第13話 勇者よ還れ
「そういえばまだいたんだっけ」
挑発的なイズミの言葉に怒ったのか、後輩警察官は黙ったまま大股で距離を詰めてきた。
イズミは不敵に笑いつつも、ゆっくりと仙水の影に隠れる。
程よく他人に押し付けようとするイズミにヤエは頭を抱えていた。
「荒川さん、自宅の敷地だからと言ってあまり騒がれないでください! ご近所から苦情が来てますので!!」
「は? ……はぁ、うん」
胸を張った警察官からの意外な一言にイズミは頷くしかなかった。
その返事に警察官は満足そうに微笑む。
「皆さんの話も聞こえてましたし、事件性も無さそうだからね。それじゃ、僕らは失礼するよ」
そう言って、二人の警察官はさっそうと敷地から出ていった。
後方では先輩警察官が無線で「事件はなかった」と報告をしている。
「な、なんで!? 戦う気じゃないのか」
道路の彼らに向かってイズミは疑問を投げかけた。
「……そうだな」
いつのまにやら警察の制服に代わっていた二人の警察官は作業を止めた。
「君たちはどうやら害はないようだし。俺たちだって、何も誰でも戦いたいわけじゃない。それに……民事であれば我々お巡りさんは関われないのさ!」
かっこいい物言いだが、要は関わりたくないからさっさと帰りたいと言ったところだろう。
警察官がそれでいいのか、とイズミは思ったが、これ以上関わりたくないと諦めた。
「それから」
彼らは自転車に跨ってイズミらに振り返る。
「もうすぐ……ボーナスの時期だから」
ボーナス、素敵な響きだ。確かに下手な騒ぎはボーナスの査定に響くのだろう。
ヤエは、仙水の影に隠れるイズミを見たときより苦々しい顔をしていた。
「じゃあな!」と、いい笑顔でお巡りさん達は走り去っていった。立ち漕ぎで……「制服着てても二人はむちゃくちゃタフだし」とアニソンを口ずさみながら。
「あれなんだったの?」
「転生して帰ってきた女神の使徒の警察官」
ヤエの質問にイズミは仏頂面で返す。
「じゃ、あれが仙水の言ってた敵てヤツ?」
「そうですね当主。まぁ……あれらも小物に過ぎませんが」
イズミは仙水とヤエの会話に「そうだろうな」と相槌を打つ。
確かに不思議な力だし、地面の抉られた庭先を見ても軽く爆発物ほどの威力はあった。
人間として見ればかなりの脅威だ。
しかし、デニルの見せた魔法やムサシの出した巨大なゆるキャラの攻撃に比べれば鳩に豆鉄砲、いやゴジラに水鉄砲ほどの戦力だろう。
あんなのがいくら居てもデニルの言ってたほどの脅威になるとも思えない。
そうなると、もっと強い転生帰りのヤツがいるのか、それとも三女神自体がそうとうに強いとイズミは考えた。
「小物ってことは、もっと強いヤツらがウジャウジャいるのね」
声を弾ませたヤエは妙に嬉しそうに目を輝かせている。
「そりゃそうよね! 異世界からの帰還者だっけ? 魔法を使ったり吸収だったり神様より強いとかなんでしょ?」
「そんなのの攻撃片手で弾くお前が一番ばか……化け物だよ」
おどけて見せるイズミの背後で、ヤエの右足が鞭のようにしなった。
「私たちこんなにか弱いのに、怖いわ」
軽口の代償に、ヤエの回し蹴りを腹部にもらったイズミは地面にうずくまっている。
その横で、ムサシは楽しそうににゃん次郎のぬいぐるみをイズミの頭に乗せて遊んでいる。
「まぁ、まぁまぁ当主、落ち着いてください。それから、当主の言う奴らの力はあくまでも向こう側、こちらの世界から言う異世界で行使されるものです」
「え? そうなの?」
少し残念そうなヤエの言葉に「このアマゾネス」とイズミは小さくこぼす。
直後にイズミの頭はヤエの足の下に敷かれていた。
「あちらの世界では大抵女神どもの力で、ステータスやスキルといった補正で戦えますからね。実際はこちらに返ってきたらほとんど現代兵器ほどなんですが……」
『ですが?』
聞き返すイズミの声が地面から微かに漏れ聞こえる。
「その……数が……」
「まさか百人もいたりしないでしょーね?」
「そんなにいたら転生のありがたみねーな」
「……んにんです」
仙水の小さい声に、『ん?』とイズミとヤエが聞き返す。
「……一万人です」
「いち!!?」
「まん!?」
「にーん」
イズミとヤエの驚きにムサシが乗っかるが、さして状況を理解は指定無さそうだ。
それにしても多い。
転生者だけの村でも作れそうな数。
確かにそれだけ居れば、たまたま来たお巡りさんが転生者なんてのもありうるのかも知れない。
「なんでそんな多いんだ!?」
「本当よ! 限度ってもんがあるじゃない」
「私共に言われましても……どうも死者や疲れた人間などを片っ端から勧誘してるようで、向こうに居ついた者も多いようですがそれでも帰ってきた帰還勇者がおそらくそれくらいかと」
確かに異世界転生は流行ってる。
流行ってはいるが、さすがにインフレが過ぎるとイズミは頭痛を覚えた。




