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第九話「貧民街のお姉さん」

「まずはどこを案内しよう? ここも我輩の庭みたいな場所だ。どこへなりと案内するぞ」

「じゃあ公園!! 望遠鏡で見た時公園があるの見えた!!

「そういえばそうでしたね。なんだか、やたら新しめというか。そこだけ雰囲気が違いましたね」


 あぁ、あそこかとシルビアは歩き出す。


「では、こっちだ。貧民街は結構入り組んでいるゆえ、はぐれないようについてくるのである」

「じゃあ、わたしは手を繋ぐ!」

「じゃあユネも!」

「じゃあ、私はユネちゃんと」


 次々に手を繋いでいく中、ピアナだけ戸惑っていた。そんなピアナに、シルビア達が繋がないの? と訴えるように見詰めている。


「つ、繋がないわよ。普通についていけばいいじゃない。それに横並びになって歩けば通行の邪魔になるわ」

「おぉ、さすが優等生。そういうところまで考えているとは」

「別に優等生じゃないんだけど……それぐらい普通でしょ?」

「仕方ありません。横並びを止めて、縦並びになりましょう」

「はーい!!」


 そういう意味じゃないわよ!! と突っ込みたかったピアナだったが、これ以上言い争っても変わらないと思い、観念したように手を繋いで縦並びになった。

 

「うむ。これで大丈夫だな。では、出発である!!」

「おー!!」

「足下にはお気をつけをー」


 手を繋いだまま歩いていると、丁度家から出てきた一人の女性と出くわす。どうやら買い物に出かけるようで、籠を手に提げていた。


「あら? シルビアちゃん。おかえりなさい。子供達なら、公園に居るわよ」

「ただいまである。今から公園に向かうところだ。そっちは買い物か?」

「ええ。今晩は週に一回のお肉の日だから」

「そうであったか。ならば、急いだほうがいい。先ほど肉屋で半額セールをしていたのである」

「え!? 本当!? ありがとうシルビアちゃん! 子供達によろしくね!! お友達も、ごゆっくり!!」

「あ、はい。そちらもお気をつけて」


 随分と元気な女性だとユネはずっと彼女の背中を見詰めていた。


「今日はお肉の日なんですか?」

「稼ぎが少ない家庭では、そういう日がよくあるそうだ。これでも、昔よりはよくなったほうだと聞いている」


 今のフラッカになる前は、王からの支援が全然と言っていいほどなく、貧民街では肉を食べることすら年に何回あるかどうかだった。

 だが、中立街でちゃんとした働き口があり、買い物ができるようになってからは、程よいほどに良い物を食べられるようになったのだ。それにより、大人も子供も飛び跳ねるほどの元気のよさを得た。


「確かに、そうなんでしょうね。今の彼女を見たらよくわかるわ」

「お? 到着したぞ。あそこが目的地の公園である」


 女性と分かれてからしばらくし、公園に到着した。ユネ達の言う通り、ここだけ雰囲気が違う。まるで新品のようにぴかぴかと輝いている遊具の数々で、子供達が遊んでいた。

 

「シルビアじゃんか! 久しぶりだな!!」

「いつ戻ってきたの?」

「わー! シルビアちゃんだ! おかえりなさい!!」


 一人の少年が気づき、そこから連鎖するように公園で遊んでいた子供達が元気に声をかけてくる。


「皆、元気そうで我輩も安心した!」

「あったりまえだろ! お前こそ、ちゃんと勉強してんのか?」

「言われずともやっている。なんなら、教えてやろうか?」

「あ、いやそういうのはいいよ」

「だめだよー! 学校に行ってなくても勉強しないと!」

「こ、子供は遊ぶのが一番だってよくいうだろ!?」


 数ヶ月ぶりに再会した子供達と挨拶を交わしたシルビアは、さっそくボルトリンで仲良くなった友達を紹介すべく、一列に並ばせた。


「紹介しよう。我輩がボルトリンで仲良くなった友達だ」

「ユネです! よろしくお願いします!!」

「ミミルです。皆、よろしくね」

「ピアナよ。まあ、よろしくね」

「シャリオだよ! 仲良くしようね!」

「おう! よろしくな!! にしても、いいタイミングで来たなお前達」


 一番の悪ガキっぽい少年が、にやりと笑みを浮かべる。どういうことだろう? と首を傾げていると、一人の女性がこちらに近づいてくるではないか。


「なんだい? 新入りが来たのか、ガキども」

「新入りも居るけど、俺達のリーダーが帰ってきたんだぜ姉ちゃん!」

「あれ? お姉様、あの人って」

「シャリオちゃん、あのお姉さんのこと知ってるの?」


 確かに、シャリオも。シルビアも知っている。赤い髪の毛を揺らし、現れたのは以前戦闘を繰り広げたことのある女傭兵。

 髪型が変わっているため雰囲気が違うのか。それともこれが普段の彼女なのか。


「お! そうだったのか。じゃあ、挨拶しておかないとね。……え? あ、あんた達は」


 どうやら相手もシルビア達に気づいたようだ。


「久しぶりであるな。まさか、君がここに居るとは思わなかったぞ。ヴァーバラ」


 シャリオと出会った森で、一戦交えた傭兵。あの時は、鎧やナイフなどの武器を全身に装備し、髪の毛もポニーテールだったが、今のヴァーバラは全ての装備を外し、髪の毛も肩から垂らすようなものとなっている。


