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第二十六話「飛竜の大群」

 フラッカの監視塔内。

 監視兵と呼ばれる者しか入ることが許されない高き場所では、いつも以上に騒がしかった。普段は、フラッカ中を見渡し、暴力沙汰や口論など問題が起これば警備兵などに伝える。

 冷静且つ視野の広い者だからこそ、できる役どころだ。

 そんな監視兵の一人が、現在フラッカに起こっている異変よりも驚くべきものを発見してしまったようだ。


「か、監視長!! た、大変であります!!」

「なんだ! 大変なのはわかっている!! いいから、街中の兵士達に敵の居場所を随時連絡するんだ!」


 前々から黒い靄のことを知っていた監視長は、監視兵達と共に靄の出現場所を発見しては撃退へ向かうように随時に連絡をしている。

 無駄な話をしている暇はないほどに忙しいのだ。


「監視長!! お、お聞きください!! 本当に大変なんです!! 西南の空を見てください!!」

「なに? 西南の空?」


 慌てている監視兵は、選ばれし監視兵の中でももっとも功績を上げている者。その兵が二度も言うのだ。それほどのものかと監視長は言われるがまま西南の空を望遠鏡で確認する。

 

「……なっ!? あ、あれはまさか」

「はい。見間違い出なければあれは……飛竜です!!」


 西南の空から、群れをなして飛んでくる生物。

 それはもっとも強き生物と言われている竜種。その中でも、もっとも数が多いと言われているのが飛竜。ただ竜種は、ほとんど決まった場所から動かない。

 知能が高く、刺激をしない限りは襲ってはこないのだ。そんな竜が真っ直ぐ集団を成してフラッカへと向かってきている。ただの移動か? いや、今までそんなことはなかった。なら、なんだ? どうしてこちに向かってきている? 


「待て! ……おい、あれは本当に飛竜なのか?」


 監視長は何か違和感を感じた。

 最初に見つけた監視兵も、今一度確認する。


「確かに、普通の飛竜には見えません。あれは……体が腐ってる? まさか死んでいるというのか!?」

「それは何の冗談だ? 死体が動いているというのか? それではまるで」


 ゾンビ。生きた屍。そのほとんどが禁忌によって生み出された存在だが、中には自らゾンビとして復活することもある。

 ゾンビだということにも驚いたが、その数だ。

 十や二十ではない。

 視認できるだけでも、五十もの飛竜がゾンビとなってフラッカへ真っ直ぐ飛んできている。こんなことは今までなかった。いや、フラッカに限らず飛竜のゾンビが街に向かってきたなど一度もなかった。


「謎の黒い靄の襲撃、飛竜のゾンビ……いったいフラッカに何が起きているというのだ! くっ! あれだけの数の飛竜がフラッカを襲えば今以上に大混乱になる!」

「ですが、フラッカには結界が」

「どうやらその結界を張る術士が呪いにかかってしまったようだ」

「そんな……では、このまま飛竜が来たら」


 間違いなく、フラッカを襲ってくる。いや、襲ってこなくともあれだけの屍がフラッカを通り過ぎれば腐敗した体から汚染されたマナが降り注ぎ、人々の体を犯すことになるだろう。

 ゾンビとは体を構成するマナすら汚染されており、普通に倒したのでは周囲に汚染したマナを振りまくことになる。そうなれば、穢れなきマナは汚れていく。それだけゾンビという存在は危険なのだ。


「至急フラッカ中に通達する!! 他の者も手伝え!! こちらに飛竜のゾンビが集団をなしてやってくる!! 繰り返す!! 至急フラッカ中に連絡をしろ!!」

「か、監視長!!」

「今度はなんだ!?」


 再び監視兵が西南の空を望遠鏡で見ながら叫んだ。まさか、飛竜よりも厄介な相手でも現れたのか? と監視長は言葉を待つ。


「……おい、どうした!!」

「あ、いやなんというか……その」

「はっきり言わんか!!」


 歯切れの悪い監視兵に一喝すると、ついに報告した。


「は、はい!! 少女が空に飛んでいます!!」

「……なん、だと?」


 何の冗談だと、監視長も望遠鏡を覗く。

 すると、監視兵の報告通り少女が一人西南の空を飛んでいた。シルバーピンクのツインテールにマントを羽織った少女が、飛竜の群れを見詰めていた。




・・・・・☆




「ピアナ!!」

「シルビア? どうしてこっちに」

「中立街のほうはあらかた片付いた。今は、カリアと冒険者達が残党を倒しているところだ。貧民街のほうにはどうやらリューゼが向かったようだが」


 元々中立街には、ギルドや騎士団など戦える者達が揃っていた。そのためシルビアは、貧民街へと向かおうとしたが、どういうわけか黒い靄はほとんどいなくなったという情報を手に入れた。

