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第6話 テイクミーハイアー

 

「ねぇちょっとキツネ、サイズ考えなさいよ! 普通センチメートルでしょ! しかもキモい男の考えそうな女の子までセットで化けてるし、イケメンだけでいいの!」


 中学のころの芋っぽい赤ジャージを着たヤエが空に向かって大声をあげている。

 キモい男の考えそうな美少女を考えたイズミは「これだから女は……」と辟易する。


「……にゃん次郎は手のひらサイズー」


 反対側からはダボダボのパーカー姿のムサシが寝ぼけ眼をこすりながら出てきている。


『わかりました。魔王様』


 2人の巨人と巨大な柱はやたらにいい声で同時にそう答え、徐々に小さくなり横並びの3軒の家の中にそれぞれ収まった。。


「ったくいきなり出てきてなんなの……ってイズミ、ムサシ!? ……ど、どうしたの二人とも今帰ったの?」


「ヤエー、イズミー、帰ってきたら空から喋る剣が降ってきてねー。えーとにゃん次郎になったの」


 ヤエは、両手で薄い胸を抑えてモジモジしている。

 イズミとヤエは隠し事をしてるように気まずそう。

 ムサシは袖をブンブンと振り無表情ながらも嬉しそう。

 ご近所ならではのいつもの光景。


「そうかぁにゃん次郎かぁ。ムサシはあのネコのマスコット好きだもんなぁ。よかったなぁ。ヤエのとこもおじさんおばさん社員旅行だろ? 子供置いてくなよな」


「ほ、ほんとよねー」


 頭に「?」を浮かべ2人の視界に混ざろうと背伸びするムサシと、明らかにぎこちない笑みを浮かべるイズミとヤエ。


「そ、それじゃあ俺は家に帰るから」


「わ、私も帰るわ。ムサシも帰った方がいいわよ、寒いしね」


「……わかった。にゃん次郎~~」


 イズミはヤエとムサシがそれぞれ家に戻るのを見送る。

 彼としても幼馴染だからではなく、ひいき目を抜きに二人がカワイイのは理解している。


 ジャージですら着こなすスレンダーなヤエとアイドル的な幼い顔立ちのムサシ。

 そんな目立つ容姿のヤエと協調性のないムサシだ。

 普通はやっかまれ学校でイジメられそうだが、クラスメイトの女子と容姿が違いすぎて逆にチヤホヤされている。


 二人に良くされるイズミも、入学当初こそ多くの男子に嫉妬と羨望の眼差しを向けられていた。

 しかし、結局ただのサンドバッグ兼マスコットとしてしか見られてないと周知されて今や空気のような存在だ。

 高校生の幼なじみの三人組、性格こそ東大の入試試験ばりに難解な問題が山積みだが、顔もスタイルも文句なし。

 当然、イズミたちも年ごろの男女、幼なじみとの恋愛感情の話にもなる。

 同級生にも未だに聞かれるが、イズミにその気は一切なかった。

 理解いただけるだろうがこの男、黒ストッキングを履かない人間を恋愛対象にできないのだ。


 そんなイズミに、ついに理想の異性が現れたのだ。

 出会いは少々刺激的だったが、黒ストッキングが最高に似合いそうな青い髪の美少女。

 イズミはふと、ゆるみ切った頬を手でほぐしドアに手をかける。


「よし!」


 顔を精悍に整えドアを開く。


「あ、魔王様おかえりなさい」


 甘い声がイズミを迎えた。

 青い髪に白い肌、それもシーツ一枚ほどの薄衣で大胆に露出している扇情的な装いの美少女。

 イズミにとって理想の少女は、焼け残った申し訳程度のフローリングに座ってイズミを出迎えた。


「…………」


「あれ? どうされたんですか魔王様」


 自分の妄想の限りを詰め込んだような美少女だ。

 完璧な美少女を前にイズミは硬直した。

 体は動かないが、脳内では男子高校生ならではの闊達な想像が駆け巡っている。


「魔王様ーー? 魔王様ーー?」


「ふーむ」


