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第六話「仮面の下は」

「うおっ!? な、なんだ?」

「きゃっ!?」

「なんださっき風は!?」


 速い。シルビアが簡単に追いつけないとは、中々の素早さだ。一般人には、二人が速すぎて風が吹いたかのように感じているそうだ。


「あははは! 銀髪のお嬢さん! なぜ私を追いかけてくるのかな!!」


 軽く跳躍し、建物の屋根へと移りながらアンノーカが問う。

 シルビアも負けじと、跳躍しアンノーカを追いかけ続ける。


「君こそ、なぜ逃げる? 我輩は少し話があるだけと言っているはずだが!」


 さっきから、話があるから止まって欲しいと何度も言っているのだが、一向に止まる気配がない。


「それはお嬢さんが追いかけてくるから」

「君が逃げるから追いかけているだけだ。君が止まってくれれば、我輩も追いかけないのである! なぜ、止まってくれない。少し聞きたいことがあると言っているだけではないか!」

「わ、私は忙しい身。ギルドマスターなんだよ、お嬢さん! これからまだまだ仕事の予定がだね」


 明らかに動揺している。

 やはり、シルビアが聞かんとしていることに気づいているようだ。それにより、シルビアも余計に彼女の正体を知りたくなった。

 もし、シルビアが予想している人物だったとしたら。


「そういうことなら」

「おや?」


 まるで追いかけるのを止めたかのように、裏路地へと降りていくシルビア。アンノーカも、一瞬諦めてくれたかと思ったようだが、動きを止めることはなかった。

 対してシルビアは、静かに周りを見渡し、とある場所を発見する。


「我輩も少々本気でいかせてもらうぞ、アンノーカ」


 そして、シルビアと離れたアンノーカは中立街入り口近くの裏路地で小休憩をしていた。


「ふう……まったく、やっと撒いたようだが」

「誰をであるか?」

「ひゃう!?」

「捕まえた」


 突然姿を現し、油断していたアンノーカの足を払うシルビア。仰向けに倒れた彼女に覆いかぶさるように、乗りかかりにやりと笑みを浮かべる。


「い、いったいどこから」

「残念だったな、アンノーカ。ここは我輩の故郷。君が行きそうなところを予想し、先回りをさせてもらった」


 そう言って指差した方向には、下水道へと繋がるマンホールがあった。そう、シルビアにとってフラッカは庭も同然。逃げようとしても無駄なのだ。

 そしてなによりも、貧民街、貴族街の出身ではない彼女が出れるところと言えば中立街の入り口しかない。それだけわかっていれば、どこに居るのかを指で数えれるぐらいまで絞ることができる。

 

「……不覚だった。まさかここまでの切れ者だったとはね」


 素直に感服しているようだが、シルビアは容赦なく仮面に手をかける。


「ちょっ!? な、何をするんだい!?」

「君の正体を知りたい。乱暴だと思っているが、どうしてもな」

「や、止めなさい! す、素顔を晒すのはだめだって言ったじゃないか!」


 よほど素顔を晒したくないようだ、かなり強い力で抵抗してくる。正直、シルビアも本来ならばここまですることはないと思っている。

 しかし、シルビアの考え通りの人物であるならばどうしてここに居るのかと知りたい。

 

「失礼」

「わひゃ!?」


 一瞬の隙を作るため、おもむろにその大きな胸を空いている手で鷲掴みにした。やはり胸は弱いようで、力が弱まる。


「隙ありだ!!」

「あー!?」


 一瞬の隙を見逃さず、仮面を取り外した。


「……き、君は」

「はうぅ……! み、見られた……! 見られちゃいましたぁ!!!」


 紳士的な態度はもうなく、素顔を見られたという恥ずかしさからもじもじと女の子らしい動きをするアンノーカ。

 仮面を外し、素顔を確認したシルビアは硬直している。なぜなら二つの衝撃があったからだ。まずひとつに予想していた人物と違ったからだ。

 シルビアの予想では、正体を隠し世界に降臨していた女神ディアナだと考えていた。髪の色も、ディアナだとばれないように変えていたと思っていた。もし予想通りディアナであったのなら、かなり失礼なことをしている、謝らなければと。でも、ディアナではなかった。


