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第1話 それぞれの道、それぞれの個性、それぞれのフェチ

挿絵(By みてみん) 



 どこまでも続く果てのない暗闇に、山を超えて雲を突き抜ける、岩壁のような樹皮を備えた世界樹と呼ばれる荘厳な姿の樹木が佇む。

 その巨大な樹木が1つの卓を囲むように10本も並ぶ様は異様異質であったが異常ではなかった。

 異常とは、今まさに起きているその樹木が一様に揺れ折れんとする様でも、それが世界の終わりすら連想するほどの地震を起こしてることでもなかった。

 今起きている異常とは、その世界樹に当たり前のように腰をかける存在が居る……ということだ。

 それも10本それぞれに神のように尊大で、悪魔のように悠々とした姿形もまるでちぐはぐな集団。


 その中で一際明るい、鳥を思わす光の羽を生やす球体から声が響く。


「飽きた……な」


 世界樹の幹より太い胴の蛇があくびを噛み殺し頷く。


「まったくだ……ありとあらゆる善もありとあらゆる悪も行い、惰眠を貪り歴史を何万と繰り返し那由多の先、不可思議を超えたが我ら魔王はそれぞれに既に神を超えてしまった」


 くだを巻くような蛇の喋りに巨大石像のような存在が同調する。


「我らで殺し合いを楽しんだのもはるか過去のことか。今では興も削がれ蒙昧であるとしか思えぬ」


 石像の言葉にくつくつと笑うのは、獅子の頭を中心に百に近い獣の頭と無数の手足を備えた獣。


「岩窟のは頭が硬ぇなぁ。そう言えば最近は俺らが作った女神族が転生者なんてのを使って俺らの暇つぶしになってくれてたが、それも千を超えた辺りからハラハラもドキドキもしなくなっちまった」


 獣の対面に見える霧の塊と汚汁を零す腐肉の塊が反応したようだが、それらは顔や体と言える部位も存在せず生きてるのどうかすら判じ難い魔王達だ。


「結局全員同じことの繰り返しよな……」


 細胞の一つ一つが刀剣でできたような白銀の鎧武者がぼそりと呟く。


 場の空気は重たく無言が支配する。


「それならば皆々様に提案が……」


 静寂に響いたしわがれ声は、身体にいくつもの色とりどりの球体とボロ布を纏った老人が発したものだった。


「なんだい魔導の魔王よ。今更我々に一体何を提案するというのだ?」


 蛇の質問に、老人の姿をした魔導の魔王はボロ布の下で小さく笑う。


「我々十王はそれぞれ最強にして至高、絶対の存在ではありますな…… しかし、なればこそ、なればこそ我々にはまだ成しえてないこともあるでしょう」


『……?』


 一同は首を傾げた。

 魔導の魔王は言葉を続ける。


「我らは強すぎ、それ故に孤高……つまり孤独が過ぎました。私はここで恥を承知で伝えたい」


 魔導の魔王の身に纏われていた球体、いや、周囲を巡る惑星が大きく震え爆ぜていく。

 しわがれた魔王の興奮はそれだけで周囲に伝わる。


「私は……私は……」


 これだけの興奮、何を伝えようとしているか……魔王らは息を吞み、続く言葉を静かに待つ。


「私は……恋愛がしたい!!」


 いきなりのこと、意外な言葉に一同は黒い空を揺るがす程の笑い声をあげた。

 その音量は、彼らの腰掛ける世界樹が付け根から裂けようとする程であった。


「はっははっ……いや魔導の、久々だ。久々にずいぶん笑わせてもろうた。女神を作り転生者で暇つぶしをするという提案に続き、貴様はいつも愉快よな」


 多頭を持つ獣の魔王がパイプオルガンさながらにそれぞれの頭から笑い声を上げる。


 しかし、ひとしきり笑ったところで十の魔王は静かに向かい合う。

 思うところがある、と言った面持ち。。

 そう、彼らは皆その醜さ、強さ、生まれにより常に孤高であった。

 それゆえ魔導の魔王が言うように、世界の作り直しなど飽きるほどに繰り返したが並の生活などは1度も行ったことがない。

 特に退屈しのぎの世界観測の中で常に見られたのは、子孫を残し次代へ繋げる生物の営み、ごく自然な原理、本能である。

 しかしこればかりは魔王達の遥か過去の記憶にも覚えがない……その過程における恋愛など概念としてしか理解していない。

 こと、それに夢を見、時に身を滅ぼし、時にそのために神にすら歯向かう人間などを魔王達は幾度となく捻り、屠り、その度に首を傾げた。

 恋愛とはなんぞや……と。


「それで……その、我らにそれが、行えるものなのか?」


 眼球を束ねたような全知の魔王がたどたどしく尋ねる。


「えぇ、しかし我々の魔力ほぼ全てを賭け、できるかできないか、人としてどの星どの時代どのように転生するかというギャンブルとなりますがな」


 魔導の魔王の不敵な言葉も終わり、光の球体は一層神々しく光を放ちだす。


「かまわん、我ら十王それぞれが生きるにも飽いていたところ。それほどの愉快乗らんわけにはいくまいよ」


「ならば」と魔導の王から浮かび上がった無数の光の輪が不規則に飛び回り、幾重にも重なる魔法陣を浮かび上がらせた。

 虹の様に幻想的な光を放ちながら広がる魔法陣に十の魔王がそれぞれに組み込まれた。


「願わくば、黒ストッキングを」


「望むはヒンヌーツインテを」


「我はチーレムを」


「熟女の垂れ乳を」


「おねショタ……おねショタ」


「無口なツンツンな先輩に」


「お、俺はニーハイに」


 それぞれの魔王が人の耳には理解出来ないような呪文を唱え、闇の中に消えて行く。

 最後に残ったのは光の球体、光の魔王であった。


「私……私は金蹴りされたぁぁぁああい!!」


 魔法陣は消え失せ、また巨大な世界樹は闇に立ち尽くす。

 何事もなかったかのように、静かに、正常に。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 長年生きてきてあれこれ沢山の経験を積んだ孤高の強者達。既に色々な経験を積みそろそろ飽きてきたところでまだ未経験だったのが「恋愛」。 目の付け所は中々面白いと思いまた。 [気になる点] 二話…
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