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第二十三話「それぞれの場所で」

「う、うわあ!? な、なんだよお前!!」


 子供達の元気な声が響き渡る貧民街。だが、今は恐怖の色が見える声が響き渡っている。いつものように公園で遊んでいた子供達の目の前に現れた二つの黒い靄。

 上半身だけが人の形をしており、下半身はまるで地面に根を張っているかのように形をしている。

 ゆらゆらと不気味に揺れながら子供達へと近づいている。子供達も、木の棒などで近づかれないように全力で振り回しているが、その程度では全然怯みもしない。


「に、逃げ場がなくなっちゃったよ……!」

「このぉ! こうなったら俺が!」

「や、やめようよ! さっきも石を投げたけどすり抜けちゃったんだよ!? 木の棒だって……」


 子供でも理解できるほど、黒い靄にはただの物理攻撃は効かない。

 もうだめだ。

 このままではやられてしまう。ついに黒い靄が腕を振り上げた。


「くぅ……!?」

「もうだめだぁ!?」


 やられてしまう。子供達が一斉に目を瞑った刹那。


「《エア・ブレイド》!!!」

「え?」


 唯一目を瞑らず、ずっと木の棒を振り回していた先頭の少年は見た。黒い靄が、風の刃で真っ二つになるところを。


「大丈夫だった?」

「み、ミミルお姉ちゃん?」


 子供達の盾になるように現れたミミル。右腕に風を纏わせ、黒い靄を睨みつける。

  

「おりゃあ!! 《闘気連撃》!!」


 ミミルの魔術でも完全には消滅しなかった黒い靄にトドメとばかりにユネが闘気を纏わせた連続蹴りで、完全粉砕させた。


「皆! ユネ達が来たからにはもう安心ですよ!! 後に、ギルドの冒険者さん達も来ます! それまではユネ達が護りますから!!」

「ユネちゃん! ここの子供達は私に任せて!」

「ええ! ユネはあっちにも居た靄を倒しに行きます!! おりゃあ!!」


 一人果敢に突撃していくユネ。

 ミミルは、警備兵か冒険者達が来るまでとにかく子供達を護ろうと周囲への警戒を怠らなかった。


「お、お姉ちゃん。いったい何が起こってるの?」


 すると、不安のあまり一人の少女がミミルに涙目で問いかけてくる。他の子供達も不安そうな表情を浮かべている。それを見たミミルは、優しく微笑み頭を撫でた。


「大丈夫だよ。悪者は私達が倒すから。……うっ!?」

「お、お姉ちゃん!?」


 やっと収まったと思えば、再び疼き出す右目。子供達が心配になり駆け寄るが、大丈夫だと笑顔を向ける。


「おい! そっちはどうだ!」

「どうやらすでに倒されているみたいです!」

「よし! 奴らには通常攻撃は効かないようだ!! 術士は魔術で! それ以外の者は闘気を纏って戦うんだ! いいか!? まずは住民の避難が最優先だ!!」


 どうやら冒険者達が来てくれたようだ。それと同時に、ユネも公園へと戻ってくる。


「キリがありませんね。あの黒い靄、無限に出てくるんじゃないかって思うぐらい次々に出てきますよ」

「もしかすると、どこかに操っている人が居るのかもね……」


 シルビアからは、操っている者は居たがどんな人物なのかはわからないと二人は聞いている。ただ貧民街だけではなく、フラッカ中に黒い靄を出現させている。

 もしかすると、操っているのは一人じゃないのかもしれないと二人は予想する。


「おい! 大丈夫か!?」

「とりあえず、先輩冒険者さん達と協力して貧民街を護りましょう、ミミル!!」

「うん!」


 


