第三十話「一時の休息」
シャリオを狙った敵との一戦から三日が経ち、そろそろフラッカへの到着が見えてきた頃。
シルビア達は、昼食休憩を取っていた。
見晴らしのいい平原で、シルビアとリオーネの共同料理が振舞われ、楽しい楽しいランチタイムだったが、ナナエのもとへ一羽の鳥が近寄ってくるのを目撃。
「お? 返事がきたかな」
ナナエが鳥に触れるとぽんっと消滅してしまい、一通の手紙のようなものが代わりに現れる。気になったシルビアは、ナナエの隣に食後の紅茶を持って座り込む。
「それは?」
「うん。シャリオちゃんを狙っている敵に関しての情報を、上に伝えたの。その返事だね」
「それにしてもなぜ伝書鳩なんだ。もう少し、かっこいい鳥が居ただろうに」
立ったままコーヒーを嗜みつつ呟くリューゼ。回復すればすぐ帰ると思っていたが、フラッカに興味があると言って、なんだかんだついてきている。
当然乗る場所は、御者の隣だ。
「……」
「なんと書いているんだ、ナナエくん」
「まあ、あまり有力なことは書いてないかな。上のほうも、いまだシャリオちゃんを襲う敵については何も情報を得られていないみたい」
「ほう? あの組織がそこまで苦戦するとは。相手も中々やるということか」
ナナエに特務をやらせている謎の組織。
かなりこの世界のことについて知っている組織のようだが、そんな組織でもシャリオを狙う敵についてはいまだ有力な情報を得られていないようだ。
(……女神様に聞いてみるか? いや、おそらく忙しいだろうし、あまり女神様に頼るのもよくない)
【女神石】が入っている木箱はちゃんと持ってきている。
この世界の管理者である女神ディアナに聞けば、わかるかもしれないが……あまりディアナに頼り過ぎてはディアナ自身に迷惑をかけるかもしれない。
大変かもしれないが、関わった以上自分にできることは自分でなんとかしなければ。
(とはいえ、たまには女神様に連絡をしなければ寂しがるかもしれない。フラッカに到着したら、連絡をしてみるか)
「シルビアたーん? どったのー?」
シルビアが考え事をしているところに、ナナエが鼻と鼻がくっつく位置まで顔を近づけていた。
「考え事である」
「悩み? お悩み? だったら、お姉さんが相談にのるよ?」
キスでもしようとしているのか、ぐいぐいと顔を近づけてくるので、シルビアもそれに反応して顔を離していく。
「なにやってんのよ!!」
「あーん! シルビアたんが遠ざかっていくー!」
それを阻止したのは、ピアナだった。ナナエの首根っこを掴み無理矢理引き剥がしてくれた。
「まったく、油断も隙もない」
「危うくシルビアの唇が奪われるところでしたね」
「く、唇……ドキドキ……」
なにやらミミルが妙に高揚しているようだが、大丈夫だろうか? と心配しつつシルビアは立ち上がる。
「皆、少し運動をしよう。せっかくの広々した平原だ。有効活用しないのは、もったいないのである」
「するー!! お姉様! 追いかけっこしよ!!」
「追いかけっこか……いいであろう。皆もそれでいいか?」
リオーネの手伝いを終えたシャリオの提案で、追いかけっこをすることになった。それを他の皆に伝えると、まず声を上げたのはナナエだ。
「やるやるー!! あたしが追いかける役でいいかな?」
「却下よ! あなたが追いかける役だったら捕まった時に何をされるかわかったもんじゃないわ! やるにしても、あなたは追いかけられる側よ!!」
「女の子を追いかけるのはあたしの役目なんだけどなー。うん、逆に追いかけられるのも悪くないかな。もし、捕まる時は……ぐふふ」
これはどっちを選ぼうとも危ない予感がした。とはいえ、今更変える気はない。シャリオが何よりもやる気なのだから。
