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第二十八話「次へ向けて」

 フラッカ襲撃から二時間後。

 なんとか黒い靄全ての排除を終えた。ナナエも、靄を操っていたと思わしき老婆を捕まえたとのこと。老婆は、以前ガゼムラでオルカ達に闇の魔力を与えた張本人。

 色々と事情を聞きたいところだが、シルビア達はさすがに疲労が溜まりそれどころじゃなかった。


「あー……疲れた」

「まさか、街中を走り回ることになるなんて……」


 黒い靄を排除した後、状況整理や残党がいないかと、色々やることが多かったため休み暇がなかった。しかも、シルビア達は今回の襲撃にいち早く動き、住民の救助などを率先してやってくれたことを感謝され、もみくちゃにされた。

 自分達は疲れているため早く休みたかったが、人々の感謝を無下にはできないと丁寧に対処していたところすっかり日が暮れていたのだ。


「感謝されるのは嬉しいけど、休んでからにしてほしかったわ……」

「その割りには、嬉しそうでしたよねピアナ」


 もはや起き上がることもしたくないと、ベッドにうつ伏せになりながら会話する少女達。


「わたしもさすがに疲れたー」

「今日は、我輩のせいで無茶をさせてしまったからな」


 もはや瞼が閉じかけているシャリオ。

 いつもは元気いっぱいな彼女だが、今回はかなり力を使い果たしたため限界なのだろう。よく頑張ったとシルビアが頭を優しく撫でていると。


「えへへへ……すぅ……」

「あっ、もう寝ちゃった」


 一瞬で、眠りに落ちた。


「それほど疲れが溜まっていたんでしょ。大丈夫よ、明日になれば元気いっぱいになってるから」

「子供の回復は早いですからねぇ……って、ユネ達も言って子供なん、です……けど……すぅ……」


 と、続いてユネまでもが眠りに落ちる。


「ふん。この程度で、眠るなんて……まだ、ま、だ……ね……」


 悪態をつきながらも、ピアナも眠りに落ちる。


「ミミルは疲れていないか?」

「うん……私途中から足手纏いになっちゃったから」


 そう言って、ぐっすりと眠っているユネの隣でミミルは眼帯を抑えながら呟く。ミミルは、あの通信の後多少はよくなったにしろ、リューゼがこれ以上は危険だと判断したため休んでいた。そのため、ミミルは住民からの感謝の言葉を受けても、微妙な表情をしていた。

 自分はそこまで働いていないのに、これほどの感謝を受けていいものかと。


「足手纏いなど、誰も思っていない。聞いたぞ? あれから怪我をしている者達を治療していたそうだな」

「……戦えない私にできることはそんなことしかないって思ったから」


 戦線を離脱したミミルは、リオーネ達のところへと預けられた。そこで、ミミルはリオーネと共に傷ついた人々の治療をしていたようだ。

 自分もまだ苦しいはずなのに。


「ところで、シルビアちゃん」

「なんだ?」

「あの時、シルビアちゃんと戦っていた人って何者? なんだか……ドラゴンの力を感じたんだけど」

「ああ。彼は、確かにドラゴンを。黒龍というものをその身に宿していた」

「やっぱり……秘湯で会った人、だよね?」


 あの戦闘はかなり激しかったため、多くの人々から見られていた。ただ動きが素早過ぎて何をしているんかほとんど見えていなかったようだが。

 もちろん監視塔が背後にあったため、監視兵達にも見られていたが、他と同じく激しい衝撃を起こっているようにしか見えなかったらしい。


 フラッカ中では、謎の少女と青年が空中で戦っていたという噂が広まっているようだが、合体していた姿だったためその謎の少女がシルビアとシャリオだということは誰も気づいていないだろう。そもそも空中であったのと動きは早過ぎたためどんな顔だったのかとはっきり見えていなかったとのこと。

 

「うむ。名前も名乗ってくれたアステオ=イズラ、と」

「アステオ=イズラ……」

(そういえば、主犯の名前を聞くのを忘れていた……とは今更気づいても―――ん?)