・・・・・☆




「邪魔よ!!」


 貴族街へと向かったピアナは、さっそく子供を襲っている小さな黒い靄を発見し魔力弾で軽く蹴散らした。


「大丈夫だった?」

「う、うん。私達は大丈夫だけど、あっちにいっぱい」


 助けた子供達が指差す方向は、シルビアの実家がある方向だった。ナナエが張った結界があるため外に出ない限り安全ではあるだろうが、それでも気になってしまう。

 丁度騎士達や警備兵達も到着したようだ。


「すみません! ここは任せます!!」

「あっ! ちょっと、君!?」


 この場を騎士達に任せ、ピアナは飛び出す。身体強化により、猛スピードで到着したシュヴァルフ邸。子供達の言う通り、見事なまでに黒い靄達が群がっていた。

 ただナナエの結界が効いているため、邸内へとは入れていない。しかし、このまま放置しているわけにもいかない。ピアナは一気に殲滅せんと、魔力を練り上げる。


「さあ!! 一気に殲滅よ!!」

「え?」


 邸内からシルビアの母親ルカの声が響き渡る。なにやら高揚したような声音だったため、何事だ? と視線を向ける。

 そこには、メイド達に囲まれたルカが魔石がはめ込まれた杖を構え、ピアナもびっくりするぐらいの広大な魔力を練り上げていた。


「確認!! シュヴァルフ邸を包囲している敵勢力の数、二十!!」

「了解よ!! 降り注げ……《フリーズ・レイン》!!!」


 刹那。

 シュヴァルフ邸を囲んでいた黒い靄一体一体の頭上に、魔方陣が展開。一斉に、氷の雨が容赦なく降り注ぎ、黒い靄達に無数の穴を空けた。

 一瞬だった。あれだけの数を、一度の魔術で一掃したルカを見て、ピアナは開いた口が塞がらなかった。第一印象がほんわかとし、戦いとは無縁そうな人だった。それがどうだ? 魔術を発動したルカの表情は快感を覚えているように、頬を赤く染めている。


「ふう。久々に気持ちよかったわねぇ。もう周囲にはいないかしら?」

「はい。視認できる範囲ではいません。さすがルカ様! お見事です!!」

「ふふ。私もまだまだいけるわねぇ。あら? ピアナちゃん。もしかして、助けに来てくれたのかしら?」


 ほんわかな雰囲気に戻ったルカに声をかけられ若干びくついたピアナだったが、すぐ何事もなかったかのように冷静に首を縦に振る。


「はい。ですが、必要なかったようですね」

「まあね。私も控えていたのだが……見事に奥方が一掃してしまったよ」


 あっ、居たんだと、頭を抱えているリューゼに気づく。リオーネも一緒に居るようで、こちらに手を振っているので、笑顔で振り替えし、方向転換。


「では、私はこれから別の場所へ行きます!」

「なら、あなた達も行きなさい。ここは私一人居れば大丈夫だから」

「わかりました。では、住民の安全確保に向かいます」

「何かあれば即座に駆けつけます」


 ルカの命令にメイドとは思えない跳躍力で貴族街へと散っていくメイド隊。ピアナは自分も遅れまいと、再び身体強化を行い悲鳴が上がる方向へと駆けていく。


「く、来るな化け物が!! わ、私を誰だと思っているんだぁ!?」

「居た」


 さっそく襲われている人を発見し、魔力弾を放つ。

 そこまで大きな靄ではなかったため、魔術を使うほどではなかった。


「早く逃げて!! 監視塔のほうへ急ぐのよ!!」

「だ、誰だお前は!?」


 尻餅をついている貴族の男は、突然現れたピアナを見詰め動かない。いや、動こうとしないのか。自分は貴族。突然現れた見ず知らずの小娘に命令されて動くなど、などと思っているのか……。

 このままではまた襲ってくる。

 ピアナは仕方ないと意を決し貴族へと叫ぶ。


「私は術士が名家!! ルーン家の三女ピアナ=ルーンよ!!! ここは私に任せなさい!! ルーン家の名にかけて邪悪な存在の侵攻を阻止するわ!!」

「お、おお! あのルーン家の!? わ、わかった。頼んだぞ。この礼はかなら―――うわっ!?」


 予想通りまた襲ってきた。男の背後から襲ってきた黒い靄を撃退し、今一度叫ぶ。


「いいから早く!! 監視塔のほうは安全だから行きなさい!!」

「あ、ああ」


 やっと立ち上がり、走り出す男。近くに居たメイド隊の一人に彼のことをお願いと頼み、ピアナは黒い靄が多いほうへと突き進む。


「はあ……仕方ないとはいえ」


 家出をした手前、家の名前を使うことに抵抗があった。が、あのままでは一向に動かず襲われ続けていただろう。


「あーもう!! 落ち込むのはやめ!! 今は、この事態をどうにかしないと!!」


 気持ちを切り替え、ピアナは魔術を黒い靄の集合体へと解き放った。

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