「では、公平にくじで決めよう」
「そう言うと思って作っておきました!」
シルビアが提案すると同時に、ユネが人数分のくじを握った右手を突き出す。
「まあ、仕方ないか。でも、ユネ。あなたは最後よ。あなたが作ったんだからどれがどれだか知ってるはずだからね」
「わかってますよー。ささ! 皆さん、どんどん選んでください!!」
「じゃ、じゃあ私はこれ」
「我輩はこれを」
「あたしはこれね」
「そいやー!」
「私はこれよ」
「最後に残ったのがユネのです! さあ、誰が追いかける役なのか……いざ!!」
それぞれくじに手をかけまま、一斉に引く。
このタイプは、くじにひとつだけ違う色が塗られているものだろう。互いに引いたくじと相手のくじを確かめる。
追いかける役になったのは。
「いえーい!! あたしが追いかけ役ー!!」
「よりにもよって一番なってほしくない人が……」
「いやー、ナナエさんがそれを選んだ瞬間、あって思いましたよ」
どうやら最初の宣言通りナナエが追いかける役になってしまったようだ。この結果にはピアナはものすごく不満な表情を浮かべている。
「心配はない。この追いかけっこには制限時間を設ける」
「えー!? 制限時間!?」
「当たり前なのである。いつまでも遊んでいては、馬車が出発できない。これはあくまで、皆の休憩が終わるまでの遊びなのだから」
今度は、ナナエが不満そうに表情を浮かべる。が、すぐに満面の笑みを浮かべた。
「仕方ない。だったら、最初から本気の本気で」
「空間魔術はなしよ」
「さすがのあたしでもそれは使わないよー、あはははは」
本当にそうなんだろうか? ピアナが言わなければ使っていたかもしれないと一同疑いの目を向けた。
「よーし!! 一分ここで待ってるから、皆は自由に逃げたまえー!!」
「制限時間は五分である!!」
「わーい!! 逃げろ逃げろー!!」
「全力で逃げます!!」
「何をしてくるかわからないわ! 警戒を怠らないこと!!」
まるで、危険人物から逃げるような言いぶりである。が、間違っていないゆえになんとも言えない。ナナエを置いて、平原へと走り出した少女達。
そんな少女達の走る姿を見て、リューゼはナナエに呟いた。
「いいね、美少女達の必死に走る姿は」
「うん。あの背中を見ると……追いかける側も高まってくりゅ!!」
「……一分経ったよ。さあ、行きたまえ。美少女を捕獲しに」
「おー!!!」
「来たわ! 予想通り、とんでもない速さよ!!」
飢えた獣の如く、眼光を輝かせ猛ダッシュしてくるナナエ。まず、狙われたのは。
「ひぃ!? わ、私!?」
「み、ミミルー!!!」
「待て待てー!!」
ミミルだった。あまりにも迫力あるナナエの走りに、悲鳴を上げながら必死に逃げるミミルだったが、一気に距離を詰められてしまう。
「ミミルちゃん捕獲ー!!!」
「うぅ……早すぎるよぉ」
「くっ!? 早くもミミルが……!」
「さあ、まだまだいくよぉ? つーぎーは……幼馴染のユネちゃんだー!!」
「ミミルのために逃げ切ってみせますよー!!!」
「逃がさないー!!!」
全力の追いかけっこは飢えた獣ナナエにより、次々と仲間が捕らえられていくが、なんとか制限時間の五分が経ちシルビアとピアナだけが逃げ切ることができた。
「ぐぬぬ! 魔術を使うなんて反則だぞー!!」
「使っちゃだめなんてルールはなかったわ」
「人には空間魔術を使うなって言ったくせにー!」
「やっぱり使う気だったのね!? 空間魔術なんて反則も反則よ!!」
「ぐおー!! 悔しいからミミルちゃんの大きな胸を揉みまくってやるー!!」
「ひゃあー!?」
とんだとばっちりを受けたミミルであった。




