第一話「実は?」
「ユネ=エトラって言います」
「ミミル=オービネスです」
「ピアナ=ルーンよ」
「この三人が、我輩のクラスメイトである。父上殿、母上殿」
荷物を各々の客室へと運び、いつもシルビア達が家族仲良く朝食などを食べている場所で自己紹介などをしていた。
「うんうん、君達のことはよく手紙で知っているよ。特にピアナちゃん。君は昔と随分と雰囲気が変わっていて驚いたよ」
「え!? わ、私の昔を知っているんですか!?」
あの頃は、あまり外に出ていなかったためピアナを知る者はほとんど居なかった。しかし、カインは昔のピアナの姿を知っていた。
なぜなら。
「知っていると言っても、君がシルビアと一緒に居たところを見ただけだけどね」
「あー……そっか。シルビアがあのパーティーに居るってことは当然」
「そう。私達も一緒に居たのよ。だから、あのピアナちゃんがそんなに変わっていたなんて。手紙で知った時はびっくりしちゃった。あの時のピアナちゃんって、控えめな性格そうだったから」
改めて、過去の自分のことを語られ恥ずかしくなり俯いてしまうピアナ。本来ならば、ここでユネが一言弄るように何かを言うのだが、今回はカイン達の前ということもあり抑えている様子。
「ルーン家は色々と周りとは違う考えのもと時代を築いてきたところだからね。特に、俺のような物理特化の奴に当たりが強かった……」
「もしかして、戦ったことがあるんですか?」
紅茶を飲んで少し落ち着いたところで、ピアナが問う。
「まあ、ね。一度だけだけど、まだシルビアが生まれる前の話だ。以前俺が入っていた騎士団の団長が無理難題を言ってきたんだ。ルーン家に喧嘩を売って来いって」
「うわぁ……」
その団長については詳しく知らないが、その一言でどんな人なのかは大体予想がついてしまった一同。
「正直、ふざけるなって思ったよ。そもそも他人とあまり関わることがないルーン家が、戦ってくれるはずがないって自分でも思っていたんだけど……」
「実際は、戦ってくれた、と?」
「当時、ルーン家でもかなりやんちゃだった奴が居たみたいで。運良くそのやんちゃな奴と出会って一戦交えたんだ」
「け、結果は?」
家出をしたとしてもやはり自分の家のことは気になるのか。ピアナは、身を乗り出す勢いでカインを見詰める。
皆が注目する中、カインはにっと笑い拳を握る。
「俺の勝利だ。と言って、かなりギリギリだったがな」
「……そんな人が居たなんて、私も初めて聞いたわ」
ピアナですら知らない事実。おそらく、ルーン家にとってそのやんちゃな奴というのはかなりの恥知らずだったのだろう。
負けたことを隠しているのかもしれない。カインが嘘を言う性格ではないことはシルビアもだが、ルカもよく知っている。この話は事実なのだろう。
「さて……君達は幼馴染なんだってね。どこの出身なのかな?」
ピアナについて一通り話したところで話題はユネとミミルへと移る。
「ユネ達は、ここから北側にある小さな村です。グオット村っていうんですけど」
「おぉ、グオット村か」
「知ってるんですか?」
「もちろん。まだ騎士見習いだった頃、演習でそこへ赴いたことがある。あの辺りは特訓に最適な場所が多かったから、団長と副団長はそれはもう張り切っていたな」
まあそのおかげでここまで駆け上がることができたんだけどな! と懐かしそうに笑うカイン。ユネやミミルの故郷があるグオット村近辺は山脈や森、谷などが多く騎士だけではなく、冒険者達も鍛えるために度々訪れている。
「そういえば、あそこにはこんな噂話というか。伝説のようなものがあったな」
「伝説?」
「ああ。大昔、あの辺りでは悪しき者達と一匹のドラゴンが戦闘を繰り広げていたと。そして、そのドラゴンは悪しき者達を長い年月をかけて退け、谷の底へと姿を消した……」
