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終末のイデア  作者: ラウンド
2/6

空を舞って 戦って 笑いあって


 流星のように飛び回る二人の腕から、次々に雷光の豪雨が解き放たれていく。対する無人宇宙戦艦隊もまた豊富な火力と防御障壁でそれに応じ、本格的な戦闘へと突入した。

 放たれる雷光と光線とが交差し、その派手さが、戦闘という殺伐とした現実を、さながら舞台劇のように演出している。そんな中を流星のように高速で移動し続けるイリスとスノードロップは、エグザイラ二隻から轟く砲撃を掻い潜りつつ、艦体の持つ防御障壁の耐久力を削り取っていく。

 二人の腕から放たれる雷光が、エグザイラの、障壁を形作るエネルギーとの接触によって、耳朶の中身を絞り上げてくる様な歪んだ音を発している。


 交戦開始から数分後。少しずつ艦体への被害を許し始めた艦隊側は次の一手を打つ。

 艦体下部の一部がハッチのように開き、中から無機質な色をした人間大の、人型飛行兵器が無数に放出された。次々に背部の主翼部分を展開し、飛行形態に移行していく。

 イリスたちは回避機動に移りつつ、様子を見守る。

「フェアリーが出てきたねー。数は合わせて三十機みたい」

「了解。数は…相変わらず多いわね」

 スノードロップは放出された人型飛行兵器をフェアリーと呼び、少しだけ艦隊から距離を取る。イリスは自分の視界上部に重なるように表示されている電子地図を確認すると、スノードロップとは反対側へと移動し、飛来してくるフェアリーの群に向き直った。

「それでは、いつも通りに引き付けて撃墜しましょうか」

「はーい」

 放出から襲来してくるまでの一連の様子を見届けた二人は、回避機動を止め、再び攻撃機動に入った。


 フェアリーは、その小型の機体サイズによる良好な運動性能と高い機動力を生かしつつ、イリスたちを囲むように展開しようとする。しかし、イリスたちがそれを上回る機動力で群の中央を切り抜けようと動くので、上手く包囲陣が敷けずに、結局乱戦状態に突入した。

 ただ、包囲陣が不発に終わった後のフェアリーたちの対応も、また速かった。数の利を生かすために隙間を開けつつ、腕に内蔵された光学速射砲をばら撒くように撃ち始める。

「なるほど。多少は戦術というものを使えるのね」

 通常であればまず回避など不可能な弾幕を前にイリスは、焦りどころか余裕のある微笑をすら浮かべていた。

 光の弾雨が彼女に向けて飛翔し、降り注ぐ。そうしてそのまま彼女は八つ裂きにされる、はずだった。

「さて…と」

 次の瞬間にフェアリーたちが視界に収めた映像は、鋭角的な機動と曲線的な機動とを織り交ぜた、まさに物理法則を無視した曲芸のような回避機動を連続で行い、光の尾を曳きながら目の前に肉薄してくるイリスやスノードロップの姿だった。

「隙あり!」

 自身をねじ込むように食らいつき、そして。

「もらったよ!」

 群の懐に飛び込むことに成功した二人は、腕に装備している光学砲撃装置にエネルギーを集束。先ほどと同じ要領で雷光による攻撃を開始した。

 しかし、ここで二人が披露したのは、短距離に放つ雷撃をまるで鞭のようにうねらせて攻撃する、変則的な近接戦闘術であった。加えて、二人の曲芸染みた戦闘機動によって攻撃は変則さを増し、四方八方から雷撃の鞭が襲い掛かるような状態になっており、予測困難な角度から打たれたフェアリーが、為す術もなく爆散ないし焼き切られていった。

