第十四話「秘湯に人影あり」
「して、ヴァーバラさん。突然だが、最近フラッカで変わったことなどはなかっただろうか?」
「変わったこと? なんだい、突然」
リューゼはリオーネと街を歩き回りながら、変わったことがないかと探っていた。そこで、この街に詳しそうな彼女に出会ったので何か情報がないかと問いかけたのだが、ヴァーバラは何かを言い難そうにしている。
「……うーん」
「ちなみに貧民街でのことをは私も知っている」
「え?」
どうやら言い難そうにしていた理由は、貧民街での出来事だったようだ。当然のことだが、シルビアから情報は得ている。
黒い靄。
それに襲われた子供が呪いのような状態異常になったということを。そして、その黒い靄が街中で見られているという情報も。
「それ以外で何かあるか?」
「……今のところないね。あたしも、ギルドマスターの命令で、それに関して街中を探し回っていたところだったんだよ」
「なるほど。では、何かあればできる限りでいい。私に情報を提供してくれないか? もちろん、それだけの報酬を出すつもりだ。更に! 困った時は私が助力すると言うおまけつき!!」
「そいつは、ギルドマスターに聞いてみないとなんとも。あたしもできるなら、情報共有はしたいけどさ」
今となっては、ギルドに所属する冒険者の一員。ギルドマスターから直々に命じられ、手に入れた情報を無闇に提供することはできない。ヴァーバラとしては、知り合いであり正しい道へと戻してくれたシルビアの仲間には協力をしたい、ということなのだろう。
それを察したリューゼは、小さく笑みを浮かべる。
「まあ今は良い。いずれにしろ、この街には何かが潜んでいる。問題が起こったら、頼ってくれ」
「ああ、ありがとう。その気持ち、素直に受け取っておくよ。じゃあ、あたしはこれで。あんた達も、フラッカを楽しんでくれよ!!」
「はい、またお会いしましょう。ヴァーバラさん」
「では、我々も行くとしよう」
「ですね」
ヴァーバラが走っていくのを見送った後、二人は本来の目的通り洋服店へと向かった。
・・・・・☆
「はあ……はあ……はあ……あー! もう! しつこかったわね、あの獣達!!」
「中々の武道派揃いでした。まさか、熊が格闘技を使ってくるとは」
「おそらく我輩と戦っているうちに戦い方を理解し、会得したのだろう」
「そ、そんなことありえるの?」
「信じがたいけど、現実を見てしまった以上信じるしかないわ……」
他の森の獣達と違い、かなりの武道派揃いだったため壁を登る以上に疲れたようだ。しかし、疲れているからこそこの先にある秘湯に浸かった瞬間が、気持ちいいのだ。
言わば、秘湯に入る前の運動と言ったところか。
「お姉様。後どれくらいで着くの?」
「ここまで来れば、後もう少しだ。次の試練を超えれば目的の秘湯に到着である!!」
「試練って言ったわね、ついに……」
「やはり試練でしたか! ですが、その分これから向かう秘湯にも期待が高まるというものです!!」
試練を超えた先にあるもの。
そんな期待が高まる言葉を胸に、シルビア達は突き進む。最後の試練の場へと……。
「―――って! 何なのよここは!?」
「スライムの里と呼ばれる場所である」
辿り着いたところは、スライムで満たされた地。
スライムとは、どこにでも現れ、どこの環境にも適応することができる魔物。一般的にスライムとは、最弱の魔物とされているが、もっとも恐ろしい魔物でもある。
どこにでも現れ、どこの環境にも適するというだけでスライムの凄さがわかるが、液体の体がゆえに伸縮自在で、なんでも取り込む。中には、毒でじわじわと弱らせながら体内で溶かしていくスライムも居る。一般的に最弱と言われているのは、平原などに生息するスライム。
危険地帯やまともな環境ではないところに生息しているスライムは……本当に恐ろしいのだ。
「ともあれ、ここのスライムは一般的なスライムのみ。数は見ての通り、数え切れないほど居るので、油断すればあっという間に取り込まれるぞ」