 ディアナではなかったが、シルビアが知っている人物であった。

 なぜ考えなかったのだろう。

 どうしてわからなかったのだろう。それはシルビア自身が……いや、ボルトバ自身もう会えないものだと思っていたからだ。

 今も尚、なんとか素顔を隠そうと恥ずかしそうに両手で覆っている空のように美しい髪の毛の女性に、シルビアは仮面をそっと置き、話しかける。


「まず、無理矢理正体を暴こうとしたこと、申し訳なかった……」


 謝罪の言葉を聞いた青髪の女性は、動きを止める。


「そして……久しぶりであるな―――エリン」

「……はい」


 エリン。それはボルトバだった頃、共にギルドを支えていた者の名前だ。あの頃は、まだ幼さがあり、胸もここまで大きくなかった。

 何よりも、あれから八十年以上も経っている。もう死んでいたものだと思っていた。

 生きていたとしても、ボルトバと同じぐらいの老人だと思っていた。

 だが、どうだ? 目の前に居るエリンは、世の男性を魅了させることができる立派な女性として生きている。これが、二つ目の衝撃だ。


「我輩のことが、わかるか?」


 シルビアは、彼女から離れ、その場にしゃがみこみながら問いかける。


「当然、じゃないですか。私が、ボルトバ様のことをわからないはずがありません。いくら姿が変わろうとも。女の子になろうとも……魂は昔となんら変わっていませんでしたから。あなたは、私が憧れた。そして大好きな初代ギルドマスター……ボルトバ様です」


 その場に座り込み、涙を流しながら微笑むエリンの言葉が心に染みる。あれから八十年以上も経っているというのに、まだここまでの信頼があるというのは良いものだと。


「それにしても驚いた。まさかエリンが現役だったとは」


 落ち着いたところで、久しぶりにエリンとの会話を楽しむため近くにあった木箱を椅子代わりに腰を下ろし、シルビアから問いかける。


「お忘れですか? 私はハーフエルフですよ」

「そ、そういえばそうであったな。すまない、ど忘れをしていたようだ」

「いえ。ハーフエルフは普通のエルフと違って特徴がありませんから。見た目が普通の人間となんら変わりませんので、見分けることはかなり難しいと言われています。エルフにはわかるようですが」


 エリンはエルフと人間のハーフ。他種族が交わって生まれたハーフ種なのだ。ハーフエルフは、人間の外見生命力に加え、エルフの魔力に精霊との会話などを受け継ぎ、エルフと同じぐらいの寿命を持つ。

 エルフと違い、体は二十代ぐらいまで成長し、何百年経つまで止まる。つまり、今のエリンは二十代前半か後半ぐらいだろう。


「こほん……で、いつから我輩だと?」


 長く自分に付き添ってくれたというのに、種族名を忘れてしまったことへ対し後で自分なりの処罰を下すとして、次の話題へと切り替える。


「ボルトバ様が……あいや、今はシルビア様でしたね。入学試験のためにガゼムラに訪れた時に」

「そうだったのか。だが、どうして素顔を隠すようなことを?」

「やっぱり初代が凄過ぎたせいか、二代目としてギルドマスターになった私への当たりが強かった、からでしょうか。あ! あの! 別にボルトバ様が悪いっていうわけでは……! その!!」


 失礼なことを言ってしまったと、慌てて弁解しようとするエリンは昔と変わらず見ていて微笑ましい。幾分か女性らしくなっても、やはりエリンはエリンということか。

 

