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第二十二話「動き出す」

というわけで、宣言通り前回と前々回の話を入れ替えます。

ちなみに謝罪文は、戒めのために残しておこうかと思います。

「……ふん。何を迷っているんだ僕は」


 アステオは、一人月明かりの下で焚き火を見詰めながら呟くと、老婆から貰った写真をおもむろに焚き火へと投げ捨てる。

 そして、包帯を巻いている右腕を押さえた。


「お前、なんだかさっきから騒がしいな。何か伝えようとしているのか? ……誰だ!?」


 異質な気配に気づき、アステオは剣に手を沿え立ち上がる。

 現れたのは、暗闇よりも暗く、邪悪な気配がする靄。

 

『くっくっくっく! 初めましてじゃな、黒き龍を宿し剣士よ。我は邪龍ベロリアナードじゃ』

「……まさか伝説の古代種がお出ましとはな」


 アステオがその身に宿し黒き龍ブラゴラスよりも早く存在し、もっとも古く強大な力を持ちしドラゴン。ただの伝説の存在だと思われていたが、アステオにはわかる。

 腕に封印しているブラゴラスが反応している。まるで食いかからんとしているかのように。


「それで? その邪龍が僕に何のようだ?」


 剣には手を添えたまま、不気味に蠢く靄。その向こうに居るであろうベロリアナードへと問いかける。


『そう攻撃的な姿勢をとるでない。落ち着いて話もできないではないか』

「突然現れた邪悪なる者に攻撃的な姿勢をとるなというのが無理な話だ」

『まったく最近の生物は、警戒心が高くてしょうがない。我のようこうどーん! と余裕の姿勢を見せたらどうなのじゃ? まったく嘆かわしいのぉ』


 世間の変わりように嘆く老人が如く喋るベロリアナード。誰よりも年寄りではあるため、この例えは間違ってはいない。

 どの資料にもベロリアナードについては、その力や最古の存在としか記されていない。実際どんな姿なのか、まったく謎なのだ。とある書物には、変幻自在に姿を変えることができるため決まった姿はないと記されている。そのため、本当にドラゴンなのかどうかも疑問視されている。


「お前の嘆きなど知らん。さっさと話すことを話せ。僕はそこまで暇じゃない」

『くっくっくっく。そうじゃったな。ならば、話してやろう。よいか? これが最後の誘いじゃ。我に従え。我の忠実なる駒となって、働くのじゃ!! 黒龍を宿し剣士よ!!』


 なるほど、とアステオは理解した。今まで謎だったが、何度も何度も老婆を使い自分を悪の道へと誘う馬鹿の正体が。

 

「まさか、僕を何度も誘ってくる奴が伝説の古代種だったとはな」

『我は黒龍に選ばれし貴様の力を高く評価してる。その力を我が野望のため存分に使うがよいぞ。我が軍門に下れば、絶対なる勝利を約束しようではないか。貴様、誰よりも強くなりたいのであろう? 誰にも負けたくはないのだろう?』

「……」


 まるでアステオの過去を知っているかのように、ベロリアナードは語り続ける。その度、目の前の邪悪な靄も大きくなっている。


『なれば、我の駒になれば』

「断る」

『な、なぬ? 今、なんと申したか?』

「聞こえなかったのか? さすがは年寄りだ。耳が遠いようだな……だったらもう一度言ってやる。……断る!! 僕の欲しい強さはお前が思っている強さじゃない!! 悪の道に堕ちてまで手に入れた力など、不要!!」


 断固として悪のは堕ちないと咆哮し、剣を抜き放ち邪悪な靄を断ち切る。一瞬消滅したかのように消えたが、アステオの背後へと再び出現。

 やはり、ただの斬撃では断ち切れないようだ。


『……最後のチャンスだったというのに。愚かな人間じゃな、まったく……よいだろう! 貴様がそういうのであれば仕方あるまい。じゃが! ひとつだけ言うてやる!! 人間の強さなどたかが知れておる!! 貴様では、白き龍はおろか世界中の強者にも勝てぬわ!! くっくっくっく……せいぜい我の誘いを断ったこと後悔するがよいぞ。あーはっはっはっはっはっ!!!』


 最初の強者っぷりはどこへいったのか。小物っぷりが滲み出る捨て台詞を吐き捨て消えていく。やっと静かになったところで、アステオは剣を鞘に収め椅子代わりに使っていた丸太へと腰を下ろす。

 そして、ベロリアナードが言い残したとある言葉を思い出す。


「白き龍……まさか、お前はそれに反応していたのか?」


 あの時、ブラゴラスを落ち着かせるために秘湯に向かった時に出会った集団。その中に、老婆から貰った写真の少女が居た。


(確かに、あの時あいつから感じた波動は異質だった……白き、龍か)


 アステオは、焚き火へと木の枝を折り投げ捨てる。


「考えても何も始まらん。この目で、剣で確かめるればわかることだ」


 写真の裏に、作戦は五日後の昼に開始されると書いてあった。悪事に手を貸すわけではない。ただ真実を確かめるだけ。強者と戦いたいだけ。

 

「さあ、お前の強さがどんなものか確かめさせてもらうぞ……シルビア=シュヴァルフ」




・・・・・☆




「どうだい? 我が騎士団は。中々の面構えが揃ってるだろ!!」

「団長。自慢はいいですから、そろそろ訓練を開始しませんか?」

「おっと、そうだったな。では、ボルトリンの生徒さん達。フラッカが誇る騎士団の訓練姿を、じっくり見ていってくれ」


 カインが一人の騎士に急かされ、さっそく訓練を開始させた。

 今日は、シルビアの父カインが団長を務めている騎士団を見学しに来ていた。彼らは日夜フラッカの平和のため厳しい訓練は欠かさない。

 普段は、警備兵達と共に街の警備をしたり、冒険者達と共に街の周りに出現し、通行の邪魔をする魔物を討伐している。カインが団長ということで、普通の騎士団よりもラフな雰囲気だが、実力は本物だ。


