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第二十五話「龍の瞳」

「はっ! せい!! でりゃあ!! くぅ……! いったいどれだけ居るんですか、この靄は!?」

「でも、なんだか少し勢いがなくなってきたような感じがするよ」

「……確かに。でも、まだまだ居ます。ここを早く片付けて他のところへ協力しに行かないと」


 貧民街は、冒険者達の活躍のおかげで次々に住民の避難が終わりつつあった。ただそれでも黒い靄の完全排除は終わらない。

 

「うわあ!?」

「くっ! なんだこいつは! 他の奴と違うぞ!!」


 ずっと楽勝ムードだった空気を一変させる冒険者達の声。なんだ? とユネとミミルが向かう。


「ぐああ!?」

「大丈夫か!? くそっ! この化け物がぁ!!」

「あ、あれって」


 冒険者達が戦っていたのは、まるでトカゲの形をした靄。だが、普通のトカゲと違うところは背中から大きな羽が生えているところだ。

 だが、二人にはその姿に見覚えがあった。その姿はまるで……竜。


「そんなはず、ない。あれは偽者だよ、ユネちゃん!」

「……わかっています。見た目に惑わされるなんて、このぉ!!」


 吹き飛ばされた冒険者と入れ違うように、ユネが闘気を纏って突撃していく。攻撃をした後だったため、黒い靄は反撃するのが遅れた。

 気合いの一撃にて、頭を粉砕し冒険者達もおお! と声を上げる。


「どうですか!!」


 着地したユネも勝ち誇るように拳を突き上げるが、そう簡単には倒せないようだ。粉砕された頭はすぐ再生し、反撃とばかりに尻尾を振るってくる。


「させない!!」


 だが、それをミミルが風の刃にて尻尾を両断する。攻撃を回避したユネはミミルに感謝しつつ、再度黒い靄へと攻撃を仕掛ける。

 ミミルも支援するため強化魔術を施す。


「ぐぬぬ! この靄、再生能力が高過ぎます!! ミミル! それに先輩達! ここは魔術で!!」

「う、うん!」

「そういうことなら任せろ!!」

「やってやるわ! 先輩として後輩には負けてられないわ!!」

「だが、注意しろ! ここは住宅が密集している! 魔力をコントロールし、敵だけに魔術をぶつけるんだ!!」


 ユネを含めた戦士達が、竜型の靄の注意を引いているうちに、術士達は魔力を最大限にまで練り上げる。そして、タイミングを見計らってユネ達は離れた。


「いくぞ!! 一斉発動だ!!」


 練り上げられた魔力にて一斉に魔術が発動する。炎が、水が、風が、様々な属性の魔術が竜型の靄へと降り注ぐ。

 かなり魔力をコントロールしたはずだが、さすがにあの巨体を消滅させるには威力が必要だった。そのため飛ばされそうになるほどの衝撃波がユネ達を襲った。


「くっ!? や、やったか!?」


 砂煙が徐々になくなっていき、竜型の靄がどうなったのかが明らかになる。


「やったわ! 完全消滅してる!!」

「たく、てこずらせやがって」

「よし! 次にいー――ぐああっ!?」


 倒したはずだった。ユネ達の目には、あの巨体はなく完全消滅したとばかりに思っていた。その油断がいけなかった。地面から突如として現れた巨大な腕に、冒険者が一人吹き飛ばされ民家へと激突する。


「なっ!? まさか」

「嘘……まだやられてなかったの!?」


 腕から始まり、顔、体、足と完全に再生した竜型の靄。かなりの魔力を使った魔術一斉攻撃でも倒せないことに、冒険者達は動揺を隠せないでいた。

 その隙を狙われ、次々に冒険者達が吹き飛ばされる。ミミルも一緒に吹き飛ばされたが、ユネが何とか身体強化を使って受け止める。


「大丈夫ですか1? ミミル!!」

「う、うん。ありがとう、ユネちゃん。でも、あれだけの攻撃を食らってこんなにも早く再生するなんて……」

「ですが、あの感じ。どうやら周りに散らばっていた靄達を集めて再生しているようですね」


 明らかに、周囲から靄が集まっているように見えた。そのことから、あれだけの再生にかなりの靄を使ったはずだ。ここでもう一度倒せることができれば……貧民街の防衛は大分楽になる。

 しかし、問題があるとすれば戦える戦力が少ないこと。

 術士は特に魔力を使い過ぎて、先ほどのような一撃は放てない。シルビアのような【魔砕拳】が使えれば容易に倒せるのだろうが、できないことを考えても仕方がない。


「こうなったら、粉々になるまで連撃を与えるしか」

「はっはっはっはっは!! 待たせたね!! 諸君!! 天才科学者の登場だよ!!!」

「え!?」


 残った戦士達で一斉攻撃を仕掛けようかと、立ち上がった刹那。

 緊張感のない高笑いと共に、それから白き鎧が落ちてきた。

 冒険者達は、なんだ!? なんだ!? と白き鎧を怪しがっているが、ユネとミミルは違った。


「りゅ、リューゼさん!? どうしてここに」

「貴族街でリオーネさんを護っているはずじゃ……」

「安心したまえ!! あっちのほうは、カインさんとその騎士団。それにメイド隊が居る!! それに、ナナエくんの空間結界の中に居れば大抵の攻撃は防げる。なので!! 私は君達の手伝いをしに来たという」

「リューゼさん! 後ろ! 後ろ!!」


 相手は待ってくれない。平然と二人を見ながら説明をしているリューゼへと竜型の靄が腕を振り下ろしてきた。


「心配は要らないよ、二人とも」


 が、リューゼは片腕だけで攻撃を受け止める。白き鎧グレゴランの凄さを知っていた二人だったが、ここまでのものかと。


「さあ、再々調整したグレゴランの凄さ……得と見るがいい!!」


 受け止めた腕を弾き、リューゼは大剣を構え跳躍する。

 頭上を取り、大剣を構える。

 刃を展開させ、魔力砲を……解き放った。


「……ほえー」

「す、すごい……」


 あれだけ苦労した竜型の靄がたった一撃で消滅した。しばらく待っても再生しないところを見ると、今度こそ完全に消滅したのだろう。

 かなりの重量なのか。またリューゼが着地したことで地面に軽いクレーターができてしまった。しかし、そんなことは些細なことだ。そう……竜型の靄を倒した時の攻撃でできた巨大な穴に比べれば。


「あー……やり過ぎてしまったかな。やはり出力リミッターをもうちょっと調整する必要があるか……しかし、これ以上調整するとなると魔力砲の威力も」


 一人でぶつぶつと呟いているリューゼだったが、ミミルの異変に口が止まる。


「ぐっ!? ああぁっ!!」

「ミミル!?」


 これまで聞いた事の無い悲痛な声を上げ、膝から崩れる。眼帯から光が漏れており、それからは異質な力を感じた。

 

「ミミルくん。眼帯の下を見せたまえ」

「あ、いやこれは」


 と、ユネがなぜか制止させようとするがリューゼはグレゴランを解除し、無理矢理眼帯を外す。何かを封印するためにつけた眼帯だと思っていたため簡単に外れたことに驚くが、それ以上に驚いたのは……。


「これは……」

「あ、ぐっ……!? だ、だめ……たくさんの飛竜が……こっちに……!」

「ミミルくん。君は」


 ミミルの眼帯の下にあった瞳。

 金色に輝き、獣よりも鋭く、強大な力を感じるそれは……龍。

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