第三十一話「ようこそフラッカへ」
「これだー!! わー!? ジョーカーだったー!?」
「いえーい!! まんまと引っかかりましたねー!!」
「こら、子供を騙して喜ぶんじゃないの」
「何を言うんですか! 子供だろうと勝負においては全力を尽くす! それがユネです!!」
「こ、今度こそ勝ってやるー!」
馬車内では、持ってきていたカードゲームで盛り上がっていた。いち早く抜けたシルビアが、ふと窓から外を見ると、笑みが零れる。
「やっと到着したようだ」
何気ない呟きに、ユネが反応した
「え? てことは」
だが、その油断をシャリオは見逃さなかった。
「これだー!!」
「あー!?」
「やったー! ユネお姉ちゃんより早く抜けたー!!」
ジョーカーはシャリオからミミルへ、ミミルからユネへと奇跡的に渡っていった。そんなジョーカーを、またシャリオに引かされようとしていたが、一瞬の油断が命取りとなった。
何度も負けていたシャリオがようやくユネより早く抜けることができ、大喜びで窓の傍に寄ってくる。
「おー! もしかして、あれがお姉様の実家がある?」
「そうだ。あれが、我輩の実家がある……大都市フラッカだ」
邪魔が何度かあったが、無事フラッカへと到着することができた。かなり距離のだが、近くに見える。フラッカの巨大さが一目でわかるほどに。
「ねえ、あのでっかい塔はなに?」
フラッカでもっとも目立つのは、中央にある塔。
シャリオもどうやら気になっているようだ。
「あれは、中立街の監視塔。あそこから周囲を見渡し、フラッカ全体の治安を確認しているのである」
「へえ。さすが、中立街って言われるだけあるわね。あんな高い塔を作ってまでそんなことをしているなんて」
「あの塔から何か異変や事件などを発見次第、一番近い警備兵達に知らせが入る。相手が貴族だろうと、彼らは臆することなく鎮圧に向かう。小さい頃からよくその光景を見ていたものだ……懐かしい」
「いや、今も十分小さいでしょ……」
フラッカの警備兵達は、子供達にとってはまさに正義の味方だった。しかも、冒険者達も参加しており塔からの監視という仕事もやっている。
フラッカにあるギルドは、シルビアが知っている限りでは八つ。
その中でも、中立街に構えている二つのギルドが警備兵の手伝いや塔からの監視などを受け持っている。
ちなみに八つと言ったが、実際にはもっとあるかもしれない。シルビアが知っているのは、正式に認められたギルド、という意味だ。
本来は、各国のギルド協会へとギルド設立の申請を行い、正式に認められてこそギルドと言える。だが、中には申請をせずに立ち上げている野良ギルドというものがある。
やっていることは、主に裏の仕事。
表のギルドでは絶対申請が通らないような依頼を受け持っている。暗殺に密売、それに対しての警護などなど。
(あれから数ヶ月……一度、探索をして変わったところを確認してみるか)
「お客さん! フラッカに到着しましたよ。長旅、お疲れ様でした」
先ほどよりもフラッカに近づき、よりその巨大さを感じれるようになる。ガゼムラに負けない壁に囲まれており、検問所では厳重な確認が行われていた。
ボディーチェックから、魔力感知、身分証明書などの偽造がないか。
そして、ようやく自分達の出番となったところで、一人の兵士が窓から顔を覗かせるシルビアに気づく。
「おや? もしかして、カイン殿のところの」
「シルビアちゃんじゃないか。カイン殿が言っていた通りだったな」
「知り合い? って聞くのもおかしいか。ここあなたの故郷だもんね」
検問をする時はかなり強張った表情をしていた兵士達が、シルビアを見てから柔らかいものへと変化していた。
「彼らは、父上殿の教え子達でな。我輩も小さい頃から、よく遊んでもらっていたのである」
「はっはhっは。いやぁ、シルビアちゃんがカイン殿を投げ飛ばしたと聞かされた時は本当に驚いたものだよ」
「うんうん。嘘だと思った兵士長が自分が確かめてやるって言って……くっくっく」
ついには思い出話をし始める兵士達。
が、仕事はきっちりとこなし、御者に身分証明書を返し敬礼をする。
「では、お通りください。シルビアちゃん、カイン殿のよろしくお伝えください」
「うむ。しかと伝えておこう。今度、駐在所にお邪魔するつもりだ。その時は友も連れて行くので、よろしく頼むぞ」
「はい。兵士長にもよく伝えておきます」
そして、ついにフラッカの街中へと入ることができた。広がるは、壁に囲まれた長い道。ユネ達は、なんだろうこれ? と興味津々のようだ。
「これは貧民街と貴族街を隔てる壁兼中立街へと向かう道だ。中立街ができてからのフラッカは、まず中立街へと向かう。そこから貧民街へと向かうか、貴族街へと向かうかを決めるのである」
「へえ」
「直接貧民街や貴族街へと向かう入り口もある。このルートは旅人向けなのだ」
貧民街出身や貴族街出身がフラッカへと入る場合は、それぞれの入り口から入ることになっている。シルビア達が通っているルートは旅人や観光客達のもの。
こうすることで余計な騒ぎを起こさないようにしているのだ。
「三つの街に分かれているフラッカだからこその対応ってことですか……かなり珍しいですね」
「……あのいいですか?」
丁度中立街へと到着し、馬車から降りようとした時だった。ずっと黙っていたリオーネがシルビアに問いかけた。
「検問を通る時のわたくし達の身分なのですが」
リオーネが気になっているのは、自分達の身分のこと。現在リオーネとシャリオは、国を失いボルトリンに保護されている。
そのため身分がどうなっているのかと気になっていたようだ。
「二人の身分は、あたしに特務を出してくるお人がどうにかしてくれたよ。はい、これが二人の身分証明書ね」
検問の時にまとめて出した身分証明書。
確認すると、リオーネとシャリオの写真が貼り付けられており、ちゃんとしたものだった。
「二人はガゼムラ王とボルトリンの保護下にある。別に犯罪を犯したわけじゃないんだから、堂々としていればいいんだよ」
「ガゼムラ王とボルトリンの保護下って……なんだかすごいわね」
「まさか王様が関わってきていたとは」
検問所の兵士達も、ガゼムラ王とボルトリン、そしてシルビアの知り合いということで快く通してくれたのだろう。本来ならば、相手が王族だろうとすでに滅亡した国。
簡単に通してはくれなかったはずだ。
リオーネは、彼女達との出会いに心から感謝をし、馬車から娘と一緒に降りていく。
「さあ! ここがフラッカの中立街である!!」
まず視界に入ったのは、外からでも目立っていた巨大な監視塔。
それを中心とし、建物が広がっている。
ユネ達のようにフラッカを訪れている観光客も多く、ガゼムラに負けないぐらい栄えていた。