「……なんだか今日は嫌な感じがしますね」

「嫌な感じ? なによそれ。こんなにもいい天気なのに?」


 さっそく最初の訓練である素振りを始めた頃だった。ユネが雲ひとつない晴天を見上げて呟いた。対して、ピアナは晴れ晴れとした空を見上げながら、呆れた様子でユネの肩に手を置く。


「あなたまた食べ過ぎて変になっちゃったの?」

「食べ過ぎて変になったってどういうことですか!? というか今日はそこまで食べていません!!」


 ユネにはシリアスは似合わないと言わんばかりにピアナは笑う。

 

(だが、確かにいつもと何か空気が違う……ん? ミミル?)


 シルビアも何かを感じているが、それが何なのかはわからなかった。すると、ミミルが眼帯を押さえ膝を突いていたのに気づく。


「ミミル!? ど、どうしたんですか? また目が痛いんですか?」

「あぐっ……! こ、この感じは……り……りゅ、うが……」

「龍?」


 どういうことだ? と首を傾げた刹那。


「きゃあっ!? な、なによこれぇ!?」

「うおっ!? この黒い靄は……もしかして!?」


 街中から悲鳴が上がる。カインも含め騎士達は、動きを止めなんだ? と戦闘体勢に入った。


「なっ!? し、シルビアあれって」

「……ついに白昼堂々と」


 周りを見渡せば、あの黒い靄が人型に獣型など、様々な形で出現していた。いつかこんなことが起こると予想はしていたが、こんなにも早くそれでいて白昼堂々と現れるとは。

 しかし、ここで慌てようなことは無い。

 こんなことが起こることを予想していたということは、その時の対応も考えているということだ。


「なんだこいつらは!?」

「くっ! まさかこいつらが噂の呪いをかける靄か!!」


 騎士達に近づいていく黒い靄。やられまいと人型の靄へ切りかかる。見事真っ二つに切り裂かれ、岸達もどうだ! と言わんばかりに拳を握る。

 が、黒い靄はすぐ再生し、何事もなかったかのように騎士達へと近づいていく。


「攻撃が効かない!?」

「でやあ!!」


 言葉よりも行動で。シルビアは、騎士達が倒せなかった人型の靄を闘気を纏わせた拳で粉砕して見せた。


「父上殿! 騎士達!! こいつには通常の攻撃は効かない!! マナを宿った……闘気や魔力による攻撃が有効である!!」


 と、説明したところへ見た事のない巨大な靄がぬるりと出現する。


「お姉様! でかいのが出た!?」


 するとシルビアの背後から回りに現れているものとは明らかに大きさが違う人型の靄が出現する。背後を取られたが……シルビアは動揺の色を見せず拳を構える。


「はあ!!」

「父上殿!」


 一閃。

 闘気を纏わせた剣の一撃が、何倍もあろう巨人の靄を両断した。


「皆! フラッカを護るぞ!! 我等騎士団の出番だ!! まず優先すべきは住民の安全だ! 中立街、貴族街、貧民街へと散開する!!」

 

 その姿はまさに騎士団の長たる勇ましいものだった。

 見事なまでの一撃に、騎士達とシルビア達は背中を押されたかのように力強く頷く。


「はいはーい! そういうことなら、あたしにお任せだよ!! ナナエお姉さん参上!!」


 騎士達が鎧を装着しようとしたところで、ナナエが空間転移にて姿を現す。


「ナナエ! 家のほうは!?」

「大丈夫。まだ襲われてないよ。それにあたしの結界があるから、そう簡単には邸内には入れないから! だから、あたしはこうして皆さんを移動させるために来たわけだよ!!」

「そうか。ナナエちゃんの空間魔術で一気に各地へと移動するわけだね」

「その通り!! さあ、さあ騎士さん達はまだ鎧を装着し終わっていないようだし……シルビアたん達を先に送っちゃおうか」


 そう言って、三つの空間の穴を出現させた。それぞれ中立街、貴族街、貧民街へと繋がっているようだ。そういうことならと、ユネとミミルは貧民街のほうへ。ピアナは貴族街のほうへ。シルビアとシャリオは中立街のほうの穴へ立つ。


「シルビア! それにユネちゃん達も。無茶だけはしないように。本来ならば君達子供が戦場へ向かわせるのを止めるべきなのだろうが……」

「大丈夫ですよ、父上殿。我輩達は冒険者を目指すボルトリンの生徒。いずれは危険地帯へと向かうことが多くなる」

「遅かれ早かれ、ね」

「それにこれでも色々と経験していますから!!」

「無茶だけはしません。カインさんも言いましたが、まずは住民の安全確保を優先します」

「わたしは、ボルトリンの生徒じゃないけど。関係ない!! 頑張る!!」


 その堂々とした少女達の姿にカインは、不思議と安堵してしまっていた。


「では、行くぞ!」

「ええ! 思いっきり長期休みを楽しむために!!」

「悪党は撃退です!!」


 まだ長期休みは始まったばかり。せっかく楽しんでいたのを邪魔する奴らは許せない。もっともっと楽しむためにと、シルビア達は空間の穴へと飛び込んだ。

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