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第二十話「中央ギルド協会」

 中央ギルド協会。

 ギルドが創設されてから、その管理などをするために設立された。各大陸に、必ずひとつずつ存在し、ギルドを設立するには必ず中央ギルド協会の許可がなければ正式なギルドとして認められず、まともな人員も報酬もこない。

 そして、大陸で何か大きな異変があれば、もっとも功績を上げているギルドのギルドマスターを四人招集しての話し合いをすることもある。


「いやー、転移陣ってやっぱり慣れないなぁ。ちょっと酔っちゃったかも……」

「それはまだ酒が抜けていないだけなのでは?」

「おやおや? 昨日ぶりだねぇ、アンノーカちゃん」


 中央ギルド協会へとは、専用の転移陣を使い一瞬にして移動する。【グリンドエル】のギルドマスターカオラが到着すると【アジェスタ】のギルドマスターアンノーカが同じく転移したところだったようで、軽く挨拶を交わす。


「だから、ちゃんづけは止めてくれないかな? 私もそんなに若くないのでね」

「何を言っているの。君はまだまだ若いって。それにそんな仮面を被ってないで、素顔を見せてよー」


 当然のことだが、カオラはアンノーカの素顔を知っている。

 同じギルドマスターとして、付き合いは長いほうだ。

 そのためアンノーカも、調子が狂う時があり、頭を抱えている。


「止めなさい、おっさん。アンノーカさんが困ってるでしょ」


 すると、アンノーカの前に一人の少女が現れる。大きくぴんっと立った獣耳に、細い尻尾。肩まで長いオレンジ色の髪の毛。肌の露出がほとんどなく、スカートを穿いているが、黒のタイツで守られている。

 まるで主人を護る飼い犬のようにカオラを睨みつけている少女の名は、ミラルダ=グオット。

 亜人だけで構成されたギルド【ネオタム】の最年少ギルドマスターである。

 同じ女性ギルドマスターであるアンノーカを慕っており、近づく愚か者へは容赦なく牙を剥く。


「み、ミラルダちゃん。別に俺は困らせているわけじゃないのよ? ただ可愛いお顔を見たいなぁって」

「ふざけないで! あんたみたいな酒癖の悪いセクハラおっさんにアンノーカさんの美しい顔を見せるなんて、天が許しても私が許さない!!」

「ま、まあまあ。ミラルダちゃん、落ち着いて。そろそろ時間だから、会議室に入ろう? ね?」


 と紳士キャラを忘れ素になってしまったアンノーカ……いやエリンは、ミラルダを宥めながら手を差し出す。


「は、はい!! わかりました!!」


 先ほどまで食い殺さんとしていたオーラが消え、手袋を脱ぎ捨てエリンの手を握る。とても嬉しいのか、耳や尻尾が激しく動いていた。


「……はあ。おっさんは悲しいなぁ」


 肩をがっくりと落としつつ、カオラも二人に続いて会議室へと入る。


「遅いぞ」

 

 中に入るとすぐ一人の男が声を上げる。短く切り、揃えられた茶色の髪の毛。釣りあがった鋭い眼光で三人を睨んでいる。

 会議室中央には、円形のテーブルが設置されており、四つの椅子を距離をとって置かれていた。その左端にどっかりと腕組をして座っている男は、中央大陸の帝都にてギルド【サイオウ】のギルドマスタージオ=マクウェルだ。常に鎧を身に纏っており、剣を使わせれば無敵と言われるほどの才を持つ。

 中央大陸一の実力者だ。


「遅くないわよ。ちゃんと時間ぴったりよ」

「十分前行動が基本だ。そんなこともできないのか?」

「はあ? あんた、十分前からここで一人で待ってたの? どんだけ暇なのよ!!」

「俺は暇ではない。ここに来る間も、部下達の訓練、帝都の兵士達の訓練、各種クエスト。この後も、大事な護衛が控えている。アンノーカ。用事があるのなら、早急に済ませろ」

