第二十八話「脱出」
「そいやー!!」
「しつこいのよ!!」
「ミミルさん! 左からきます!」
「はい!!」
出口のない空間に閉じ込められ、どれくらいの時が経っただろう。そこまで経っていないはずだが、四人にとってはかなりの時が経った感覚だ。
あれから、岩の人形の襲撃が続いた。
何度も、何度も倒しても次々に出てくる。いったいどれだけの敵を倒したかなど、数える暇もないほどに。
「あー! もう!! 何なのよ、こいつら!!」
「あの謎の声からだと、シルビア達のほうが終わるまでユネ達はこいつらの相手をしていなくちゃならないみたいですね」
四人の体力と精神はかなり厳しいものになっている。
最初の余裕は、敵と戦う毎になくなっていき、一体を倒すのも苦戦するほどだ。いつまでも絶えない敵の襲撃に、ピアナは苛立ちを覚えていた。
「リオーネさん。大丈夫ですか?」
「わたくしはまだ大丈夫です。わたくしよりも、ユネさんやピアナさんのほうが」
自分は敵から離れ、サポートをしていただけ。
多少の魔力と精神力が削られているだけで、まだまだ余裕だと、一番疲労しているであろう二人の心配をする。
「だ、大丈夫ですよ! これぐらい!!」
「ええ! こんな敵、何体来ようと……敵じゃないってば!! 《フレア・ランス》!!」
リオーネを心配させまいと元気に振舞う二人だが、動きや戦い方を見れば明らかに疲れているということがリオーネにだってわかってしまう。
ユネは迷いなく突っ込んでいたが、今となっては慎重に距離を取りつつ各個撃破。ピアナは、魔力を温存すべく初級魔術で撃退している。
「くっ! 一撃じゃ……」
しかも、その魔術も弱点である宝玉にぶつけても一撃で破壊するにはいたらないほど、威力が下がっていた。その度に、新たな敵がピアナを襲う。
ミミルもなんとかサポートしつつ、攻撃に加わっているが、それでも厳しい状況だ。
このままでは長くはもたない。
いつか大きな隙ができて。
「このぉ!!! 倒れなさい!!!」
一撃で倒れない敵に、ピアナは接近してまで魔術をぶつける。
「よし!!」
確かに、これならば近い分威力は多少上がるが。
「ピアナ!! 後ろ!!」
「ピアナちゃん!?」
敵に近づけば、当然数で圧倒している相手が包囲する。敵を倒したピアナの背後から、岩の剣を振り上げる岩の人形。
いち早く気づいたユネだったが、助けにいこうにも距離があり過ぎる。何よりも、足腰に力が入らない。ミミルも魔術を唱えるが、遅過ぎる。
「しまっ!?」
回避しようとピアナ自身が動くが、疲労により足が縺れてしまい尻餅をつく。
もう間に合わない。
防ぐための魔力だって、ほとんど残っていない。
誰も……助けられない。
(シルビア……!!!)
シルビアの名を呼ぶ。だが、さすがのシルビアでも助けに来るなど……そう思った刹那。
ドゴン!! と何かの爆発音と共にピアナを襲うとしていた岩の人形が吹き飛ぶ、
いったい何が起こったんだ?