「あ、魔王様脱皮……覆面取られたのですか? 精悍なお顔立ち! いやぁさすが魔王様」


「110……80……60」


 話しかけてくるドラゴンの少女をよそに、イズミはボソボソと小さく呟く。


「ま、魔王様? な、なんの数字でしょうか」


「40も……いや、やはりこいつは細いし濃いめのコントラストが……」


 ドラゴンの娘の声は、イズミの耳には届いてない。

 すでにイズミの頭では「リメンバーノーパンストッキング」だの「裸エプロンならぬ裸パンスト」などの目も覆いたくなる痛々しい想像に忙しい。

 眉間にしわを寄せて難しい顔をしているが仕方ない。

 男はエロイ妄想をする時こそ、哲学を温める賢者のような表情をするもの。

 しかし、それに比例するようにドラゴンの娘は顔が青くなっていく。


「ま、魔王様? まさか先ほどミスをした私のことを40分割くらいの細切れにしようとかされてます?」


「くっ……こいつは今まさしく俺の理想の女神、彫像のように完璧な姿。しかし、色が濃すぎるとパンティ部分とストッキング部分との濃淡の差が楽しめないなぞ、それは俺の本意ではない」


「め、女神のことを……魔王様の慧眼からは逃れられませんね」


 独り言を続けるイズミにドラゴンの娘は崩れるように膝をついた。

 イズミは残念な変態だが、このドラゴンも残念な天然キャラなのかも知れない。


「申しわけありません魔王様! けして、けっして私もたばかろうとしたわけではないのです」


 頭を下げ、涙ぐむドラゴンの娘。

 彼女の必死な様子は事情を知らなくとも見ればわかる。

 分かるものだが、それはそうと美少女の頭を下げた際のうなじはそういう趣向がなくともグッとくる、などとイズミは彼女の白い肌の目立つ背中に目を滑らせる。


「魔王様方の眷属たる我々はあの忌まわしき転生を司る三女神とその傀儡たる勇者に窮地に追いやられ、今や敗色も濃厚と……」


「やはり肌の白さもストッキングの黒もバランスがあってこそ映えるものだからな。濃すぎるのはよくない……よし、少し薄めるか」 


 改めて少女の肌の白さを考慮したイズミの決意に満ちた眼差し、それを見たドラゴンの娘は大粒の涙を零した。


「ま、魔王様……う、薄めるとは、つまり御自らあの女神どもの退治を……我々の様な者にまでそのような慈悲深いお言葉嬉しゅうございます!!」


 普通は勘違いともわかるだろうが、そもそも家屋を燃やして出てくるようなドラゴンに普通もないだろう。

 すっかり感極まってしまっている、本当に残念な思考をしている。


「やはり60デニール、微かに肌色が見えることで尻のあたりのほどよく伸びてもそれなりの濃さを保つ60デニールを貴様にくれてやろう!」


「ロクジー・デニル……それが現世での私の新しい名前なのですね……ありがたき幸せ!」


「ん? そうかそうか貴様も嬉しいか! 俺もピッタリだと思ったぞ! ふふ、ふははは、ハハハハハァ!!」


 こうして夜空の下、喜色満面のイズミとドラゴンの娘改めロクジー・デニルはお互いに理解を深めた。

 どうにもお互い一方通行に見えるが、世の中得てしてそういうものだろう。

 高笑いを続けるイズミとキラキラと顔を輝かすデニル、おそらくこの二人にそういう悩みはなさそうだ。


「さて、それじゃあまずは!」


 イズミはポケットの黒ストッキングに手をかける。

 生徒会長からもらった黒ストッキングだが、これも履いてもらうことが望みだろうとデニルに渡すことを決めた。

 思えば短い付き合いだった。

 しかし、この選択は誰もが幸せになると理解していた。


 ―― ピンポーーン


 玄関にインターホンの音が鳴り響く。

 来客だろうか?

 興奮するイズミは腹立ちまぎれに無視をする。


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