 リューゼも手助けに向かったようなので、ならば貴族街へといくべきだろうとシャリオと共にピアナの手助けへ訪れたのだ。


「こっちも大体の避難は終わったわ。実は」

「おらあ!!」

「ん? この声は……ヴァーバラか?」

「ええ。【グリンドエル】の冒険者達が、手伝いに来てくれたのよ」


 そういうことだったのかとヴァーバラが居るほうへと向かっていくシルビア達。そこには、見覚えのある男が尻餅をついており、ヴァーバラが黒い靄から護っていた。


「あんた達! いいところに来たね! ちょっとこいつらを倒すの手伝ってくれるかい!!」

「もちろんだ。ゆくぞ、二人とも!!」

「おー!! 悪者をやっつけるぞー!!」

「当然よ! 《フレア・アロー》!!」


 その後、あっさりと黒い靄を撃退した。貴族街に出現した靄は、もうほとんど強いのは残っていないようだ。


「ありがとうね。そこまで強くなかったけど、数が多かったからねぇ」

「なに気にすることはない。世の中助け合いである」

「そうね。それよりもなんか睨んでるけど」


 睨んでいるたのは、シルビア達も見知っている貴族の男だった。どうやらヴァーバラに助けられたようだが、不安そうに睨んでいる。


「大丈夫だったかい?」

「うるさい!! 貴様などに助けられずとも切り抜けられていた!!」

「どの口が言うんだい……腰抜かしていたくせに」


 服の汚れを払いながら立ち上がる男にヴァーバラは呆れた様子で頭を抱える。


「……なんで、助けた」


 そのまま立ち去るかと思ったが、男はヴァーバラに問いかける。男にとって、ヴァーバラが自分のことを助けるなどありえないと思っていたのだろう。

 だからこそ、立ち去る前にどうしても聞いておきたかった。

 そんな男の問いにヴァーバラは、そんなことかい、と前置きをして笑みを浮かべる。


「人を助けるのに理由がいるかい? 確かにあんたのことは好きじゃない。けど、目の前で襲われている者が居れば、あたしはそれが嫌いな奴でも助ける。それだけさ」

「……ふん、愚かな奴だ。そんなことをしていれば、いずれ身を滅ぼすぞ」

「あー、はいはい。そういう覚悟はすでにできていますよ。いいから、さっさと避難しな。まだ戦いは終わっていないんだからね」


 男は何も言わず去っていく。ただ立ち去るその背中からは、先ほどまでの刺々しいものが消えているようにシルビアには見えた。


「まったく男ってのはめんどくさいねぇ」

「まったくね。もうちょっと素直になるべきね」

「さて、まだ逃げ遅れた者達がいないか……ん? なんだこの気配」


 黒い靄ではない。何か異質な気配がフラッカに近づいている。だが、その気配は空から感じられる。


「シルビアたん! 緊急事態だよ!!」

「ナナエか。いったいどうしたのだ?」

「実はね、西南から飛竜の群れが飛んでくるみたいなんだよ!」

「はあ? 飛竜の群れが? 何の冗談だい。一匹や二匹ならともかく群れをなして街に向かってくるなんて……」


 ヴァーバラが驚くのは無理もない。今まで一匹や二匹ならば襲ってきたことがあるが、群れをなして襲ってくるなど今まで事例がない。

 そもそも竜種は一匹でも、かなりの戦闘能力を持っている。それが群れをなして襲ってくるとなれば……戦いは相当困難を極めるだろう。


「けど、本当のことだよ。というわけで! シルビアたん!」

「うむ。やるぞ、シャリオ」

「うん! またあれをするんだね! お姉様!!」

「あれ? いったいなにを―――おぉ!?」


 ヴァーバラが首を傾げていると、シルビアとシャリオが光に包まれ新たな姿へとなった。シルバーピンクのツインテールを靡かせ、空を見上げる。


「では、フラッカを護るため飛竜の群れと戦うとしよう」

「えっと……シルビア? いやシャリオ? え? え?」

(あっ、そういえばヴァーバラお姉さん。合体した姿見るの初めてだったね)

