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第十話「黒い靄」

「ところで……あそこでずっとこっちを見てる怪しい仮面はあんたの知り合いかい?」


 話が一通り終わると、ヴァーバラが一軒の民家を指差す。そこには、隠れているのか隠れていないのか。エリンがこちらを見ていた。


「明らかに怪しい奴だねぇ。ちょっと一発入れてこようか」


 拳を自分の手に打ちつけながら、エリンのほうへと歩んでいくので、シルビアはそれを止める。


「心配はないのである。あの者は、我輩の知り合い。見た目は怪しいが悪者ではないのである。これから会う約束だったのだ」

「……わかったよ。あんたが言うならそうなんだろうね。でも、念のためあたしもついていくよ」

「わたしもいく!!」


 本当は一人で行ったほうがいいのだが、完全にエリンが信用されていないためヴァーバラとしても、ここの住人として見逃せないはずだ。

 シャリオは、だめと行っても勝手についてきそうなので……。


「わかった。では、行くぞ」


 シルビア達がどこかへ行くのに気づいたユネ達は、声をかけてくるがすぐ戻ると伝えエリンが隠れている民家のほうへと向かう。

 そこは、地図で確認した呪いをかけられた子供が居るという場所だ。


「や、やあ。やっと来てくれたね、お嬢さん」


 てっきり一人で来るものかと思っていたのだろう。動揺した様子で、挨拶を交わすエリン。


「ちょっとあんた。こんなところで何をしてるんだい? ここの家の子供は今不治の病に侵されてるんだ。……まさか、あんたが?」


 確かに、ピンポイントでこの民家に隠れているのはおかしい。通常ならば、偶然で済ませられるが、今のヴァーバラは警戒心が高いため下手な言い訳は通じないだろう。


「……こほん。すまない、ヴァーバラ=カドス。私の格好は常にこんな感じでね」

「なっ!? あたしの名をどうして!?」

「申し送れた。私は、ギルド【アジェスタ】でギルドマスターをやっているアンノーカ。君のことは、所属ギルド【グリンドエル】のギルドマスターカオラから聞いていてね。新人だが、一生懸命働いていて助かっていると」


 さすがはギルドマスター。彼女が所属しているギルドの長と通じ合っていることを言えば、いくら怪しい格好をしていようとも警戒心が薄らいでいくだろう。

 更に、あの【アジェスタ】のギルドマスターということもあれば最初は驚くが。


「あ、あんたがあの【アジェスタ】のギルドマスター!? ま、マジなのかい? シルビア」


 そこへ、ヴァーバラからの信用を得ており、エリン……もといアンノーカと知り合いというシルビアの言葉で上乗せすればどうだ。


「うむ。彼女は世界最古のギルド【アジェスタ】のギルドマスターだ。彼女とはガゼムラで出会っている。見た目は怪しいが悪党ではない。安心して欲しい」

「……わかったよ。信じてあげるよ。だけど、どうしてそんな怪しい格好を?」

「はっはっはっは! それは企業秘密。まあ素顔を隠すためとでも思っていて欲しい。それより、今は私のことはどうでもいい。シルビアちゃん、さあこっちだ」


 誤解も解けたところで、エリンは民家のドアを開けてシルビアを中へと案内する。


「やあ、奥さん。またお邪魔させてもらうよ」

「あっ、アンノーカさん。と、シルビアちゃんにヴァーバラさんも」

「久しいな。少し邪魔をするぞ」

「……やっぱり、まだ」

「はい。中立街でも腕利きなお医者様に見てもらったのですが、原因がわからず。もしかすると、呪いの類ではないかとおっしゃっておりました」


 中に入ると、すぐベッドで苦しんでいる子供を発見した。ここは一部屋しかなく、リビングも寝室も全て一まとめとなっている。

 風呂は今となっては中立街へと赴けば、大浴場があるため少し遠いがそこで済ませられる。それまでは、井戸の水などで体や髪の毛を洗っていたそうだ。


「……」

「どうかな?」


 子供からは黒い靄のようなものが出ている。おそらくこれが原因だろう。


(この感じ……オルカを苦しめたあの魔力に似ている)