「なんだよ、シルビア。お前姉ちゃんのこと知ってたのか? 姉ちゃんはずっと俺達のためにって外で働いていたのに」

「こんな偶然もあるんだね。……なんだか変な気分だけど。改めて自己紹介だ。あたしは、ヴァーバラ。ここの生まれで、この子達のために金稼ぎをするため傭兵をやっていた」

「ユネです。あの、やっていたというのは。それにシルビアやシャリオとはお知り合いのようですが」


 関係性を聞かれて、どう言えばいいのかと頭を掻く。確かに、三人の関係性をここで喋るのは難しい。真実を言えば、完全にヴァーバラが敵視され、子供達にも信用されなくなってしまう。

 そもそもどうしてヴァーバラが無事なのか。

 それはあの森での出来事があった時までさかのぼる。山賊と同じく武器という武器を取り上げられ、ロープで身動きを封じられたヴァーバラの処遇をどうするかナナエと共に考えていると。


「お姉さんはいいよ」


 とシャリオが言った。どうしてかとナナエが問いかけると。


「だって、お姉さんはそこの人達みたいに嫌な感じしないし。悪党に見えないもん」


 本当の悪を知らない子供だからこその直感なのか。何はともあれ、シルビアも彼女が本当の悪党には思えなかったため彼女だけ解放したのだ。

 去り際に彼女は、何かを言いたそうにしていたが、何も喋らず去っていった。それっきり、彼女がどうしたのかはシルビア達にもわからなかった。また傭兵として働いているか、どこかで修行をしているか。

 答えは、故郷に戻って子供達と楽しく暮らしていた、だった。


「彼女とは、シャリオと出会った森の中で偶然遭遇してな。襲ってきた山賊達を一緒に撃退してくれたのだ」

「そ、そうだったんだ。ありがとうございます、ヴァーバラさん。シャリオちゃんを助けてくれて」

「あ、いやその……いいんだよ! 困った時は助け合いってね!」


 本当は襲った側のため、複雑そうな表情をしつつもシルビアの言葉にのる。簡単には整理がつかないだろうが、今はこのまま嘘でやり過ごすのが一番だ。


「さすがヴァーバラ姉ちゃんだぜ!!」

「正義の味方ー!!」

「ばーか。あたしは正義の味方ってガラじゃないよ。そんなことより、向こうで遊んできな。あたしは、ちょっとこの子達と話があるからさ」


 と、シルビアを指差す。

 そういうことならと、ユネ達が子供達の隣に移動していった。


「よーし! 皆!! ユネ達が思いっきり遊びに付き合ってあげますよ!!」

「わーい!!」

「仕方ないわね。ちょっとだけ、魔術見せてあげるわ」

「魔術!? 見たい! 見たい!!」

「お姉ちゃん。目どうしたの? 怪我?」

「あ、えっとこれは」


 こうしてシルビア、シャリオとヴァーバラの三人になったところでまずため息を漏らし、頭を掻く。


「えっと……なんていうか、久しぶり、だね」

「ああ」

「お久しぶりー。お姉さんってお姉様と同じ出身だったんだねぇ」


 いまだヴァーバラは話し難い態度で、シャリオの無垢な笑顔を受け入れられないで居た。当然と言えば、当然だ。


「あたしもびっくりだよ。まさか一戦交えたとんでも少女と故郷が一緒だったなんてね」

「君は、あれからすぐ故郷に?」

「……ああ。あんた達と別れてから、あたしはずっと魂が抜けたみたいに彷徨ってた。頭の中からあんたの言葉が、真っ直ぐな眼差しが中々消えなくてね。今までは、金を稼ぐために傭兵としてなんでもしてきた。悪徳商人の護衛から……あ、いや」


 シャリオを見て、喋るのを止めた。おそらく人殺しも数え切れないほどやってきたのだろう。それも、金で依頼されて。

 そいつが悪者かどうかも知らされず。ただ彼女もシャリオが言っていたように根っからの悪党ではないはずなので、相手がどういう相手なのかある程度はわかるはずだ。だが、それでも生きていくために、ここの子供達のために、自分の手を汚してまで金を稼いできた。


「ともかくだ。……シルビア。あんたの言葉を否定したけど。気づけばあたしはここに戻ってきていた。そして、子供達と再会してあたしはやっと気づいた。やっぱりあたしは、この子達のためにかっこよくて頼りになる大人で居なくちゃってね。だから、もう汚い仕事をする傭兵は辞めて、ここで冒険者として新たな道を進んでるよ」


 あの時のヴァーバラと違い、死の空気が消えた。森で出会った時のヴァーバラは、本当にいつでも死んでもいいという空気があったのだ。

 

「そうであるか……」

「じゃあ、お姉さん。もう悪いことしない?」

「ああ、もちろんさ。ずっと悪さしていた分、命尽きるまであたしは正義の味方で居ようって」


 いい心がけだが、シルビアは首を横に振る。


「それは違うぞ、ヴァーバラよ」

「え?」

「心意気はいいが、命は大事に、である」


 彼女の言葉からは、いざという時は命を捨てる覚悟という風にも聞こえる。それでは、残された子供達が悲しんでしまう。


「……まったく。本当にあんたは十歳なのかい? 実はエルフとか長寿の種族であたしより年上なんじゃ」

「残念だが、我輩は十歳の人間だ」


 精神年齢は彼女よりも上だが、それは伏せておこう。

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