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第十二話「野獣の道」

 夏の長期休みに入って早くも一週間が経っていた。

 生徒達が楽しい楽しい日々を過ごしている中、教師達はいつものように校内の職員室で業務に勤しんでいる。


「たくっ、やっぱり学生時代が恋しいなぁ」

「先輩。そんなこと言っても時間は戻らないんですから」

「先輩は止めろって言ってるだろ。まっ、ただ言ってみただけだよ。なんだかんだで、生徒達の相手をしていたほうが楽だったなぁってな」


 椅子が倒れるほどまで、背を預けため息を漏らすタダイチ。その隣では、シーニがいつものように苦笑いしながらとある用紙にサインをしていた。


「ん? そいつは、あれか? 生徒どもが問題を起こした時に書く」

「は、はい。被害届け……というか、反省文みたいなものでしょうか。生徒が問題を起こすのは担任の責任でもある、ということで」

「はあ……大変だな、担任ってのも。俺はならなくてよかったぜ。昔から、反省文みたいなのは嫌いだったからなぁ。にしても、あいつらまだ一週間だっていうのに、もう問題起こしたのかよ。最近の若いもんは元気がいいなぁ」


 などと言って笑っているが、シーニにとっては笑い事ではない。担任になると、色々と忙しくなる。この反省文もそうだが、被害にあったところへ謝罪をしに行ったり、問題を起こした生徒達へ今後問題を起こさないように指導したり、生徒の家族にも色々と説明をしたりと……忙しいのは働く身としては嬉しいことなのだが、やはり大変だ。


「……そういえば、若いもんで思い出したが、ロミロはどうした?」


 同じ一年の教師で、術士コース担当のロミロが見当たらないことに気づくタダイチ。教師の中では、シーニと同じぐらい若い。

 卒業校は、ボルトリンではないにしろ。ボルトリンの次に有名な冒険者育成学校ギムレッツの卒業生だ。ギムレッツは、帝都にあり毎年のように実力者揃いの生徒達が卒業している。


 そこの卒業生でもあり、術士としても優秀なロミロがなぜボルトリンで教師をしいるのか。それは誰もわからない。わかるのは、彼が優秀だが病弱で、めんどくさがりやで、よく職員室から姿を消すことだけだ。後、キレると手が付けられない。


「ロミロ先生なら……たぶんどこかで休んでいるんじゃないでしょうか? ほら、ここかなり熱いですし」


 現在は夏。

 太陽もいつも以上に元気なようで、職員室内にもがんがん日差しを入れてくる。窓を開けたりはしているが、それでも熱い。

 ロミロの席は、あまり日差しが当たらない隅っこなのだが、それでも彼には堪えられなかったようだ。そうなると決まってどこか日差しの当たらないところで休んでいる。


「あいつ。教師って自覚あるんだろうな……」

「あの人はかなり自由ですからね」


 それでも、上は何も言ってこない。いや、ロミロだけではない。基本冒険者はまともな奴はいないと言われており、何か言われるとしたら一般人からである。

 未知へ挑み、危険地帯へと冒険をして、魔物と戦う。

 ダンジョンに潜り、罠を掻い潜り、脱出できるかわからないのに奥へと進んでいく。一般人からすれば、危険なことをしている危険な奴ら、という認識が多い。

 だからこそ、こいつらならなんでもやってくれるとギルドなどには様々な依頼が来る。


「冒険者は自由な連中ってことで通ってるが、、仕事は仕事だ。……まだあいつの仕事は残ってる。それが終わるまでは休ません」


 ロミロの机には、目を通さなければならない資料や補習をした時に生徒達がやったテストが採点されていない状態で置かれていた。

 タダイチは頭を掻きながら、教室から出て行こうとする。


「せん……タダイチ先生。探しに行かれるんですか?」

「まあな。めんどくさいが、同じ教師として仕事はきっちりやれって注意してくる。……まるで、野良猫を探す気分だ。シーニ先生。帰って来た時、めちゃくちゃ疲れてるだろうから何か用意していてくれ」

「そういうことなら、俺が用意しよう。お前達は、自分の仕事をこなすといい」

「ゴンさん。来ていたんですね」


 タダイチとは逆の位置口にエプロン姿のゴンが佇んでいた。


「長期休みに入ると、俺の仕事は寮の管理だけになってしまうからな。暇なんだ。それより、行って来いタダイチ。美味いもんを作って待っているぜ。まあ、食べるのは食堂だがな」

「ありがとう、ゴンさん。んじゃま、行ってくるとするか。野良猫探しに」

「お気をつけて!」

(……生徒達は、思う存分楽しんでいるんだろうなぁ。まさかとは思うが、命を失うようなことはしてないだろうな?)




