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プロローグ

第三章でーす。

「ここが中立街! いやぁ、中々賑わってますねぇ」

「ある種、フラッカの王都と言ったところか」

「そういえば、フラッカには王はいないんですか?」


 これだけの大都市だ。収める人がいないというのはおかしいとユネがシルビアに問いかける。


「昔は居たのだがな。この中立街ができてからは、どこかへと去っていってしまった。フラッカ王は、昔から貴族街を優先して、貧民街などどうとも思っていなかった」

「そう、だったんですか。てことは、今のフラッカになって貧民街の人達は凄く感謝しているんですね!」

「その通りだ」

「でも、すごいわね。まさか一国の王を追い出すなんて。本当に何者よ、中立街の創設者って」


 それはシルビアにもわからない。

 今のフラッカになったのは、シルビアは生まれる前の話。今のフラッカになって、早三十年が経つ。その創設者もまだ生きていると言われているが、相当な歳だろう。

 普通の人間であればの話だが。


「あっ! そこの旅人さん! どうだ! アイスクリーム買っていかないか!!」

「こら、お客様にはもっと丁寧な言葉を使いな」

「いてっ!? わ、わかったよ! だから叩くなってババア!!」

「ほら、口が悪い」

「あ、いやこれは!」


 近くにアイスクリーム屋がある。そこでは、シルビアと同じぐらいの子供がシャツと半ズボンのままエプロンをつけて、働いている姿があった。

 

「あの子は、貧民街の?」

「そうであろうな。こういう光景はここでは当たり前だ。中立街では、貧民街の出身だろうと職を与える。まあ全員ってわけではないのだが」


 全員を働かせたいところだが、そうもいかない。

 けど、それなりの待遇を与え、しっかり働けばその分だけ金が入ってくる。


「さすがに……貴族さんは働いている姿がないですね」

「ま、生活に困っていないから普通働くわけないわよね」

「うむ。ここで働いているのは全員が中立街に住み着いている者達や、旅人。それに貧民街の者達だ。貴族が来ることもあるが、それは働きにではない」


 シルビアの家がある貴族街方面へと歩きながら、観光をする。中立街に居るのは、創設者が連れてきた者達と旅人がほとんどだ。

 貴族もちらほらと居るが、多く居るわけではない。


「やっぱり、まだ仲が悪いの?」

「全員が全員そうではないが……まあ、悪いと言えば悪いかもしれない」


 今のフラッカになってから、昔よりは仲が良くなったほうだが。それでも自分達は貴族だ! と威張り散らかし貧民街の人々を威圧する貴族達は少なくはない。

 とはいえ、昔のように貴族街から貧民街へと赴き攻撃するということはなくなった。

 中立街という壁があるからである。

 たとえ中立街で騒ごうともすぐ警備兵達が仲裁に入るのだ。


「やっぱり、全員が仲良くっていうのは難しいんですね……」

「であるな。っと、皆。ここからは貴族街だ。馬車で移動もできるが、どうする?」


 話をしながら移動していると、貴族街への入り口へと到着した。

 そこでも厳重な検問が行われており、馬車が止めてある。

 