「気にしていないのである。まあ、言いたいことは理解した。つまり、ギルドマスターとしてインパクトのある存在となるべくあの格好をした、ということであろう?」

「さ、さすがボルトバ様! あっ、いやシルビア様」


 まだ慣れていないようで、自然とボルトバと言ってしまうようだ。彼女にとって目の前に居るのは、姿が変わろうともボルトバとして認識してしまう。

 これは慣れるまで大変そうだと思いつつ、次の質問を投げる。


「我輩から逃げた理由は?」

「えっと……それは、その」


 なにやらとても言い難そうにしている。

 ふむっと、シルビアなりに理由を考え、言ってみた。


「我輩にあのキャラで接していたから、正体が知られたくなくなった……とかであるか?」

「うぅ……」


 どうやら正解だったようだ。正体がばれた時以上に顔を真っ赤にしている。更に、羞恥に堪えられなかったのか。

 仮面を被って、素顔を隠してしまう。


「その仮面。気や魔力を抑える役割があるようだな」


 最初は少しの違和感だったが、目の前で被るのを見て理解できた。被っていない時と被っている時とでは気の感じ方が違う。

 このようなマジックアイテムがあったとはと驚きつつも、背中を摩る。


「まあまあ。我輩は、好きだぞ。あのキャラ」

「そ、そうですか?」

「エリンも、あんな演技力があったんだと我輩は嬉しく思っている」

「あ、ありがとうございます!」


 少しは元気になったようで、よかったと安心したシルビアは木箱からぴょんっと跳ねるように立ち上がる。


「もっとエリンと話をしたいところだが、友を待たせているゆえ、急がねばならない。こっちが一方的に追いかけておいてなんだが、すまない」

「いえいえ。ぼる……シルビア様が謝る必要はありません。私も、素直にあなたとこうやって会話をすべきだったんです。私のほうこそ、申し訳ありませんでした!」


 互いに頭を下げあったことに、思わず同時に笑みが零れる。二人とも、なんだか謝ってばかりだなと。


「私は、まだフラッカに滞在するつもりです。なにかあった場合は私を頼ってください。あなたのためなら、颯爽と駆けつけ手助けをしますので!!」

「ありがとう、エリン。では遠慮なく頼ろう。では、我輩は」


 立ち去ろうとしたが、もうひとつ気になったことがあったため立ち止まる。


「エリン。言えなければいいのだが、君はここへ何をしに?」


 確かにギルドマスターとして、他のギルドとの交流は大事だ。嘘を言っているとは思っていない。しかし、他にも何かがあるんじゃないかとシルビアは思った。

 交流ならば、冒険者同士でやるのが一般的だ。

 ギルドマスターだけが訪れても、正直あまり交流しているようには思えない。これは、ギルドマスターをやったことがある者として感じた違和感だ。


「……シルビア様も知っていると思いますが、最近になって謎の勢力が活発的に動いています。私個人で色々と調べた結果。このフラッカで今、謎の現象が起こっているとの情報を得ました」

「フラッカで?」

「はい。噂では、真っ黒なものが人を襲い、呪いをかけ苦しめていると。私は、これからその呪いをかけられた者のところへ行くつもりです」


 そんなことがフラッカで起こっているとは、街の雰囲気からは感じられなかった。ここはシルビアの故郷。そんなことを聞かされては見逃すことはできない。

 

「その者が居る場所は?」

「貧民街のとある民家です。そこの少年が呪いにかかっているという情報を得ました。……これが地図です」


 シルビアのことだ。絶対気になって自分の目で確かめたいと思うに違いない。エリンは、そう思い呪いがかかった少年の民家へのルートが描かれた地図を渡す。

 それを確認したシルビアは、なるほどと頷き地図を返す。


「ここならば我輩も知っている。それに、丁度皆を連れて貧民街へと行くつもりだった。その時に、立ち寄らせてもらおう」

「では、それまでお待ちしております」

「うむ。それでは、また会おう!!」

「いってらっしゃいませ、シルビア様」


 一時、エリンと別れ皆が待つ監視塔へと駆けるシルビア。移動している中で、先ほどの話が脳裏に過ぎる。


(まさか、オルカ達を襲った連中の仕業か? それともシャリオを狙っている者達か? ……どちらにせよ、我輩の故郷で好き勝手にはさせない!)

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