・・・・・☆




「し、シルビアー!!」

「なんであるかー!」

「も、もうちょっとまともな道はなかったのー!?」


 シルビア達は壁を登っていた。まともな足下がないような壁を、青空と白い雲、さんさんと輝く太陽に見守れながら確実に。

 最初はピクニック気分で、平原に森の中と楽な道を通っていた。しかし、森を抜けると開いた口が塞がらないほどの壁が出現。最初は道を間違ったのか? と誰もが思った。

 が、シルビアとカリアは当たり前かのように壁をよじ登り始めたのだ。


「ない!!」

「断言した!?」

「ピアナ! 秘湯というのはこういう困難を越えてこそ価値がある場所なんですよ! 簡単に辿り着けてはただのお風呂と変わらないんです!!」

「あなたはどうしてそんなに楽しそうなのよ!? なんだかミミルも楽しそうだし!」


 いつもならこういう場面では、動揺したりするミミルがユネと同じぐらい楽しそうに壁を登っている。


「なんていうか、故郷でも壁を登ったことがあるから……そ、それにそこまで高くないよ? ほら、もうちょっとで到着するから。頑張ろう! ピアナちゃん!!」

「そうだよ! ピアナお姉ちゃん!! がんがん登ろう!!」

「あなたは鎧があるから良いけど、私は生身なのよ……」


 さすがに、まだ生身で登るのは危険ということでシャリオはアグリオンの力を使いがんがん登っていた。あんな重そうな鎧でよく登れるなと見詰めながら、ピアナはため息を漏らす。

 すると、ナナエが隣に現れ笑顔を向けてくる。


「なによ」

「おんぶしようか?」

「……いや」

「無念……!」


 なんだかんだ言いつつピアナは壁を登りきった。だが、まだ油断はできないと緊張の糸を解かず進んでいく。


「さて、壁を突破したところで次は」

「次は?」

「野獣の道である」

「野獣!?」


 名前からまともじゃないと感じた刹那。

 これから進む森の中から、巨大な熊が現れる。軽く二メートルは超えているだろうか。あの時の巨人ほどではないが、かなり大きい野獣だ。


「ま、まさか」

「うむ。この先、こいつのような野獣が何匹も待ち受けている。心配はいらない。我輩達ならば、必ず突破できる!」

「ちなみにシルビア様は七歳の時、一人で突破しています」

「あなた本当にどんな人生を歩んできたのよ……」

「冒険者を目指すならば、当然のことなのである」


 そう言われると、否定ができない。

 ピアナも冒険者を目指すボルトリンの生徒。もはや壁からして、この先危険なことがどこまでも待ち受けているんだろうと容易に推測できる。

 もはや……何も言うまい。


「わかったわよ! 私も冒険者を目指す身! こんな野獣如きに負けてなんていられないわ!!」

「その通りです! あの岩の人形に比べればこんな熊なんて!!」

「来るよ!」

「よーし!! わたしが受け止めてやる!!」


 涎を垂らしながら突っ込んでくる巨大な熊を、アグリオンを纏ったシャリオが真正面から受け止めた。あれだけの巨体からの突進だというのに、一歩も動いていない。


「どりゃあ!!」

「吹っ飛べー!!」


 そこへユネとピアナの連携攻撃。

 顔面に強烈な蹴りが入り、熊は吹き飛び、ボールのようにころころとどこまでも転がっていく。


「ふん! どうよ!!」

「すごいですね、ピアナ! 術士にはもったいない威力の蹴りでしたよ!!」

「そりゃあ、どうも。さあ! 行くわよ!! 野獣がなによ!! どっからでもかかってきなさい!!」

「ピアナお姉ちゃんかっこいい!!」


 やけくそとばかりに、我先にと進んでいくピアナ。

 

「そうそう。殺してはだめだぞ。できるだけ無力化する方向でやるのだ」

「ご心配なく! 無闇やたらと命を奪うようなことはしません。ただ命の危険を感じたら、容赦はできませんが」

「それでよい。彼らもただ自分の縄張りを護っているだけ。話し合いで済めばいいのだが」


 さすがに獣と会話は誰にでもできることではない。できる者が居ると聞いたことはあるが、あまり人と関わることがない人間嫌いのようなのだ。

 

「うーん! さっきの連携攻撃はよかったねぇ。いい角度で撮れちゃった!」

「おー、中々かっこよく撮れてますね」


 いったい何をしているのかと思えば、どうやら先ほどの一戦を写真に収めていたようだ。ナナエの覗くと、熊と組み合うシャリオ。

 そして、熊に跳び蹴りを入れているユネとピアナのかっこいい姿が写っていた。


「他にもこんなものがあるよー」

「おぉ……ピアナ。見事に撮られてますね」

「ちょっ! いったい何を撮ったって言うの!? 見せなさい!!」


 ナナエからカメラを取り上げようと跳びかかってくるピアナだったが、がさがさっと茂みが大きく揺れる。


「あっ、ピアナ。横からイノシシが」

「邪魔よ!!」

「ぴぎぃ!?」


 これまた巨大なイノシシが真っ直ぐピアナ目掛け突進してきたが、術士とは思えない回し蹴りで吹き飛ばされるイノシシ。

 

「……彼女は、本当に術士なのですか?」

「うむ。ピアナには、もしかすると戦士としての才能もあるのかもしれない」


 野獣の道を、喧嘩をしながら難なく突破していく。そして、ピアナには戦士としての才能もあるかもしれないと見出したシルビアは、今度組み手を申し込もうと決めたのだった。

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