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第二十四話「実力解放」

「うわあ!?」

「せいやー!!」

「よ、鎧?」


 フラッカ全体は、混乱していた。何の前触れもなく出現した黒い靄達に襲われて。建物に隠れようとも、物体をすり抜けるようで意味がない。

 反撃しようと石などを投げる者達も居るが、それもすり抜けるため意味がない。


「皆! この黒い靄には物理的な攻撃は一切効かない!! 無理に刺激せず、騎士や冒険者の言う通りに動くのだ!!」

「し、シルビア! こいつらは」


 怯えながらも話しかけてきたのは、アイスクリーム屋で働いていた少年だった。


「我輩にも正体はわからない。だが、危険な存在だということは君にもわかるはずだ。今は、安全なところへ逃げることを考えるのだ。監視塔へ向かうのである!!」

「お、おう!! シルビア、気をつけろよ!!」


 いまだに監視塔周辺には黒い靄は出現していない。ただ狙うタイミングではないのか。それとも近づけないだけなのか……。

 どちらにせよ、今安全と思える場所は監視塔だ。シルビアはそのことを伝えながらも、黒い靄をシャリオと共に撃退している。


「シルビア様」


 噴水広場へとやってきたところで、カリアが姿を現す。


「カリアか。状況は把握しているはずだ。住民の安全確保を最優先に頼むぞ」

「お任せください。む?」


 監視塔方面が騒がしい。確認すると、巨大な靄が進行を妨害しているようだ。だが、別方向でも複数の靄に襲われている住民達が居る。

 シルビアは、カリアに視線で指示を送り飛び出した。


「さて」


 カリアは、飛び出す。もちろんシルビアに指示された通り進行を妨害している巨大な靄を倒すために。


「お下がりください」

「あ、あんたはカリア副団長!?」

「今は主に仕える執事です。が……今この時だけは騎士に戻りましょう」


 手袋を取ると、手の甲には術式が刻まれていた。それを突き出し、カリアは唱える。


「顕現せよ、我が愛剣……【アレクセイ】!!!」


 解放の呪文により、顕現したのはカリアの愛剣である【アレクセイ】だ。聖なる輝きを放つそれを掴み、軽く巨大な靄目掛け振るう。

 住民には何をしているんだ? と思われる行動だが。


「さあ、行きましょう。私が剣となり盾となります」


 まだ巨大な靄が居るというにこの発言。

 住民は更に困惑してしまっている。

 が、再び巨大な靄を見れば天辺から徐々に光の粒子となって四散しているではないか。その粒子の中を悠然と歩く彼女の背中は、不思議と不安でいっぱいだった住民の心に安らぎを与え、気づけばついていくように足を動かしていた。


「これが聖騎士カリア様……」

「なんて美しく頼りになる背中なんだ……」

「カリアお姉様……素敵」


 執事としての姿もかっこよかったが、やはり騎士としてのカリアが一番かっこいいと男女隔てなく惚れ惚れとした表情をしている住民達。

 が、そんな中でカリアは。


(あぁ、シルビア様……見ていてくれましたか! 私は頑張っていますよ!! この後のあーんは、絶対格別なはずだ……ふふ……ふふふふ……!)