ピアナはゆっくりと目を開け、その真実を確認する。
「もしかして、シルビ」
「やあやあ、諸君。こんなところで何をしているのかな? あ、いや説明しなくともいい。この状況を見ればわかるともさ。なら、どうして聞いたのかって? はっはっはっは!! 一応だよ! 一応!!」
シルビアが助けに来たと高揚していたピアナだったが、すぐそれは冷めてしまう。
とてもやかましい声に、喋り方。
明らかにシルビアでない。
「……なんですか、あの鎧の人は」
「なんだかシャリオちゃんの鎧に似てるような」
壁をぶち破り現れたのは、シャリオが纏っていた鎧に似ている白き鎧。ユネ、ミミル、ピアナはわからなかったが、リオーネだけはまさかとその名を呼ぶ。
「リューゼ、さんですか?」
「え!? リューゼってあの」
「おー、見破ったかリオーネさん!! そう! 私は、リューゼ! ある時冒険者育成学校の試験官長! またある時は天才科学者!! しかし! その正体は乙女達のピンチに駆けつける白き騎士!!」
見た目がかっこいい鎧を纏っているが、馬鹿っぽい雰囲気は隠しきれていない。
「ね、ねえ! 助けに来てくれたなら、さっさとこいつらをどうにかしてよ!!」
こんな状況だが、助けに来てくれるのならばシルビアがよかったと思いつつもピアナはポーズを取っているリューゼへと叫ぶ。
「おっと、そうだったね。本当は、ここに来る間に結構魔力を消費しているのだが。乙女を助けるためならば、疲労などなんてことはない!!」
リューゼの派手な登場で、岩の人形達は完全に彼を標的とみなした。
ユネが相手をしていた岩の人形も、一斉にリューゼのほうへと走り出す。
「おや、人気者はつらいね。だが、美少女ならばもっと嬉しかったのだがね……岩には興味がない。早々に消えてもらおう」
大検を大きく構えると、刃が展開。
激しい電気が発現したと思いきや、リューゼはそれを岩の人形達目掛け飛ばす。
「伏せたまえ!!」
「うひゃっ!?」
電撃の刃は、確実に頭ごと宝玉を切り裂き三十は居たであろう数を一撃にて倒して見せたリューゼ。
「助けろとは言ったけど、もうちょっと安全に助けてよ!!」
「すまないね。だが、こいつはかなりのじゃじゃ馬なんだ。安全に助けろというのは、無理な話でね。それよりも、私が道を作る!! さあ、脱出しよう! 乙女達よ!!」
ピアナの言葉攻めを受け止めつつ、リューゼは再び大剣を構える。
今度は刃ではなく、魔力砲を解き放ち外へと続く道を作り上げた。
「わー、すごいですね。結構頑丈そうな壁だったのに」
「こ、これで脱出できるんだよね? よかったぁ……」
「ありがとうございます、リューゼさん。ですが、なぜあなたが」
「無論、シャリオくんに調整した鎧を届けるためだよ。私の都合で遅くなってしまったからね。早々に届けようと思ったのだが、邪魔が入ってしまった。ここへ来たのは、怪しい気配がしたからさ」
三人にとっては、科学者が本当の姿で試験官長はただのやらされているだけだと思っていた。戦闘など、到底できないと思っていたが、彼の登場でピンチは脱せられた。
感謝をしなければならないと、近づくと。
「いやはや、本当に邪魔が入って……まりょ、くを……」
先ほどまで余裕そうにしていたリューゼが突然倒れる。
鎧も腕輪に戻ってしまった。
ぴくりとも動かない彼を見て、ミミルは心配そうに声をかける。
「あ、あの……大丈夫ですか?」
すると、リューゼは倒れながらこんなことを言う。
「む、無理……ここまでで魔力を使い果たしてしまった、よう、だ……。すまないが、乙女達……私をシャリオくんのところまで、連れて行ってくれないか?」
「……まあ、あなたが来なければ今頃死んでいたかもしれないし」
「ですね。恩返しと行きましょうか」
「じゃあ、ユネ。あなたは足を持って」
「はーい!」
「え? ちょ、ちょっと待ちたまえ。乙女達。こういう時は、背負うのが常識では?」
まるで、捕獲された獣のような運び方にリューゼは冗談は止めたまえと笑う。
が、二人はいたって真面目だった。
「疲労している私達が、大人のあなたを一人で背負えるとでも思ったのかしら? それに」
「背負ったら、何かされそうなので却下です。助けてくれたことには感謝しますが、どうかご容赦を。では! 行きましょう! シルビア達のところへ!!」
「ま、待ちたまえー!! せめて安全にー!?」
そんな暇はないと、二人は走り出した。ミミルも、遅れまいとリオーネを背負い走り出す。早くシルビア達と合流するために。