「うーん、荷物もありますし。馬車で行きたいところですが」

「大丈夫でしょ。ほら、リューゼ。ちゃんと持ってねー」

「くっ! 科学者である私が肉体労働など……!」


 何も持たずついてきたリューゼは、リオーネ、シャリオの荷物を運んでいた。リューゼの細い体にはかなりきついようで、体を震わせていた。


「はい、そこでシャリオちゃんの応援」

「頑張っておじさん!!」

「はっはっはっは!! 任せたまえ!! こんな荷物、私が運んでやろうとも!!」

「申し訳ありません、リューゼさん。あの、きつかったわたくしの分だけでも」


 と、自分の荷物を取ろうとするがリューゼがそれを止める。


「ご心配なく、ご婦人。これも良い運動になる! なに、私とて科学者ではあるが。それなりに鍛えてはいる!! これぐらいなんともないさ!!」

「頑張れー! おじさーん!!」

「頑張るともさー!! はっはっはっはっは!!!」

「では、徒歩で我輩の家に行く、ということでいいか? まあ、そう遠くはない。ここから歩いて十分ほどだ」


 それを聞いて少し安心しているリューゼを見つつ、検問所を通っていく。


「お! 報告通り帰ってきたんだねシルビアちゃん」

「お久しぶりですね。シルビアちゃん。元気にしていましたか?」


 中立街の検問所と同じく、シルビアを見るなり表情が柔らかくなる兵士達。中には男物の制服が似合う女性も混ざっており、すぐ頭を撫でてくる。


「うむ、夏の長期休みになったゆえ、父上殿と母上殿に会うべく。それと、友達を実家に招待するために」

「これはカインさん、大喜びだろうな」

「そうですね。また自慢しに来るかもですね」


 世間話もほどほどに、検問を終えたシルビア達は貴族街へと入っていく。中立街と違いどこか雰囲気が違う。建物も貴族が住んでいるということもあり、外観が豪華なものばかり。

