第四話「再び中立街へ」
昼食を手早く済ませ、シルビア達は中立街へと向かう。
リオーネにナナエ、リューゼは今回家に残るそうで、出かけるのは仲良し四人組にシャリオを加えた五人だ。
貴族街を颯爽と抜け、検問の兵士達に挨拶をして、再び中立街へ。
昼時ということもあり、来た時よりも大分人が多くなっているようだ。
「さすがに、人が多いですね……」
「お祭? お祭かな?!」
「残念だが、違うんだシャリオ。だが、毎年この時期に夏祭りが行われる。その時を楽しみにしているといい。毎年参加している我輩が楽しさを保障するのである」
「ほんと!? わーい!! なっつ祭! なっつ祭ー!」
フラッカでは、毎年この時期になると祭を行う。当然会場はこの中立街となり、三日間続く長い祭となる。さまざまな出店や催しがあり、シルビアも毎年親子で参加していた。
予定としては、シルビアが特に楽しかったところを案内するつもりだが、それは後の話。今は、通常の中立街を案内することに専念しようと、シャリオと手を繋ぎながら先頭を歩く。
「まずは、来た時にも見たと思うが貴族街から入ってすぐ右手にパスタが美味なレストランがある」
「ふむ。なかなか外観も綺麗で、貴族がよく出入りしていますね」
「まあ、貴族街に近いってこともあってお高い貴族達のために用意されたレストランなんでしょ?」
ピアナの言う通り、高価な食べ物に舌が慣れ過ぎた貴族達ように建設された中立街でも一、二を争う高級レストランだ。
貴族街にも高級レストランはいくつかあるため、わざわざ貧民達と交わるここで食べる貴族は最初は少なかった。しかし、興味本位で入って貴族の口コミから徐々にこのレストランエムラスは話題となり、今では多くの貴族達が足を運ぶようになった。
「ピアナはもう一般庶民の味に慣れましたか?」
「むしろそっちのほうが私としては好みね。貴族の食事ってなんだか作法がうるさいし、ちょっとずつしか出てこないし。毎回同じようなものばかりで飽きるのよ……」
「そういえば、ピアナちゃん。ハンバーグが大好きだったよね」
「わたしも大好き!! ハンバーグ!!」
「な、なによ。子供っぽいって言いたいわけ?」
ピアナと付き合うようになってから、休日などによく食事をするのだが。ハンバーグを注文することが多い。他にも、食後に毎回色とりどりなアイス盛り合わせなど。
作法など関係ないとばかりにがつがつと食べる。
「そ、そんなことないよ。なんだか可愛いなぁって」
「ふん……そんなこと言っても嬉しくなんかないわよ、もう」
と言いつつも、頬を赤く染めているピアナ。
「ピアナー、そこでアイスクリーム買ってあげますよー?」
食後のデザートはすでに食べているが、ユネはまだ足りないようで、あの貧民街の子供が店番をしていたアイスクリーム屋へと近づいていく。
「い、いらないわよ!!」
断るピアナだったが。
「あっ、普通のとチョコをひとつずつ。シルビア達はどうですか?」
「我輩も普通のを頼む」
「私はちょっと今はいいかな」
「わたし普通のとチョコのミックス!!」
聞こえているのに聞こえていないふりをしながら注文していく。別に嫌がらせをしているわけではない。今までのピアナの食べっぷりを観察したうえで、物足りないんじゃないのかとユネなりに考えた結果の行動なのである。
その証拠に、ピアナは購入したチョコのアイスクリームを素直に受け取り即座に口に運んだ。
「お買い上げありがとうな。さすがシルビア姉ちゃんの友達だな。気前がいいぜ!」
「こら、お客さん相手には敬語を使いなさい」
「わ、わかってるって」
「またのお買い上げお待ちしておりますね」
「じゃ、じゃあな……じゃなかった。また来てください」
左手にシャリオを、右手にアイスクリームを装備したままシルビアの説明は続く。
「ちなみにさっきのアイスクリーム屋は、我輩がよく立ち寄っているところだ」
「じゃあ、その時にあの子と仲良く?」
「いや、彼とは貧民街へと遊びに行った時に仲良くなった。他にも数え切れないほどの子供達とも」