「そうであったな。ヴァーバラよ、落ち着くのだ。我輩は、シルビアでありシャリオでもある。ただ合体しただけだ」

「いや、合体しただけだって言われてもね……」

「まあまあ! 説明するのは後々! さあ! シルビアたん! いざ飛竜狩りへ!!」

「うむ。では、行って来る」


 シルビア達に起こったことを説明され、更に困惑しているヴァーバラを放置しシルビア達は飛ぶ。監視塔の前で静止し、自分の目で今の状況を確認した。

 シャリオと合体したことでより魔力を感じ取れるようになったシルビアは、飛竜の群れを捉えた。確かに飛竜のようだが……何かが違う。


「なんだあの澱んだマナは」

(なんだか気持ち悪い……)

「まさか、ゾンビ? 生きた屍なのか?」


 もし、ただの移動だったとしてもあれだけの数がフラッカを通り過ぎれば汚染されたマナが降り注ぎ大変なことになる。これは、フラッカに到着する前になんとしても倒さなければならない。


「あれだけの数だ。今回はリューゼが開発したという装備を―――む?」

(わわわ!? な、なになに!? なんか音楽が流れてるよ!?)


 突然、腕輪にはめ込まれている板から音楽が鳴り響く。そこで、リューゼの説明を思い出し、シルビアはひとつだけあるボタンを押した。

 すると、薄い膜が出現し、リューゼの顔が映し出された。


『おぉ! 繋がったようだね』

(わぁ、おじさんだ! なにこれ?)

「どうやら、遠くの者と会話ができる機能、らしい」

(なにそれすごい!? 念話よりすごい!!)


 シャリオの驚きようにはシルビアも頷ける。念話のように脳内で会話をすることもすごいが、遠くの者と顔を見合わせて会話するのほうがよほど凄いことだろう。

 ただこれはまだまだ不安定なところがあり、会話できる時間も二分と短いようだ。そのため緊急事態でない限り使うことがないとリューゼから説明を受けていたシルビアは、表情を強張らせる。


「それで、いったいなにがあった? こっちもこっちで緊急事態なので手短に頼む」

『ああ、わかっているとも。飛竜が、それもゾンビとして大量に向かってきているのだろう? それについて話そうと思ってね。ミミルくん』

『し、シルビア、ちゃん……』


 リューゼと入れ替わるように現れたのは眼帯を外したミミルだった。まるで竜のような金色の瞳に惹かれてしまうが、今は彼女の話を聞くのが最優先だ。


『あの竜達は……ただ倒すだけじゃ、だめ……。汚染されたマナを……完全に消滅させないと……周囲が汚染、されちゃう』


 ミミルのところからは、飛竜が見えないはず。にも関わらず、なぜ飛竜の状態を理解しているのか。まさか、彼女の瞳にはそういう能力が備わっているというのか?


「……わかっているとも。あれほどの数。汚染されたマナが解き放たれれば環境が破壊される。だから、リューゼよ。あの装備を使うぞ」

『当然だ。私の自信作と君達の力を合わせれば、敵などいない! さあ! やりたまえ!!』


 ぐっと親指を立てるリューゼと入れ替わるように、またミミルが口を開く。


『シルビアちゃん……』

「なんだ?」

『あの子達は、操られているだけ……お願い……助けてあげて……!』

「……わかった」

『頑張れー! シルビアー! シャリオー!!』


 ユネの応援を最後に、通信は切れた。

 再び静かになった空で、シルビアは刻々と近づいてきているゾンビ飛竜の大群を見詰め腰に装備されていた剣を手に持つ。

 一見、ただ両刃剣だが……これこそ、リューゼが開発した新装備。


「ゆくぞ、シャリオ!!」

(うん!)


 魔力を込めることで、刃が展開。

 刃内で凝縮された魔力を一気に解き放つことができる代物だ。ただここからだと距離がある。シルビア達は刃内に魔力を注ぎ込みつつ、自らゾンビ飛竜の群れへと接近していく。


「近づけば近づくほど、汚染されたマナがどれほど恐ろしいか身に染みる……!」


 まだ距離はあるが、待機のマナが汚染されているのがわかるうえ、相手は腐った死体だ。このままでは嗅覚がおかしくなりそうなほどのきつい臭いが漂ってきている。


(は、早いところ片付けよう! お姉様!!)

「魔力装填完了!!」

(解き放てー!!!)


 空中で緊急停止し、圧縮した魔力を一気に……解き放った。


《切り裂けー!!!》


 高濃度の魔力剣がゾンビ飛竜の群れを切り裂く。ただ切り裂くだけではない。汚染されしマナと腐った体を高濃度の魔力にて蒸発させているのだ。

 【王の魔力】は他の魔力よりマナが桁違いに濃い。それを更に圧縮させ、解き放つことで触れれば汚染されたマナなど蒸発させてしまう、ということだ。

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