「なっ!? アンノーカさんに向かって失礼じゃない! アンノーカさんは、あんたよりも」


 食いかかるミラルダだったが、エリンが止める。

 その後、三人は椅子に腰を下ろす。

 今回集まったのは、エリンが召集をかけたからだ。エリンは、仮面と帽子を取り喋り出す。


「まず、今回お忙しい中、突然の召集に応じて頂きありがとうございます」

「いえいえ! エリンさんが集まれと言えば即座に!!」

「俺はのんびりしたかったんだけど。エリンちゃんに声をかけられたら断れないからねぇ」


 ここに集まるのは決まって大陸で緊急事態が起こっているため。その緊急事態へ早急に対応すべく、召集がかかれば集まる。

 そうして、情報の交換、共有をするのだ。


「それで?」

「はい。皆さんのところにも情報は入っていると思われますが。二月ほど前に私のギルドがある王都ガゼムラに謎の勢力が潜入。そして、ボルトリンの生徒に闇の魔力を与え苦しめました」

「確か、犯人を後一歩というところまで追い込んだんですよね?」


 ボルトリンの一件は、大陸全体の問題となりうる可能性があったため各ギルドマスターには伝わっている。帝都と同じく強固な護りを誇るガゼムラに侵入するほどの実力者が居る。

 放っておくことはできない。


「ボルトリンの学生達も頑張ってくれたようですが、逃げられてしまったようです」

「ふん。やはり学生には荷が重かったようだな」

「ジオくんさぁ。学生さん達も頑張ったんだから、そういう言い方はないんじゃない?」

「いくら頑張ったと言っても、失敗したでは意味がない。そのせいで、被害は拡大する。多くの命が危険に晒されるのだぞ?」


 ジオの言っていることは間違ってはいない。そのためカオラも強く言い返すことができず、頭を掻く。ジオは昔から現実主義者だ。

 何をするにも、それが結果に繋がらないと意味がないと言い続け、彼はこれまで結果が出し続けてきた。だからこそ、ジオの言葉には力がある。言葉にするだけの実力があるのだ。


「……現在は、中央大陸だけでしか報告はありませんが。いずれ他の大陸へ勢力を広げるはずです。しかも、私の調べた情報では、もうひとつ謎の勢力が存在する可能性があります」

「ガオザ王国を襲った連中か」

「はい。ガゼムラに侵入した勢力と同じ、という可能性もありますが。用心に越したことはありません。そして、ガオザ王国を襲った勢力の狙いは【王の魔力】による古代兵器の使用だと思われます」

「そういえば、ボルトリンで王妃に王女を保護しているんだったね。ここに来る前に、王女ちゃんと会ってきたよ。いやぁ、笑顔が可愛い子だったねぇ」


 素直な感想を述べたカオラだったが、ミラルダは呆れた表情で見ていた。


「ボルトリンで保護をしているというのに、今はフラッカに居るのか?」

「それについてはご心配なく。しっかり護衛が居ますから。こちらを」


 それを証明するために写真つきの資料を三人に渡すエリン。そこに写っていたのは保護責任者であるボルトリンの生徒会長ナナエとシルビアのことが書かれていた。

 他にも、その友達である者達の情報も。


「へえ……ナナエって、あの異世界人の?」

「あの空間魔術の使い手か。あいつの実力は認めるが……このシルビアという少女。こいつは何者だ?」

「その子は、フラッカの子供リーダーちゃんだよ。カインくんの愛娘なんだけどね、十歳でボルトリンに入学した天才だよ」

「ふーん、ルーン家の家出娘も居るね。他の二人もまあ、強いと思うけど。げっ、リューゼまで居るの?」


 可愛い美少女達が続く中、最後に一際異質な空気を漂わせるリューゼの写真。ミラルダは見る気が失せたように資料をそっと閉じた。


「あの科学者か。表世界に出ているとは珍しい。試験官長としての仕事以外は引き籠っているかと思っていたのだが……護衛についてはわかった。特にナナエ=ミヤモト、シルビア=シュヴァルフの二人は相当な使い手だ。おまけにルーン家の魔術にリューゼの科学力。これだけの者達が居ればよほどのことがない限り安全だろう」