それは初耳だとシルビアは、ユネ達に視線を向ける。
「はい。確かに、そういう伝説が村には残っています。おとぎ話みたいに、子供は聞かされるんです」
「この地が平和なのは、ドラゴンが護ってくれているからだって。ちゃんと村にはそのドラゴンを模した銅像があるんです」
「へえ。ドラゴンが護ってくれている、か。そういえば、私もドラゴンは見たことないわねぇ」
ドラゴンとは、太古より存在する生物。
一説では、神々に生み出された最初の生命体にして最強の生命体とも言われている。どんな環境にも適することができ、一匹で何千と言う兵士達を圧倒すると。
実際三百年前に、ドラゴンを討伐して名を上げようとした武力国家が何千と言う兵士達を率いて一匹のドラゴンへと挑み成す統べなく返り討ちにあったと歴史書にも記されているほどだ。
中には、ドラゴンの亜種と言われている【ワイバーン】などがおり、通常のドラゴンと違い体は細く若干鳥に近い生態をしている。
ドラゴンよりも数が多く、集団で居ることが多い。
「【ワイバーン】ならば、戦ったことがあるが。ドラゴンはさすがにないなぁ。そもそもドラゴンを倒せば、それだけで英雄扱いだからな」
「でも、中にはユネちゃん達の村のように守り神のように祭っているところも多いから、英雄と思われないこともあるのよね」
国や大陸によってはドラゴンの扱いは違う。
倒せば英雄として扱う! というところもあれば、ドラゴンは自分達を護ってくれている聖なる生き物だと祭っているところもある。
つまり、場所によって魔物か聖獣で扱いが分かれているのだ。それだけドラゴンはとてつもない存在ということだ。
「わたしもドラゴンに会いたーい!!」
「おっと……元気だね、お嬢ちゃん。君は」
「シャリオだよ!」
「なるほど。では、あなたが」
さっきまで静かだったシャリオの一言で、話題が切り替わる。ちなみに、ナナエとリューゼはなにやら話し合うことがあるということで、この場にはいない。
「はい。リオーネと言います。すみません、お話の途中で娘が」
「いえいえ。元気なことは良い事です。いやぁ、シルビアもこれぐらい無邪気だったら」
「あなた。顔が気持ち悪いですよ」
「ちょっ!? 気持ち悪いってなんだ!?」
「言葉の通りです。妄想は、人様の前ではしないでください。それに、シルビアはシルビアのままで良いんです」
「だ、だがな? 俺としてはこう無邪気な笑顔で、こう! 甘えた声でお父さんとだな」
「えい」
「はうっ!?」
欲望が駄々漏れになってきたカインへとルカが触れたと思いきや、一瞬にして意識を奪ってしまった。ユネ達は驚いているが、シルビアはいつもの光景だと慣れたように紅茶を嗜んでいる。
「だ、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫ですよリオーネさん。お気になさらず」
「ですが」
「いつものことですので。カリア」
「ここに」
ドアの前でずっと待機していたカリア。ルカは、何かを指示すると気絶したカインをメイド達が持ってきたタンカに乗せ、部屋から去って行ってしまった。
これもいつもの光景だったため、シルビアはマシュマロを口にし笑顔を作る。
「さあ、静かになりましたし。お話の続きをしましょう」
「……もしかして、カインさんよりルカさんのほうが強い?」
あまりの手際のよさに、ユネは若干怯えながらシルビアへと耳打ち。
「まあ、大概母上殿には勝てないな父上殿は」
「何者なの、ルカさんって」
「ちょ、ちょっと怖くなっちゃった……」
本人には自覚はないが、いつもの行動で客人に多少の恐怖を与えてしまった。誤解されないように、後でフォローしておこうとシルビアはもうひとつマシュマロを口へと運ぶのであった。
ここでやっと出てくるユネ、ミミルのフルネーム!