 妄想で若干見せられないような顔になっていた。

 一方で、カリアと分かれたシルビアは真面目に黒い靄を撃退しながら、住民を監視塔方向へと誘導していた。


「……うむ。さすがカリアである。シャリオ? そっちはどうだ?」

「こっちには誰もいなかったよ! 魔力反応もなし!」

「この辺り一帯は避難完了であるな。よし、次は西だ!!」

「おー!!」




・・・・・☆




「よっと……さてさて」


 ナナエは一人、下水道へと訪れていた。やはり、怪しいと言えばシルビアが二度ほど黒い靄に襲われたという下水道。

 もし操っている者が居るのであれば、どこかに隠れているはずだ。


「うーん、中々薄暗いところだねぇ。長くは居たくないところだよねー」


 上では、黒い靄にフラッカの住民達が襲われ、シルビア達がそれを救助している。そんな中、ナナエはまるで散歩をしているかのようにゆったりと下水道内を移動していた。

 決して、ふざけているわけではない。

 今日のナナエは、どこかいつもの雰囲気と違う。この違いがおそらく付き合いが長い者でも、わからないほどのものだ。


「……みーつけた」


 しばらく歩いたところで、にやりと口元に笑みを浮かべ誰もいないはずの方向の空間を歪める。

 すると。


「くっ!?」


 フードを深々と被った怪しげな老婆が慌てた様子で姿を現す。


「やほー。中々見事に隠れていたようだけど、あたしには効かないよー、そういうの」


 かくれんぼをしていて見つけたような感覚で笑うナナエに、老婆は魔力を練り上げる。


「けっけっけっけ。まさか、見つけられるとは思わなかったよ」

「あれー? よく見れば、あの時のお婆ちゃんじゃん。お久しぶりだねぇ、あたしのこと覚えてる?」


 ナナエは当然覚えている。あの時、後一歩というところで逃がした悔しさを。だからこそ、今度は最初から油断などせず、全力でいく。

 その意思が、老婆にもひしひしと伝わっているのか。少しずつ距離を取っていく。


「どうやらお婆ちゃんも、空間魔術を扱えるようだけど。あたしとどっちが上かな?」

「けっけっけっけ。若いもんには負けやしないよ」


 まず動き出したのは老婆だった。空間移動にてナナエの視界から姿を消す。

 このままではまた逃げられてしまう。

 が、あの時と違いナナエは冷静だった。


「逃がさない」

「ぐあっ!? な、なんだい!? わしの空間が……!」


 姿を消したと思った老婆は、最初に居た位置から少し離れたところに現れる。空間移動している者の空間をより強力な空間操作で捻じ曲げ、拘束したのだ。

 そのため老婆はまるで空中で制止しているかのように見えている。


「あなたには色々と聞きたいことがあるんだよ。それに……」

「それ、に……?」

「こうなったのもあの時あたしがあなたを取り逃がしちゃったせいだからね。責任はしっかりととるんだよ、あたしってば!!」

「こ、の!!!」

「おぉ?」


 一部の空間を捻じ曲げ、拘束を解除した老婆。

 予想よりもかなりのやり手と感じたナナエは、スカートのポケットからゴムと取り出し、長い髪の毛をポニーテールに束ねる。


「なにを―――ひえっ!?」


 ただ髪型を変えただけ。そのはずが、先ほど感じていた魔力の波動が劇的に変化した。老婆は震えている。この若さで、この魔力量に相手を身震いさせるほどの威圧感。

 

「どうしたのぉ? お婆ちゃぁん」

「な、なんなんだい? あんたは……! ほ、本当に人間なのかい!?」

「人間だよー、ただ違うとすれば、異世界人ってことかなー。後は……あっ、これは内緒! さすがのシルビアたんでも軽々しく言えないんだぁ!! えへへへ」


 不気味だ。傍から見ればただハイテンションな少女。

 しかし、老婆は感じ取っている。

 この場に居るからこそ、彼女の力を身に受けたからこそわかる。今の彼女には……勝てない。


「くっ!? わしはここでやられるわけにはいかないんだよ!!」


 また逃げても捕まってしまう。ならば、相手が恥ずかしがっている今がチャンスと老婆は魔力を一気に練り上げナナエの背後へと回り込み、移動途中に発動していた無数の魔力弾を一気に解き放つ。

 

(けっけっけっけ! この考える隙も与えない高速攻撃は防ぎきれまい!!)


 調子に乗った運のつきだと言わんばかりに老婆の口元には笑みが浮かんでいた。

 が、しかし。 

 隙ができた、のではない。

 隙を作った、だった。本来ならば老婆の空間移動からの無数の魔力弾による高速攻撃を回避するのは至難の業だろう。

 ただナナエは、同じ空間魔術の使い手であり、こと戦闘においては……無類の強さを誇る。


「ざーんねん」


 振り向くことなく、右手を突き出し空間の裂け目を作り出す。


「うわあああああっ!?」


 そして、老婆の右側から空間の裂け目に吸い込まれた無数の魔力弾が襲う。


「あたしも空間魔術の使い手だよ? 空間移動先なんてお見通し」

「ぐ、う……」

「まだやるの? 正直お婆ちゃんを虐めるのって気が引けるんだけど……降参してくれない?」

「誰が、降参など」


 ふらつきながらも、反撃せんと魔力を練り上げる老婆。


「そっか……じゃあ、苦しいだろうけど。この事態が終わるまで別空間で待っててね」


 これ以上の戦闘は老婆の命に関わるだろうとナナエは、足下に落とし穴のように空間の裂け目を作り出す。


「こ、こんなもの!」


 老婆は空間を操り逃げようとするが、抗えなかった。そのまま別空間へと落ちていくのを見て、ナナエは一呼吸。


「まったくもう。お婆ちゃんなのにハッスルし過ぎだよ……っと、こうしちゃ居られない。次に行かなくちゃ!!」


 戦いはまだ終わっていない。ナナエは、次なる場所へと向かっていった。

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