 うっかりしていたことに反省していると、ミミルの表情が強張っているのに気づく。


「どうしたのだ?」

「ねえ、シルビアちゃん。その人……本当にアステオ=イズラって、言ってたの?」

「ん? ああ、間違いない。高らかに名乗っていたからな。それがどうかしたのか? ……まさか、知り合いだったか?」


 ミミルの表情から察するに、彼のことを知っていると察するシルビアだったが。


「……まだ確証は、ない。でも」


 ミミル自身もまだ悩んでいるようだ。だが、何かしらの関係性はあるとはシルビアも思っている。アステオ同様に、ミミルの瞳にはドラゴンの力が宿っている。

 いったいどういう経緯でああなったのかはわからないが、アステオはシルビアにドラゴンの力があると勘違いしていた。となると、彼が感じていたドラゴンの力を持っていたのは……。


「む?」


 静寂に包まれていた寝室に、突然かんかんっと窓ガラスを叩く音が鳴り響く。しかし、振り向けばそこには誰もおらず、一通の手紙だけが窓の間に挟まっていた。


「……」

 

 罠がないか警戒しつつ、手紙をとってから周囲を見渡す。

 誰もいないことを確認し、シルビアは手紙を開いた。


「誰から?」

「……先ほど話していたアステオからだ。実はな、我輩が勝利すれば今回の事態を起こした主犯のことを教えてもらう約束だったのだ。あの時は、聞くのを忘れていたが」


 どうやらアステオは忘れていなかった。手紙という形ではあるが、約束通り主犯の名を教えてくれた。そこに書かれた名は。


「邪龍ベロリアナード……まさか、伝説の古代種の名が出てくるとは」

「邪龍……じゃあ、やっぱりあの時感じた気配は」

「ミミル。まさか、知っていたのであるか?」

「……確証がなかったから、気のせいだったと思っていたんだけど。あの黒い靄に、飛竜達を操っていた力はより強大で邪悪なドラゴンの力を感じたの」


 それが邪龍ベロリアナード。伝説の存在だと思われていた古代種が、実在し今この世界に牙を向いている。これは思っていたよりも、厄介なことになりそうだとシルビアは頭を抱える。


「ねえ、シルビアちゃん」

「なんだ?」


 口を開いたミミルは、先ほどと違いどこか決意を固めたような強い瞳をしていた。


「せっかく実家に招待してもらったのにごめんね……私、確かめたいことがあるの」

「……」

「どうしても……。だから、私……故郷に帰りたい。だから」

「なるほど。であるならば、準備をしなくてはな。とはいえ、明日はしっかり休み、その次の日に向かおう」

「え? ……あ、あのその言い方だと」


 予想外の言葉を聞いたとばかりにミミルは目を点にするが、シルビアは笑みを浮かべ話を続ける。


「もちろん、我輩もついていく。なに、こっちにはとっておきの移動手段があるではないか。なあ? ナナエ」

「え?」

「ふっ。今度はミミルちゃんとユネちゃんの故郷か……大丈夫! そこまで行った事はないけど、近くまでなら行った事があるから、そう時間はかからないと思うよ!! 移動なら任せろー!!」

「静かに」

「あ、はい」


 当然のように会話に参加するナナエ。ミミルが気づいていなかっただけで、ナナエはずっと部屋に居たのだ。静かに声を殺し、気配を遮断して。

 

「当然、ユネやピアナもついていくだろうな」

「……い、いいの? だって、せっかく実家に帰ってきたのに。長期休みなのに……」

「まだ長期休みは始まったばかりだ。さっさと用事を済ませて戻ってくればいい」

「そうそう。すでにフラッカは登録してあるからね。いつでも空間移動できるよ? それに、困っている美少女……もとい! 人がいれば助ける。人として当たり前のことだよ」

「さあ、そうと決まれば今日は寝よう。明日は、旅の準備をしつつゆっくりと休息をとろう」


 そう言って、ぱたりとシャリオの隣に仰向けに倒れこむシルビア。


「いい友達を持ったね、ミミルちゃん」

「……はい」

「ささ! 周囲の警戒はあたしに任せて、ミミルちゃんも寝たまえ。あっ、大丈夫大丈夫。寝込みを襲ったりはしないから。うん」

「あ、あはは……」


 最後の言葉がなければいい先輩だったのにと思いつつ、ミミルは目を閉じた。

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