 だが、何が違う。しかし、これがオルカを苦しめていた魔力と同じなのであるなら。


「ちょっと、シルビアあんたなにを」


 突然右拳を振り上げるシルビアにエリン以外は驚いていた。


「心配することはない。ただ……呪いを打ち砕くだけだ!!」


 魔を砕く拳。【魔砕拳】が体を覆っていた黒い靄へと当たり、ひびが入る。

 そしてガラスのようにパリン! と音を響かせ砕かれた靄は、どこかへと四散した。


「あ、あれ? ……く、苦しくない!?」


 さっきまで苦しんでいた子供の顔に生気が宿り、喜びのあまり母親に抱きついている。どうやら成功したようだ。【魔砕拳】で砕けたということは、子供を覆っていたのは魔なる力。

 これで無理ならば、シルビアにも打つ手がなかった。


「あ、あんた本当にすごいね。拳ひとつで病を治しちゃうなんて」

「そうだよ! お姉様はすごいんだよ! ここに来る前だって、こーんな! 大きな巨人とわたしと合体して倒したんだから!!」

「きょ、巨人と? 合体? な、なんのことだい?」


 シルビアのことを思いっきり自慢するが、ヴァーバラにとってはなにが何のことだが理解不能だったようだ。


「あ、ありがとう! シルビアちゃん!! この子を救ってくれて!!」

「ありがとう、シルビア!! やっぱり僕達のリーダーはすごいよ!!」

「少し失礼。奥さん、それに君も。このことは内密に。もし、どうやって治したのかと聞かれたら、心優しい聖人様が治してくれたと。ヴァーバラさん、あなたもどうか」

「……わかったよ。まあ、真実を話しても信じてもらえないかもだけどね。病を拳で砕いたって、冗談にしか聞こえないよ」


 苦しんだ子供は呪いから解放された。しかし、シルビアは違和感を感じている。先ほどの確かに靄を砕いた。

 もう子供には一切の靄がない。


(あの消え方。まさか)

「おわー!? な、なんだこれ!?」


 近くの公園で遊んでいた子供の声だ。まさか! とシルビアは家から飛び出す。


「あんた達!! なっ!? あの靄はさっきの」

「やはりそうか」


 外に出ると、あの黒い靄がうねうねと生き物のように蠢きながら子供を襲うとしていた。近くでは、ミミルが眼帯をしているほうを押さえ座り込んでいた。


「なんなのよ、こいつは!!」

「皆! 離れろ!!」

「シルビア!?」


 また襲われる前に、シルビアは拳を構え黒い靄へと接近する。


「はあ!!」


 今度こそ、粉々に砕かれた黒い靄。

 静寂に包まれる公園を何度も見渡し、もう違和感がないとわかり警戒を解く。


「皆、無事か?」

「お、おう! なんともないぜ!!」

「ミミルは、大丈夫か?」


 まさか目をやられたんじゃないかと覗き込むが、なんともないようだ。


「だ、大丈夫。ただちょっと目が痛かっただけだから……」


 そういえばミミルの眼帯の下がどうなっているのかシルビアは知らない。痛んだ、ということは古傷があるのだろうか。


「さっきの靄はなんだったんでしょうか?」

「なんだか、オルカを苦しめた魔力に似ていた気がするけど」

「……それについてはまた後で。それよりも、我輩の用事は終わった。さっきの靄も倒した。久しぶりに貧民街中を使いかくれんぼをしよう!!」

「おー! マジか!」

「今度こそ、シルビアちゃんから逃げ切って見せるぞー!」

「お? かくれんぼですか? それならユネは大得意ですよ!!」


 子供達を不安がらせないために、シルビアはボルトリンに来る前によくやっていた遊びをすることにした。まだまだ不安が残るが、今は子供達との遊びを素直に楽しむとしよう。

 こうしてユネ達も加わったかくれんぼ。

 ルールは簡単。シルビアが鬼となり、時間内に逃げ切ること。隠れる範囲は貧民街中。隠れるところが多いため、一人だけのシルビアが不利のように見えるが……。

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