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第三話「ドラゴンの谷」

「あら、お帰りミミル。見ないうちに大きくなったわねぇ」


 入るとすぐ笑顔が眩しい女性がミミルに抱きついてくる。夕日のように明るい長い髪の毛を一本に束ねており、身につけている服はよくある村人のものだが、女性にはどこか気品のようなものがある。


「お、お母さん。そこまで変わってないよ。それに、皆の前だから抱きつくのは」


 今日からミミルの家に全員で泊まることになっている。ミミルの家は他のところと違いどこか豪華さがあるというか、特別製の家のように感じる。

 ここには、ミミルと母親に祖母の三人で暮らしていたというが、それにしてもまだ部屋が余っているほど。やはり、巫女という特殊な存在であり、元はもう二人ほど暮らしていたからなのだろうか……。


「あらあら、ごめんなさいね。久しぶりに会えたものだから、嬉しくて。皆さん、ご挨拶が遅れました。私、ミミルの母親でマリアといいます。そして、あそこで野菜を切っているのが祖母のソーナです」

「初めまして。我輩はシルビアと言います」

「あなたが、そうなのね。うん、手紙で聞いていた通り可愛い女の子ねぇ。ミミルったら、入学してすぐに」

「お母さん! そ、それは言っちゃだめ!」


 よほどシルビアに聞かれたくないような内容を書いたのか。マリアを邪魔者を退けるように台所まで押していくミミル。そして、あまり手紙のことは言わないようにと伝え戻ってきた。


「ミミルちゃーん。なんて書いたの?」

「ひ、ひみちゅでしゅっ!?」

「わー、めっちゃ噛んでるー! 可愛いー!!」

「うぅ……!」


 よほど恥ずかしいのか、一度シルビアを見るも赤面してしまい視線を逸らす。入学してすぐ、ということはシルビアと友達になったことを報告したのだろうか? ならば別に恥ずかしがるようなことではないとシルビアは考えるが、彼女の様子から考えるに書いた内容がいけなかった、ということだろう。


「ミミルや」


 と、祖母のソーナが近寄ってくる。


「手紙にあったが、あの谷へ行くんだね?」


 ソーナの一言に、恥ずかしがっていたミミルの表情が一変。真っ直ぐ祖母の顔を見て、力強く頷いた。


「そうかい……ユネも、行くんだね」


 続いてユネにもソーナが問う。すると、一瞬考える素振りを見せたが、すぐ首を縦に振った。


「なら、しっかりと食べて寝て旅の疲れを回復しないとねぇ。今日は、グオット村特製のスタミナ鍋だよ。すぐできるからたっぷり食べていっておくれ」


 シリアスな雰囲気だったソーナだったが、二人への問いかけが終わるとどこにでもいる物腰が柔らかい老人へと変わった。

 

「明日いく予定の噂の谷。随分とやばそうなところのようね」

「うん。だって……ドラゴンがいた谷だから」




・・・・・☆




 グオット村から東方へと進んだ山中。

 奥へと進むと、開けた場所に到着する。

 そこは、底が見えないほどの深く谷。シルビア達の目的のひとつであるこの谷は、大昔からドラゴンが住み着いていると言われ続けていた谷。


 住み着いていると言われているドラゴンとは、グオット村にある石像のドラゴン。

 つまりは白龍シュガリエだ。

 ミミルの右目に封じ込められているドラゴンが、ここに居た。いったい何を調べるのかは、シルビアも聞かされていない。

 ただ谷の底へ行けば何かがわかるかもしれないと。


「久しぶり、だね」

「はい。また来ることになるとは思いませんでしたが……」


 谷の底を見詰めながら二人は、懐かしむように呟くが、その表情はどこか緊張しているように見える。


「それで? どうやって谷の底に下りるのよ。見たところ相当深いようだけど」

「飛び降りるとか?」

「シャリオちゃんさっすがー」

「そんなわけが」

「はい、飛び降ります」

「……え?」


 さすがにそんなことはないだろうと断言しようとしたが、ユネの迷いなき言葉にピアナは動きを止める。


「う、そよね?」


 これはいつものからかい。そうに決まっているとピアナは、ユネに問いかける。しかし、ユネは首を横に振る。


「嘘じゃありません。本当に飛び降りるんです」

「えー……そ、それって魔術で体を浮かせながらってこと?」

「いえ、何もせずにそのまま飛び降りるんですけど?」


 それはただの自殺行為なのではとシルビアも思ってしまったが、ユネがそんなことをするはずがない。何かこの谷に謎があるのだろう。


「大丈夫だよ。私と一緒に飛び降りれば」


 と、次はミミルが言い出す。

 

「つまり、ミミルちゃんが持つドラゴンの力が作用して何かを起こす、てことかな?」

「はい。この谷には、私に宿っているシュガリエの住んでいた空間があります。シュガリエの力が目覚め始めている今、力が共鳴し住処へと入れる、と思います」

「お、思いますって」

「ご、ごめんね。ここに来るのは数年ぶりだから。でも……感じるの。シュガリエが反応してる。大丈夫!! きっと!! たぶん……」


 自信満々に言いたかったミミルだったが、やはり不安なのか最後に余計なことを言ってしまう。


「ともかくチャレンジですよ! それに、何かあった場合ナナエさんがどうにかしてくれます!!」

「ふふん! まっかせなさい!! 谷の底に激突しそうになってもあたしが空間転移ですぐ救助してあげるから!!」


 確かに、ナナエの空間転移はすごい。安心もできる。だが、どうしても底が見えない谷を見てしまうと不安になってしまうピアナ。

 が、いつまでもこうしていては何も変わらない。


「わかったわ! 私も覚悟を決めた! こんなことで臆してちゃ、冒険者になんかなれないわ!!」

「おー! ピアナちゃんかっこいいー!!」

「よっ! さすがピアナです!!」

「さあ! 飛び込むわよ!!」


 こんなことで怖がっている場合じゃないと、ピアナは我先にと足を動かす。

 

「ぴ、ピアナちゃん! 一人じゃだめ!」

「とと、そ、そうだった」

「もうせっかちですねぇ」

「うっさい!!」

「では、ミミルにくっついて全員で飛び降りる、ということでいいのであろうか?」


 ずっと見守っていたシルビアがミミルの手を繋ぎ問いかけると、静かに頷く。ユネ達も、シルビアに続くようにミミルの手に肩に腰にと触れ準備は万端な状態に。

 後は、飛び込むだけだ。


「……」

「大丈夫だよ、ミミルちゃん。もしもの時はあたしに任せて」

「……はい! では、行きます!!」


 意を決したミミルは、眼帯を外し飛び込んだ。

 体全体に襲い掛かる浮遊感。

 どんどん底の見えない暗闇へと落ちていく。そして、丁度暗闇へと突入しようとしたところで、ミミルの右目が輝き出す。


「こ、これって!」

「空間の歪みを感知! 転移するよ! ミミルちゃんにしっかり掴まって!!」


 シルビア達が落ちていく先。

 そこには、確かに空間の歪みがあった。


(あの先にドラゴンの住処が……!)


 勢いは止まらず、シルビア達はドラゴンの住処があるであろう空間の中へと……吸い込まれていった。

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