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第八話「貧民街へ」

 二階へと上がると、そこはまた広い空間だった。

 しかし、一階と違うとすれば展示物が多いというところだろう。ガラスでできたケースにしっかりと護られている花瓶や書物、中には硬貨なども展示されていた。

 そう、ここはフラッカの歴史を知ってもらうための展示エリアだ。


「へえ、確かに一階よりは楽しめそうね」

「こういうものって、専用の博物館とかそういうものがあるのでは?」


 もっともな疑問に、シルビアは硬貨が並べられているケースの前に立ち説明していく。


「昔はそういうものがあった。しかし、そこはフラッカ王が建設したところだった」


 その説明で、ユネ達はなんとなく察しがついたように沈黙する。


「フラッカの貴重な歴史物を王は独占し、人々が見ようとしても多額の入場料や厳しい制限をつけていた。王が去った後は、制限もなく自由に入れる博物館が残った……のだが、展示されていた物を王が逃げる時に根こそぎ持っていってしまったのだ」

「うわぁ、ただでは逃げないってことですか」

「その後、博物館は?」

「取り潰された。ここに展示されているのは、フラッカに住む人々が所持していた物と旅の商人から購入し、本物だと鑑定したものばかりだ」


 本来ならば、ここに展示されている物よりも多くのものがフラッカにはあった。博物館も実際かなり良いものだったため取り壊すのは躊躇った。

 が、あの王のことを思い出すのと、残っているものを展示するのには広すぎる理由から取り壊しが決定したのである。


「気持ちはわかるわ。嫌な思い出があるものは壊したいって」

「でも、他の施設として再利用する方法もあったのではとユネは思うのですが」

「我輩もそれは思った。が、もう博物館はない。どうすることもできないのである。……それに、今のフラッカがあるのはこの監視塔がある中立街のおかげ。ここに展示するのに、誰も反対はしなかった」


 なによりも、二階でもここは結構な高さだ。展示物を見ながら、窓ガラスから見えるフラッカの街並みも同時に見れる。

 観光客からしても、中々いいところだと評判だ。なによりも入場料がないため貧民街の人々でも、自由に見ることができる。子供へ街の歴史を教えるにはうってつけの場所でもあるのだ。


「……じゃあ、楽しみましょうか。フラッカ自慢の博物館を」

「うん。同時に、フラッカの街並みも見れるなんてすごいね」

「三階に上ればもっと遠くを見渡せるはずですが……まずはここで楽しみましょうか!」

「おー……お姉様、これなに?」

「それは、大昔フラッカで使われていた硬貨で」


 フラッカの歴史を存分に味わったシルビア達は、三階へと向かう。三階は、望遠鏡が多く設置されており、どこもかしこも窓ガラスの壁だった。

 

「ここは見ての通り、街並みを楽しむところだ。こっちが貧民街。こっちが貴族街。こっちが中立街を見るための望遠鏡だ。見たい街並みから自由に選らんで楽しむのである」

「ではさっそく貴族街を! ……ほう。到着した時に出会った女の子達がまた公園で遊んでますねぇ。あっ、もう一人追加です!」

「むむ! またアイスクリーム屋の子が怒られてる!!

「こっちは、貧民街ね。……ん? あれってまさかアンノーカ?」


 それぞれの街並みを楽しんでいると、ピアナが貧民街のほうでアンノーカを見たと呟く。気になったシルビアももうひとつの望遠鏡で貧民街のほうを見る。


(ふむ。子供達に絡まれているようだな。今のところ、目的の場所へ向かっている最中と言ったところか)


 特に変わった様子はなかった。ただ元気いっぱいの貧民街の子供達に絡まれ、身動きが取れない状態になっているだけだった。

 

「何してるのかしら、あの人」

「子供達と戯れているだけであろう。我輩達もこれから向かう場所だ。覚悟をしておいたほうがいいぞ? あそこの子供達は元気がよく、悪戯好きだ」


 それを聞いたピアナは、正直行きたくないような表情をする。


「それは楽しみですね! どれ! その元気いっぱいの子供達を今のうちに見ておきましょう!」

「わたしもー!」


 他の街並みを見終わったユネとシャリオがこれから向かう貧民街を眺め始める。これは自分だけ逃げるわけにはいかないかと、諦めたように息を漏らし中立街を見るためピアナは移動していく。


「シルビアちゃん。あれはなに?」

「ん? どれだ?」




・・・・・☆




 十分に監視塔を楽しんだところで、さっそく貧民街へと向かうことにした。もう昼を大分過ぎてしまい、人々も食べるよりも、買い物を楽しんでいるようだ。


「ん? おー、シルビアじゃないか。久しぶりに見たと思ったら、お友達を連れてまた貧民街か? 飽きないなぁ」


 他の検問所と違い、兵士とは思えない格好。言うなれば、ただのおっさんが話しかけてきた。


「飽きるも何も、我輩はそう思ったことなど一度もないが? 君こそ、また酒を飲んでいたりしていないであろうな?」

「はっはっは! 別にいいんだよ、飲んでても。若い連中がやってくるんだからよ」

「先輩。いい加減にしないと、仕事失いますよ? あっ、久しぶりだねシルビアちゃん」


 すると、無精髭が目立つおっさんと違い好感の持てる好青年兵士が呆れた様子で現れた。二人だけしかいないのは、貧民街へと行く者達が少ないためだ。

 が、放置しているというわけではない。

 

「ねえ、あのおっさん大丈夫なの?」

「ああ、大丈夫だ。彼はああ見えて、優秀だからな」

「優秀? ……本当ですか?」


 どう見ても普通のおっさんにしか見えないユネは、眉を顰める。それに大して青年兵士は苦笑しながら先輩のフォローに入った。


「先輩はこんな態度だけど、本当に優秀なんだよ? まあ平和過ぎてこんな風になっちゃったんだけど」

「平和が一番だぜ? ほれ、通りたければさっさと通りなお嬢さん方。あっ、だがひとつ気をつけろよ。さっき変な仮面を被った奴が入っていったからな。悪者じゃなさそうだが、一応注意しておけ」

「あー、それなら心配いらないわ」

「一応……その知り合いなので」


 その変な仮面とは、エリンのことだろう。やはりあの姿では怪しまれるのは当然といえば当然だ。無害ではあるが、完全に不審者にしか見えないだろう。

 簡単なチェックを終え、貧民街へと入っていくとすぐピアナがため息を漏らす。


「帰ったかと思ったら、まさかこっちに来てるなんて」

「でも、悪い人じゃないし。格好は変だけど、紳士的っていうか」

「ミミル。騙されてはいけませんよ? 紳士的な態度が一番怪しいんです」

「そうなの!?」

「いや、全部が全部そういうわけではないと思うが」


 ユネ達は、まだアンノーカの正体を知らない。いや、知っていてもどう変わると言われれば……あまり変わらないかもしれない。

 ただ仮面がない分、怪しまれないし話しやすくなるのは確かだ。

 

「で、シルビア。ここが貧民街、なのよね。……うん、なかなか味のあるところね」

「こういうところに来ると、故郷を思い出します! 雰囲気がなんだか似ている気がするんです! ね? ミミル!!」

「うん。でも、故郷よりは建物が多いよね。やっぱり大都市だからかな」


 貴族街、中立街と違いどこか薄暗い雰囲気だ。が、しっかり太陽の日差しに照らされており真っ暗というわけではない。

 先に明るい雰囲気の場所に行った後なため違和感はあるだろう。

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