シルビアは、貴族街の人間だが、貧民だからという弊害はない。中々苦戦したが、今となっては貧民街の人気者となっている。
そもそもが、シルビアが貧民街へと赴いたのは貴族というものをあまり誤解してほしくないという願いからだった。貴族の中にも、いい人達は居る。自分が直接赴き、態度で、言葉で伝えれば少しずつだが誤解が解けていくだろうと。
その証拠に、シルビア達が立ち去った後にアイスクリーム屋に訪れた貴族の子供と貧民街の子供が笑顔で会話をしている。これもシルビアの努力が成した光景と言えよう。
「色々やってるのね、あなたって」
「我輩は、自分が正しいと思うことをやっているだけである。っと、そこの玩具屋は中々面白い品々が揃っているぞ。一度立ち寄ってみよう」
アイスクリーム屋から少し離れた西南方向にクリエックと言う看板が立っている店を指差すシルビア。昔から面白い玩具を揃えており、貧民街の子供達でも手軽に購入できるのが売りだ。
「おー、なにこれ! 箱? これのどこが面白いの?」
店前に商品紹介ということで置かれているものを見てシャリオは、どこが面白いのかまったく理解していない様子だ。
ちなみに、防犯もしっかりしており、商品にくっ付いているタグを外さないまま店から離れると体中に強烈な電流が走る仕組みとなっている。本当にかなり強力なものらしく、一度商品を盗もうとした旅人が大声で悲鳴を上げ倒れるところをシルビアは目撃したことがある。
「これはおそらく典型的なあれですね」
「うん、これ私も見たことある」
「どういうこと?」
シャリオ以外は箱の意味を知っているようで、ピアナが試しに開けてみなさいと指示する。シルビアから手を離し、赤いスイッチのようなものをそっと押す。
すると。
「わっ!? び、びっくりしたぁ……」
箱の中からバネで繋がった変な顔が飛び出してきた。
「やっぱり。こんなことだろうと思ってたわ」
「でも、私達が知ってるびっくり箱よりなんだか顔が面白いかも……ふふ」
「そ、そうですか? ユネはそうは思わないですけど。……こっちはなんでしょうか?」
もうアイスクリームを平らげたユネは、他の商品を手に取る。
一見、ただの棒のように見える。
しかし、この店に置かれているものに普通のものは置いていないのだ。
「あっ、手品ようの棒ですかね? こうやって、棒の先っぽから花が!」
試しに棒を振ってみるユネ。
が、彼女の考えは間違っていた。彼女が持っている棒は確かに手品用。人を驚かせる玩具だ。ただ出てくるものが違う。
それがなんなのか知っていたシルビアが止めようとするが……遅かった。
「ひゃっ!?」
「おー……なんかすみません、ミミル」
「うえぇ……これ、なんかべとべとする」
花ではなく白い液体が飛び出した。ミミルをびっくりさせるために、彼女へ向けてしまったせいでその白い液体はミミルへと見事ぶっかけられた。
幸い、顔だけちょっとかかっただけなので、呆れたい様子で置いてあったタオルで拭き取る。
「このタオルがあった意味がこれで理解できたわ……まったく、なんてものを置いてあるのよ」
「ちなみに、その白い液体には害はない。どうやって製法したかは謎だが」
「それって害がないって言えるんですか? み、ミミル? なんともありませんか? 肌が荒れてるとか、気分が悪くなったとか」
かけてしまった手前、余計に心配になってしまっているユネ。ミミルの周りをあちこち触りながら、変なところがないかと探している。
「だ、大丈夫だよユネちゃん。あ、あのだからスカートの下とかは見なくていいから……!」
「ですが、こういう見られたくないようなところに変化が」
「……特におかしいところはないよ?」
「シャリオちゃん……!?」
ユネばかりに目を向けていたせいで、第三者の接近に気づかなかった。いつの間にかシャリオが、ミミルのスカートの下を覗いていたのだ。
「こら二人とも。女の子同士だからって、人前では止めなさい」
「人前じゃなくてもだめだよ……!」
こんな少女達のやり取りを見ていた男性達が、ちらちらと視線を向けていたことに気づいたシルビアとピアナはこの場から離れようと、駆け足で離れていく。




