第7話 BooDooキングダム
――ピンポーーン
「魔王様?」
――ピーーンポーーン
「魔王様この音はなんでしょう?」
「ん?」
二度も鳴らしてしつこいとイライラする。
ピンポーーン
「魔王様……これは……動物の鳴き声でしょうか?」
「いやインターホン、呼び鈴の音だな、こんな時間に来客とは珍しいが、ヤエもムサシも2階の俺の部屋に直接来るから違うだろうし……おぉ、そういえば俺の部屋はもうないんだった」
すでに魔王と呼ばれることに違和感を全く感じてないイズミ。
早くデニルにストッキングを履いてもらいたいイズミはイライラしながら来客を追い返そうと扉に手をかけた。
「お気をつけください。魔王様女神の手先かも知れません」
真剣な目をしたデニルの心配をイズミは一笑に付した。
「まったく……俺は平凡極まりない人間だが、もし本当に魔王だとしたら用心することもないだろうが」
「で、ですが!」
「しつこいな、今の俺に怯えるものなどないわ!」
すぐに追い返してやろうと勢いよくドアを開けた。
「さっきからなんのようだ!!」
「あ、荒川さんですか? 騒音の苦情が入ってましてね……少しお話し……いい?」
扉の前には制服姿の長身の警察官が2人。
イズミは、そっと扉を閉めた。
「落ち着け、俺は特別だが……平々凡々な高校生だ。警察に聞かれて後ろ暗いことなど」
落ち着こうとするイズミは現状を確認する。
眼前のほとんど裸の少女、焼け落ちた自宅、校内で変人と呼ばれる自身の評判、ポケットに入っている他人のストッキング。
「後ろ暗いことなど……」
「どうしたのですか魔王様! やはり刺客が!! おのれ女神め」
デニルの揺れるふくよかな胸部、興奮して上気する肌、女性ならではのほんのり甘い体臭にイズミの意識は奪われる。
「後ろ暗いことなどないな!!」
すっかりトリップしているイズミ。
頭が、もとい状況判断が悪い。
動揺が隠せていない。
ドンドン! と勢いよく扉が叩かれる。
「荒川さーーん、出てきてください。ちょっとでいいんでお話し伺えますかぁ?」
「おい! 興奮させるな。中に一瞬少女が見えた。急いで応援を手配するぞ、事件かも知れん」
警察官らは焦っていた。
今やイズミの自宅は正面の壁一枚のハリボテ状態。
中も外もお互い会話が筒抜けだ。
「なぁ……おい」
「はい、デニルとお呼びください」
デニルはイズミの足元にひざまづく。
「そういうのはいい、そういうのはいいから服とか着れないのか?」
「服ですか? か、かしこまりました」
デニルはイズミの指示に従いイズミの制服のシャツを大きくした物一枚に袖を通した。
いわゆる裸ワイシャツ、萌え袖状態だ。
「正解だけどちがあああう!!」
「えぇ!?」
強い語調だがイズミの顔はゆるみきっている。
さぞ素晴らしい光景なのだろうが、当のデニルは戸惑う。
「あぁもう、俺の制服を真似しろ! それならできるだろ」
「なるほど、さすが魔王様的確なご指示ありがとうございます」
「荒川さーーん。落ち着いてくださいねー。ご近所から騒ぎ声が聞こえたって言われてねー」
「えーこちら遠間町三丁目の新興エリア巡回中。通報のあった物件にて誘拐もしくは暴行の事件性の疑いあり、至急応援求む――」
「魔王様できましたーー、魔王様と同じ洋装身に余る幸せ。動きやすいしい戦装束なのでしょうね! これであの女神の配下をぶち殺しましょう!」
「こ、ここここ殺すだとぉ。落ち着け! そんなことしても誰も幸せにならないぞ!」
「先ほど連絡した少年は大変興奮しており……殺人をもほのめかしております! 本部、応援を早くしてください」
「うあぁぁぁぁぁぁ!!」
悪化していく状況にイズミは頭を抱える。
デニルは反対に目をキラキラと輝かせていた。
「ここにはバカしかいねーーのかぁ!!」
バカが発狂した。