 フェアリーは、確かに高い運動性や機動性を持ち合わせていたが、集団の中を不規則に暴れまわる雷撃の前では、それを生かせなかったからだ。

「エグザイラからの支援砲撃に注意だよ!イリス!」

「分かっているわ。既にこっちに砲口が向いているみたいだから…。そっちも気を付けなさい、スノードロップ」

「りょーかーい」

 三分の一程度のフェアリーを撃破した二人は即座に群を突っ切るように行動。エグザイラから適度に距離を取った。直後、無数の光学弾が、二人が移動前に居た場所を貫くように通過。その余波に巻き込まれることを嫌ったらしい一部のフェアリーは散開するも、巻き込まれた機体が放電の後、煙を噴いて墜落していく。

 これが、その後の戦局を決定付けた。

 戦力の半数を失ったフェアリー達は、散開後に、すぐさまイリス、スノードロップを分断して母艦への攻撃を妨害するように動くものの、数が減ったために十分な包囲網を敷けず、エグザイラへの攻撃を完全には阻止できなくなっていた。

 イリス、スノードロップの両名は、雷光の鞭による連撃で、回復しつつあったエグザイラの防御障壁への負荷を、再び許容限界点にまで引き上げていく。聴覚を絞り上げるような歪んだ音に猛烈な放電現象による割れた音が重なって、戦闘区域は騒然となった。

 その最中でも、イリスたち二人とフェアリーとが描く戦闘機動は、相互を排除しようという明瞭な意思表示を続け、それはイリスたちがフェアリー達を圧倒し、エグザイラの撃沈を為すまで続くのだった。


 そこから十数分後。

「戦闘、終了ね」

「いつも通りだったねー」

「そうね。いつも通りに煩い戦闘だったわ」

 戦闘を終えた二人は、撃沈したエグザイラやフェアリーの残骸をマテリアルに分解し、回収する作業に入っていた。

 彼女たちの性能を管理している人物、通称“博士”が作った外部装置を腕に着け、指先で残骸を区切るようになぞると、その部分から一定範囲までが小さな正六面体に変換、圧縮されて、博士の元まで転送されるという仕組みになっている。回収されたマテリアルは多様な物品の製造、修繕に用いられる。

「これで四分の一、と…」

「今回は二隻分だからねー。色々余裕ができるかも?」

「食料も資材も、多く有って損はないからね」

 背中の翼を動かし、脚部の推進装置を使いつつ残骸の周辺を移動。マテリアルとして回収していく。巨大だった艦体は徐々に小さくなり、大量にあったフェアリーの残骸もまた少なくなっていく。

「……」

 当たり前の事ではあったが、イリスにはその事実が、どこか寂しく感じられた。


 一時間後。作業を終えた二人は、おにぎりを食べた湖畔で休息を取っていた。

 二人が戦闘中に見せていた装いは消え、完全に人のそれに戻っている。

「終わったねー。デカい分、労力もデカい!」

「そうね。でも収穫も“デカい”ということね」

 そして元に戻った手で、金属製のボトルから水分のようなものを摂取していた。

「この“サイダー”っていう飲み物…。不思議な飲み物ね。発泡性で、飲むと気分が爽快になったように感じる」

「でしょー?最近ハマってるんだ。博士も好きみたいだし、色々なフレーバーが楽しめるよ」

「ふぅん?」

 二人ともが一口ずつ“サイダー”を飲み、息を吐いた。

「この後、どうしよっかー。回収したマテリアルで何か新しいものでも作る?」

「そうね…。新しいEマテリアル…違った。“料理”を開拓するのも悪くないわね。アーカイブを探ってみましょうか」

「おっけー!決まりね!そんじゃ、早速行こうよ」

 そう言うと、スノードロップは立ち上がり、勢いよくイリスの手を引く。

「ちょっと…、急に引いたら危ないわよ。そんなに急がなくても…」

「にひひ。時は金なりって言うじゃん!急がないと損だってことだよ!」

「それ博士の請け売り…って、引っ張らないの。クロースマテリアルが伸びるわ。ちょっと、聞いているの?」

「ふっふー」

「こら、スノードロップ!」

 そのまま二人は、何処か楽しそうに、地下鉄へと降りる階段のような場所へ向けて、走っていくのだった。


一先ずここまでとなります。続きはお待ちください。

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