「シルビア……聞くけど、本当にここ通るの?」
「無論。刺激しなければ、大人しいものだ。なので、何もせず素通りする。それが最善だ」
まずは自分が手本を見せるとばかりに、スライムが群がる道をシルビアは悠々と歩いていく。するり、するりとスライムを刺激しないように。
そして、秘湯への入り口である洞窟前に到着したシルビアは親指を立てた。
「では、私も」
続いてカリアも、スライムを刺激せずすんなりとシルビアの元へと辿り着く。
「シャリオちゃん。はい、抱っこ!」
「はーい」
次に、ナナエがシャリオを抱っこし、空間魔術で反則級の移動をしてみせた。
「ちょっ! ずるいわよ! ナナエ! 私達も」
「待ってください! ピアナ! これは試練……ユネ達も、シルビアと同じ道を進みましょう!」
「あなたねぇ……ミミルは、どうするの?」
「頑張ってみるよ! 私も冒険者見習いだから!」
これは自分だけが楽をするのはかっこ悪い。いや、試練から逃げることになる。スライムがなんだ。自分達はスライムよりもすごい敵と戦ったことがある。それに比べればどうということはない。
「じゃあ、行くわよ二人とも!」
「はい!」
「ここは一気に」
ユネが先頭に立ち、縦一列に並んだ。
そして。
《駆け抜ける!!》
スライムが襲ってくる前に、一気に駆け抜ける作戦のようだ。だが、無闇に駆けるのではなくなるべくスライムが密集していないところを的確に狙い、ステップを踏むように。
「とーちゃく!!」
「や、やった!」
「ふう……なんとかなったわね」
一瞬、スライムに触れてしまい襲ってくる気配がしたが、それよりも早く到着したため何とかなった。
「よし。これで皆最後の試練を突破することができたな」
「くっ! あたしとしては、ユネちゃん達がスライムの襲われてぬるぬるな格好になってほしかった……!!」
なにやらナナエが心の底から悔しがっているが、シルビア達は気にせずに洞窟へと足を踏み入れる。
「シルビア。この洞窟の中に秘湯があるんですよね?」
光苔と呼ばれる天然の灯りで照らされた洞窟。
先ほどのスライムのところで最後の試練と言っていたためユネは期待に胸を膨らませたように聞いてくる。
「正確には、この洞窟を抜けた先だ。なにこの洞窟には魔物は生息していない。どうやら秘湯には聖なる力があるようでな。魔なる者達は近づけないようなのだ」
「おー! さすがは秘湯! そんな力があるなんて!」
「効能とかはどういうのがあるの?」
「そうだな……我輩が知っている限りでは、美肌、疲労回復、肩こり腰痛、呪い解除などなど」
呪い解除は真実かはわからない。噂程度のものだし、呪いがかかったものがここへ辿り着くのは中々の困難な道だろう。そのためよくありそうな効能に加え、魔物達が寄ってこない。
他のところだと、魔物が襲ってこないか警戒していなくてはならないが、今から行くところは聖なる力により魔物達は寄って来ないので、気を張らずゆっくりと浸かれる。
「脱衣所は私がメイド達と訪れた時に設置しておきました。不届き者達が覗きをしようとしても大丈夫なように」
「それは助かるわ。まあでも、ここまで来れる人なんてそうはいないだろうけど」
そう言っているうちに、洞窟の奥に光が差し込んでいるのが見えた
「ようこそ。我輩オススメの秘湯へ。思う存分、ゆっくりしていってくれ」
洞窟を抜けた先は、美しい景色と光り輝く湯がシルビア達を待っていた。
「おー! ここが……ん?」
「あ、あれ? シルビアちゃん。先客が居るみたい、だけど」
「む?」
自分達だけだと思っていた秘湯に人影があった。湯気立ち上る中、ゆらりと立ち上がった人影の正体が徐々に露になっていく。
「……なんだお前達は?」
長めの黒髪に、白く細い体だが、よく鍛え上げられ引き締まった筋肉。歳は、十代後半と言ったところだろうか? 焦る様子もなく、裸を晒しているというに堂々としていた。




