子を救えるのは俺たちだけなんすよ。俺らだけがあの子にとっての勇者になるんす」
「……まったく、誰に似たんだか」
雲行きが悪い。
イズミの思った通りにはならないようだ。
「俺たちはいつでも人々のために、先輩に教わったんすよ」
「へへ、バカ野郎。お上に怒られたら俺の実家の酒屋でこき使ってやるからな」
「うあああああああああぁぁぁ!!!」
ドア一枚先の安い刑事ドラマにイズミは更に頭を掻きむしる。
やはりバカしかいない。
「ちいいいいがああああううううだあああろおおおお!! 違うだろぉ!」
「魔王様落ち着いてください。敵ですか? 殲滅してまいりますよ」
デニルの言葉の直後、警察官がドアを力強く引っ張ったようだ。
すでにハリボテ状態のイズミ宅の扉は簡単に開いた。
「その子を放せ! 俺たちはその女の子もだがキミも救いたいんだ。今大人しくしてくれれば罪も軽くなる」
「待って、待ってください。誤解なんです。俺じゃないんです」
「魔王様! 伏せてください」
冤罪を訴えるイズミが「へ?」と情けない声を上げた時には、イズミの前に居た年上に見える警官の方の顔面にデニルのハイキックが叩き込まれていた。
「ちッ! 浅いか」
「せんぱーーーいぃッッ!!」
よろめく先輩警官を後輩が受け止め、イズミはすぐさまデニルを羽交い絞めにする。
「お前は何してくれんの!? ややこしい状況更にややこしくしてくれちゃって、え? 前科何犯なるの? あ、片手じゃ足りない。うわぁ詰んだよ、俺の人生詰んじゃったよ絶対」
「きさまぁその女の子の拘束を解け、俺一人になっても逃げられんぞ」
若い警官は警棒を腰に収め、ホルスターの拳銃に手を伸ばす。
「違うって!違うよおまわりさん。俺も放したいんだけどぉ」
明らかに狼狽し口角を吊り上げたひき笑いのイズミだが、月明りに照らされたイズミの顔は不敵な笑みを浮かべる危険人物と警察官に認識された。
ふらつく先輩警官を隣に、若い警察官はホルスターから引き抜いた拳銃を両手で構えた。
銃口はイズミの顔を睨む。
「話したい? 今更何を言ってるんだすぐに少女を放せえええ!!」
「魔王様! 魔王様!!」
「頼むからお前は黙っててくれぇ!」
イズミに羽交い絞めにされたデニルは何かに気づいたのかイズミに話しかけるが、イズミは向けられた銃口に腰が引けている。
いかに頑丈がとりえと言えどさすがに銃は未体験だし、体験したくもない。
「すぐに助けてあげるからね。キミは安心してくれ」
若い警察官は優しく微笑む。
カタカタと揺れる銃口は両手に込められた力の強さが伺える。
「そ、そうだデニル! お前変身とか魔法とかでこれをどうにか――」
「――それよりも魔王様!!」
イズミの言葉をデニルが遮る。
「奴ら敵です!」
「その話はもういい……あれは警察官と言って治安を守るヒーロー、英雄、勇者様だ。そして俺とお前は仲良く犯罪者なんだよ」
「さすが魔王様、状況の理解の早さ! このデニル感服いたしました!」
「おっしゃる通り奴らは女神の召喚した転生勇者ですよ」
「……は?」
イズミの口から間の抜けた声が出る。
こいつはさすがにどうして天然じゃない。
こいつも立派なバカなんだ、イズミは優しく微笑んだ。
「こいつを警察に突き出そう」
イズミは強く決意した。