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第十一話「とっておきの場所へ」

「つ、強すぎる……」

「さすが庭って言うだけあって、見つけるのが速すぎるわね……」

「わ、私なんて最初に見つかっちゃった……かくれんぼには少し自信があったんだけどなぁ」


 貧民街の子供達と存分に遊んだ三人は、用意された浴場でぐったりと壁に背を預け天を見上げていた。まだフラッカに来て初日だったが、なんとも濃い一日だっただろうと噛み締めながら風呂で疲れを癒している。


「わたしはもっと遊びたかったなぁ」

「シャリオはまだまだ元気そうであるな。痒いところはないか?」

「なーい」


 三人と同じぐらい動いているはずなのに、まだまだ元気が有り余っているシャリオ。シルビアに髪の毛を洗ってもらっており、とても嬉しそうに足をばたばたさせている。

 

「というか、子供達も子供達ですよ。さすがって感じですよねー」

「シャリオちゃんと同じぐらい見つかるのが遅かったもんね」

「体が小さい分隠れられるところが多かったし、シルビア以上に貧民街のことに詳しいだろうしね。そんなところに隠れていたわけ? って聞いた時は驚いたわ」


 遊ぶところや物が増えても、貧民街が庭というのは変わらない。いつも元気に駆け回り、互いに助け合っているからこそ、あそこの子供達は強い。

 あんな謎の靄が目の前に現れたというのに、そんな恐れなど微塵も感じていないかのように遊んでいた。


「泡を流すぞ」

「んー」


 十分に洗い、粟を湯で流したところで、丁寧にタオルで顔から髪の毛までの水気を拭き取って終了。体ももう洗い終わっているため後は、湯に浸かるだけだ。


「じゃーんぷ!!」

「うわっぷ!? ちょ、ちょっとシャリオ! 飛び込むのはやめなさい!!」

「ごめんなさーい!」


 ピアナの注意にいつもの調子で謝りながらシルビアの隣に行くシャリオを見て、本当にわかっているのかとピアナは眉を顰める。


「そういえば、ミミル。あの時は何があったのであるか?」

「え?」

「目が痛くなった、と言っていたが。あの黒い靄が原因か?」


 あの時は、そこまで追求をしなかったが、もしもということもある。念のため何があったのかとシルビアは問いかけてみた。

 少し考える素振りを見せ、ミミルはゆっくりと口を開く。


「あの靄が突然目の前に現れた瞬間、この目が痛み出したの……。靄が消えたら、痛くなくなったけど」

「……そういえばミミルってば、お風呂にまで眼帯なのね」

「……えっと」


 休日などで、何度か一緒に大浴場へと赴き見たことがあるが。いつも眼帯をしており、外しているところは一度も見たことがない。

 眼帯をするほどだ。

 よほどの怪我か事情があるのだとシルビア達も、気を利かせてあまり追及をしなかった。答え難そうにしているミミルを見て、ユネが慌ててフォローに入る。


「み、皆にはあまり見せたくないような怪我を負っているんですよ! ミミル自身もあまり眼帯の下を見られるのは好きじゃないんです」


 嘘を言っているようには見えないが、全部が真実ということではなさそうだ。この反応から察するに、ユネは事情を知っている。

 幼馴染で、同じ故郷の出身なため当然と言えば当然か。


「……そう。そういうことなら、いいわ。嫌がる友達の傷を見せろって言うほど私も鬼じゃないから」

「我輩もだ。ただ、これだけは言っておく。あの黒い靄は危険だ。もし、何か違和感があったら我輩達にすぐ報告するように。よいな?」

「うん……ありがとう。そしてごめんね。私も、皆に見せられるように覚悟を決めておくから。それまで、待ってて」

「ミミル……」


 本当は、友達だからこそ見せたい。隠し事をしたくないという気持ちなのだろう。


(……隠し事、か。今思えば、我輩は隠し事ばかりだ)


 本当は転生者であり、転生前はギルド創設者のボルトバであり、女神ディアナとも交友関係にある。他にもまだまだ彼女達に隠していることがある。

 共に学び、共に高め合い、絆を深め合う友達だというのに。


「どうしたの? お姉様」

「ん? あぁ、なんでもないのである。……そうだ。皆、明日は街の外へ行って見ないか?」

「街の外?」

「うむ。我輩とっておきの場所へ特別に案内するのである」




・・・・・☆




「それではいざ行かん!!」

「秘湯へ!!」


 朝食を済ませたシルビア達は、張り切った様子でリュックサックを背負い中立街の出入り口に立っていた。見送りとして、リューゼにリオーネが来ている。

 二人はシルビア達を見送った後、昨日行かなかった分、買い物を楽しむそうだ。


「リューゼ。未亡人はだめだぞ?」


 こそっと耳打ちをするナナエ。

 リオーネには聞こえていないらしく、なにを言っているのだろうと首を傾げていた。


「心配するな、ナナエくん。確かにシャリオくんのお父さんと言ってもらえるのは魅力的だが。今回の私は彼女の騎士。何かが遭った場合は、調整して幾分か使い物になったこのグレゴランを纏って身を挺し護ってみせると誓おう!!」

「それに、我がメイド達も遠くから監視しております。ご心配は要りません。もし、リオーネ様に手を出すような輩が居た場合、即座に撃退します」


 それなら安心だとその場に居た全員が頷く。


「はっはっはっは!! 信用がないとは、正直心が痛いね!!」


 今回は、カリアも同行することになっている。やはり専属執事として主に仕えるのは当然だと。そう言われてしまっては、シルビアも断る理由もない。

 

「じゃあ、行ってくるねお母様」

「ええ。ちゃんと皆の言うことを聞いて怪我のないようにね?」

「大丈夫! 今のわたしにはこれがあるから!! そー! 着!!」


 激しいアクションをとって、シャリオは黒き機械の鎧アグリオンを装着した。近くに居た兵士達は何事だと驚いている。

 

「完璧だ! 装着の速度が格段に上がっている! これならば敵がいつ現れようともシャリオくんを護ってくれるだろう。しかも! 自動迎撃システムも搭載している! もし、シャリオくんに危機を及ぼす攻撃が飛んでくるものならば、腕輪が鎧の一部を展開し攻撃を防ぐ!!」

「おー! 自動迎撃システム! いいねいいね! そういうのがあると滾るものがあるよ!!」


 などと二人で盛り上がっているが、いったい何が楽しいのか他の者達にはわからなかった。

 

「まあ、つまりだ。今のアグリオンがあれば大抵のことは安心ということだよ」

「ありがとうね! おじさん!!」


 アグリオンを解除し、満面な笑顔で礼を言うシャリオに、リューゼは微笑む。


「はっはっはっは! 感謝などいらないよ、シャリオくん。だが、感謝をしてくれるならせめて私のことをお兄ちゃんと」

「さあ! 皆! 出発だよ!! 秘湯へと到達し、裸のお付き合いをしよう!!」

「シルビア様と裸の……うっ!?」

「大丈夫? カリアお姉さん?」

「だ、大丈夫です。ご心配なく、シャリオ様……」


 さっさと去ってしまった。言葉の途中だったリューゼは、しばらく固まったままで居た。リオーネは、どう話しかけようかと迷っていたが。


「さあ! リオーネさん! 我々も行きましょう!!」

「は、はい!」


 そんな心配もなく、リューゼが動き出す。だが、それでも心配だったリオーネは一言。


「あの……大丈夫ですか?」

「なに。美少女に無視される……これもまた試練だ」

「は、はあ……そう、なんですか?」


 正直、リオーネにはリューゼが何を言っているのかさっぱり理解できなかった。

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