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第一話「グオット村へ」

 無事ウェルッタから馬車で出発したシルビア達は、真っ直ぐグオット村へと向かっている。

 グオット村は山々に囲まれた場所で、深い森林地帯を抜けなければならないそうだ。ただし、この辺りはあまり魔物が出没しないらしく、森林地帯で気をつけるべきは野生動物とのこと。


「いやー、故郷に帰るのも数ヶ月ぶりですねぇ」

「うん。一応手紙を出したけど……なんだか帰りづらいなぁ」


 馬車の中で二人はずっとそわそわしていた。それもそのはずだ。速達鳩を使って手紙を出したとはいえ、二人は卒業するまで故郷へと帰らないと約束していた。

 それが気になることがあるからとはいえ、帰宅するのだ。いったい何を言われるのか色々と考えているのだろう。


「大丈夫よ。私が思うに、あなた達の親は照れ隠しで言っただけだと思うわ。今頃絶対手紙を貰って歓喜しているわよ」

「さすがツンデレ! 照れ隠しに関してのエキスパート!!」

「な、なによツンデレって」

「それはねー、ごにょごにょってな感じの人だよー」

「なっ!? 誰がツンデレよ!!」

「きゃー、ツンデレに暴力振るわれるー」


 なんだかんだで二人も大分打ち解けているようだ。最初は、ナナエのことを敵視していたピアナだったが、今のやり取りを見れば誰だって距離が縮まったと理解できる。

 

「いいかね! 照れ隠しですぐ暴力を振るうのはよくないよ! あたし的な理想のツンデレは、こう顔を赤くしそっぽを向いたり、想い人が見ていないところでものすごく嫉妬して妄想の世界へと」

「だーかーら! ツンデレって言うな!!」

「ナナエ。そのぐらいにしておいてほしい。ピアナが可哀想だ」

「べ、別に虐められてなんてないわよ!」

「えへへ。ピアナちゃんが可愛くてつい」

「そ、そんなことを言ったって簡単には許さないからね!! ふん!!」


 シルビアの説得で、なんとか激しい喧嘩には発展しなかった。ナナエの言い分もわからなくないが、ほどほどにしてほしいものだと眉を顰める。


「あれ、絶対許してますよね」

「お? ユネちゃんもツンデレのことをわかってきちゃってる?」

「ツンデレの意味はよくわかりませんが、ピアナのことは結構わかってきちゃってますよ。ほら、今髪の毛をくるくる弄ってますよね? あれ、嬉しい時にやる仕草なんですよ」

「おー、それはいい情報を手に入れちゃったねぇ、脳内メモ脳内メモっと」


 馬車の中だと、やることと言ったらカードゲームや会話程度。

 それか窓から景色を眺めることだろうか。

 なにやらひそひそと怪しい会話をしているユネとナナエが気になるが、シルビアは窓から見える景色へと目を向けた。


 まだウェルッタを出て間もないため、海が見える。

 どこまでも続く青い地面。

 この世界でもっとも広い面積を誇っていると聞いたことがあるが、実際はどうなのだろう? ボルトバだった頃は、船で海を渡り、釣りをし、襲ってきた海の魔物と戦った。


 地上と違い逃げ場が少ないうえに、落ちてしまえば足が着かない海の中では動くのも難しいだろう。闘気や魔力を足下に纏わせれば海の上だって踏ん張りがきく。だが、それだけずっと闘気や魔力を垂れ流しにしなければならないため次第に疲労が溜まってしまう。

 そのためいまだ海の上での戦いは、苦難を強いられる。

 浜辺で遊ぶ者達も多いが、いつ魔物が襲ってくるかわからないため色々と周囲への警戒は必要不可欠だ。


「海かー。わたし海で遊んだことないなー」


 海を眺めていると、シャリオもひょこっと隣から景色を覗く。


「では、今回の目的が終わったら皆で遊びに行こう」

「え!? い、いいの!?」


 わかりやすくぱあっと明るくなるシャリオの頭を撫でながら、ユネ達を見る。


「海ですか。そういえば、ユネ達も遊んだことなかったですね」

「私もそうね。そもそも海なんてただ広いだけの水溜まりでしょ?」

「そんなことないよ! 海! それは夏の風物詩! 水着! 美少女!! ポロリもあったり!!」

「ポロリ?」


 また異世界の言葉だろうか。ナナエのテンションの上がりようから考えるに、相当楽しいものだろう。


「というわけで、今回の用事が終わったら皆で海だー!」

「まったく……しょうがないわね。ま、別にいいけど。付き合ってあげるわ」

「当然ユネ達も!」

「楽しみだね、海。確か、海ってしょっぱいんだよね?」

「そうなの!?」


 用事が終わった後の予定も決まったことで、シルビア達は残りの長期休みがより楽しみになった。皆で海を思いっきり楽しむためにも、用事を早く済ませなければ。

 そんなことを思っていると、ついに森の中へと馬車が入り、海も次第に見えなくなってしまう。

 あー……と残念そうにするシャリオだったが、すぐに元気を取り戻す。いずれ海へ遊びに行くのだ。楽しみが待っているのであれば、一時の別れなどどうってことはない。

 シャリオも大分成長してきているようだ。


「この森を抜ければグオット村なの?」

「いえ。この森を抜けた後、もう一度別の森へと入ります。そこを抜ければグオット村です。二日と言いましたが、何事もなければ一日半。もしくは一日で到着するかもです」

「何事も、ね。そう言うと大抵なにか起きるわよねぇ」


 もう慣れてしまったかのように、余裕の表情を見せる。


「むしろ起こってほしいんじゃないのー、ピアナちゃーん」

「ま、まあ起こらないのに越したことはないけど。やっぱり私も冒険者志望だから」

「刺激が欲しいってことですかー」

「べ、別にー……」


 本当はそうなのだろうが、そっぽを向いてしまう。とはいえ、ピアナの気持ちはわからなくもないとこの場に居る全員が思っている。

 平和なのが一番だが、自分達は冒険者志望の生徒だ。

 いずれは立派な冒険者になって、ギルドに入り、パーティーを組んで、危険地帯などに冒険をすることになるだろう。とはいえ、自分達はあくまで冒険者見習い。あまり校内で無茶をするのはよくない。


(……とはいえ、なんだかんだ無茶をし続けているような気がする)


 フラッカへ向かう前の巨人戦、フラッカでのゾンビ飛竜撃退、黒い靄との戦闘……もはや冒険者見習いとは思えないほどの体験の数々。

 ユネ達もシルビアと共に数々の体験を得て確実に成長している。まだボルトリンに入学して数ヶ月だが、二年生にも引けをとらないはずだ。


「さて! そろそろ一勝負しようぜー!!」


 森に入ってしばらくしたところで、カードの束を取り出すナナエ。それを見たピアナは明らかに嫌そうな表情をして、息を漏らす。


「嫌よ」

「えー!?」

「だって、あなたとやると賭け事するじゃない」

「賭け事をしないと楽しくないじゃん!」

「子供の前で賭け事は止めなさいって言ってるの」

「あたしだってまだ子供だじぇー!! ほりゃー! カードを配るぞー!!」

「ちょっ!? 乱暴に投げるんじゃないわよ!? カードって武器にもなるのよ!?」


 馬車の中は騒がしかった。御者が苦笑するぐらい。

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