 初めて貴族街、いや貴族の家を見たユネとミミルはほえーっと開いた口が塞がらない状態になっていた。


「さ、さすが貴族だけが住むところ……自分なりに覚悟をしていましたが、これは思った以上に」

「う、うん……すごく緊張してきたかも」

「すぐに慣れるわよ。こんなもの」


 自称家出娘の貴族ピアナが二人を落ち着かせるために言ったのだろうが、さすがにすぐは無理だと首を横に振る。


「いやこれは」

「今日中とかは無理かも……」

「じゃあ、お姉さんが安心するまでハグハグしてあげようか?」

「あっ、それは結構です」

「あふん……容赦のない拒否……はっ!? やはりあの時の追いかけっこで壁が!?」


 一人ショックを受けているナナエを置いて、シルビア達は進んでいく。久しぶりの貴族街の道なためシルビアの足取りはいつもより軽い。

 貴族街も決して悪いところではない。

 ただ昔のこともあったり、考えが極端な者達が居るゆえ悪いイメージが染み付いている。


「シルビア、あそこは公園ですか?」


 しばらく進むと、ユネが拓けた空間を指差し問う。

 そこには、見慣れた遊具が設置されており、貴族街に住む子供達が楽しそうに遊んでいた。


「そうだ。あそこは、貴族街にある公園。子供達はよくあそこで遊んでいる」

「ま、貴族って言ってもやっぱり子供は子供ってことよ」

「シルビアちゃんもよくあそこで?」

「うむ。よく精神統一をしていた」

「せ、精神統一って……」


 予想外の言葉にミミルは苦笑い。


「それとブランコに立ってバランス感覚を身につける特訓もした。うーん、懐かしいのである」

「……やっぱりシルビアって普通の子供とちょっと違いますよね」

「うんうん」


 普通ならば、ブランコに座って揺られたり、砂遊びをしたり、追いかけっこをしたりと色々と遊びがあっただろうにと。

 なんとなく予想はしていたが、シルビアは普通の子供とはかなり違うと眉を顰めるユネとミミル。


「あっ! シルビアちゃんだ!!」

「シルビアちゃーん!!」


 すると、公園のブランコで遊んでいた女の子達が駆け寄ってくる。


「久しぶりであるな」

「そうだね。シルビアちゃんが、冒険者育成学校に入学するって聞いた時はさすがって思ったけど。やっぱり会えないと寂しかったよ」

「男子も、シルビアちゃんがいないからってすっごくやんちゃするんだよ!」

「おー、そうであった。なら、また叱ってやらねばな。が、我輩はこれから実家に帰るところだ。我輩の友達と共にな」


 彼女達は、シルビアと同い年の貴族の子供達。よく公園で遊んでおり、シルビアはまるで子供達のリーダーかのような立ち居地に居た。

 男子をも圧倒し、悪さをすれば怪我を負わせず制圧する。

 そんなことを女の子達が自慢するように話し聞きつつ、また会うと約束し立ち去っていく。


「まさか、五歳の時からこの辺りのリーダーだったとは……」

「怪我を負っていないから、あっちからやった! とかいう言い訳もできないしねぇ」

「さすがお姉様! ねえねえ! どうやって怪我もさせず倒したの!?」

「ん? まあ、威圧しただけである」

「威圧しただけって……」


 シルビアならばできそうだから、なんとも言えないユネ達だった。そして、移動すること数分。シルビアがとある家の前で立ち止まった。

 

「シルビアさん。ここが」

「そう。ここが、我輩の実家である」


 成り上がり貴族と聞いていたユネ達は、周りの家よりも簡素なたたずまいだと思っていた。だが、実際はそんなことはなく、周りの家とあまり変わらない貴族らしい大きくも、豪華な外観だった。

 立派な壁と鉄の扉で護られており、中庭まである。

 ほーっと驚いていると、家の中から誰かが出てきた。真っ黒な長い髪の毛を後頭部で一本に纏め、しわ一つない執事服を身に纏った……女性だ。

 執事服の女性は、鉄の扉を開けるとすぐ頭を垂れる。


「おかえりなさいませ、シルビア様」

「うむ。ただいま。元気そうであるな、カリア」

「はい。元気いっぱいでございます。シルビア様も、お元気そうで何よりです」

「カリア。友人達を連れてきた。すぐ部屋に案内してほしい」

「畏まりました。ご友人方。初めまして。私は、執事のカリア=アルティーネと言います。シルビア様と仲良くして頂きありがとうございます」

「あっっと、いえ! こちらこそ、シルビアにはいつも良くしてもらって。えっと、ユネです。よろしくお願いします!」


 なぜ女性が執事をしているのだろうと、疑問が浮かびながらもユネ達は挨拶を交わしていく。一通り挨拶を終えたところで、切り出したのはシャリオだった。


「ねー、お姉さんはどうして執事服を着てるの?」

「執事だからです」

「執事って男の人がやるんじゃなかったの?」

「一般的にはそうでしょう。ですが、どうも私はスカートが苦手でして。それにメイドはここにはたくさんおります。ですが、執事は一人も居ません。ですので、私がこうして執事をやらせてもらっている、ということです」


 なんとなく納得は……できたが。

 そうまでして、ここに務めたかったと言うことなのだろうか? と首を傾げるユネ達。その理由を考えながら進み、カリアにドアを開けてもらう。

 すると。


「シルビアー!!!」


 何かが飛んでくる。が、それをシルビアは華麗に回避。

 

「おー! シルビアー! なんだかやけに男らしい体つきにー!! ……おや?」

「はっはっはっは! シルビアくんの父上殿とお見受けする。残念だが、私はシルビアくんではない。天才科学者のリューゼだ!!」

「父上殿。我輩はこっちである」


 飛んできたのはカインだった。シルビアに抱きつこうとしたが、見事に回避され後ろに立っていたリューゼに抱きついてしまった。

 その衝撃に耐えられなかったリューゼは尻餅をついてしまっているが、元気のもよう。


「もうあなたったら。もし先頭がシルビアじゃなかったら、どうするつもりだったの?」

「母上殿。お久しぶりです」

「うん。お帰りなさい、シルビア」


 その後に出てきて、シルビアを後ろから抱きしめたのは母親のルカだった。久しぶりに会う愛娘をいち早く抱きしめようとしたのだろうが、失敗したカインは周りに視線に気づきすぐリューゼから離れては咳払いをする。


「やあ、君達がシルビアの友人達だね? 初めまして、シリビアの父カイン=シュヴァルフだ。そして、こっちが妻のルカ=シュヴァルフだ。ようこそ、シュヴァルフ家へ。娘の友人だ。最高のおもてなしをしよう!!」

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