 一旦資料を置き、ジオは思考する。


「そういえば、フラッカで謎の現象が起こっていると聞いたが? なんでも、突然黒い靄が現れ、襲った者を呪いにかけるそうだな。それに関してはどうなっている? カオラ」

「俺、年上なんだけどなぁ……いや、まあ。対処はしてるよ? もちろん。ただ原因不明の力だからねぇ、どうしてそんなものが出てくるのか。どうして襲ってくるのか。現在調査中ってところだねぇ、うん」

 

 それを聞いたジオは、椅子から立ち上がる。


「おや? もう帰るのかい?」

「今回の議題は、世界を脅かすかもしれない謎の勢力について。もう話すことは話したはずだ。そうだろ? エリン」

「はい。これから突然人が凶暴化したり、街が襲われることが多くあると思います。そうした場合は、迅速に対処してください」

「もとよりそのつもりだ。では、俺は先に失礼する」


 一番に会議室へと訪れたジオは、一番に退室していった。そんな行動が早いジオを見て、カオラは腕組をして笑う。


「いやぁ、若い子は行動力があっていいねぇ。俺だったら、このままここで時間を潰したい気分なのに」

「あんたは怠け過ぎよ。さあ、エリンさん。こんなおっさんなんて放って置いて会議室から出ましょう」

「え? あ、うん。それじゃあ、カオラさん。また後で」

「はいよー」


 ミラルダに手を引かれながら、会議室から出たエリンは帽子を被り、仮面を被ろうとした。が、ミラルダの言葉に動きが止まる。


「あの、エリンさん。実は気になる情報が私の耳に入ってきているんですが」

「気になる情報?」

「はい。私の仲間達がクエストで東方へと遠出した時に……ボルトバ様と思わしき人物を見かけた、と」

「え?」


 エリンは仮面を落としそうになる。

 それもそのはずだ。

 現在のボルトバは、もうシルビアという少女へと転生し、第二の人生を歩んでいるからだ。エリンは魂の輝きで、ボルトバだと判断したが、亜人や普通の人には魂の輝きで判断することはできない。

 当然だが、シルビア見た目でもボルトバだと判断するのは難しいだろう。なにせ、今のボルトバは完全なる別人。可愛らしい姿へとなっているからだ。

 だが、ミラルダも。その仲間達も嘘を言う子ではないことをエリンは知っている。


「信じられない、かもしれませんが。確かに仲間はエリンさんが敬愛し、ギルドを創設した伝説の冒険者ボルトバ様の姿を見たと」

「そ、それはいったいどういう姿だったの?」

「老人の姿、だったそうです。見間違いかもしれないと思い声をかけようとしたようですが、空間魔術を使用したかのように一瞬にして姿を消したそうです」


 おかしい。ボルトバは空間魔術を扱えるほどの魔力を保持していないはず。いや、会得すらしていない。それなのに……。


「別人という可能性も高いです。……すみません、いきなりこんな話をしてしまい」


 死者が生き返るはずがない。神の力でない限り。すでにボルトバは死んだ。変に期待させ、違った時に失望させてしまうんじゃないかと。

 自分の発言でミラルダを傷つけてしまうんじゃないかと。

 萎縮しているミラルダを見て、エリンはその大きな胸に抱き寄せ、頭を撫でる。


「大丈夫だよ。気にしないで」

「で、でも」

「例え見間違いでも、私は大丈夫。ボルトバ様はずっと私の心の中に居るから」


 ミラルダを体から離し、満面の笑みで再度頭を撫でる。


(まあ……本当はボルトバ様は転生して生きているんだけど)


 元気を取り戻したミラルダを見送った後、エリンは一人窓から景色を眺めつつ、先ほどの言葉を思い出す。


「ボルトバ様らしい人物、か……」

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