第二十七話「今こそ!」
今日も二話目でーす。
「す、すげぇ。なんだあの子は。あんな巨人と戦ってやがる……」
「あれってボルトリンの制服だよね? 最近の冒険者見習いってすごいのね」
他の馬車に乗っていた一般人達が、巨人とシルビアの戦いを見て驚きと同時に感心を覚えていた。巨人の攻撃を空中を蹴りながら回避し、その体にクレーターができるほどの打撃を与えている。
あれほどの巨体を相手にするならば、本来数十人のパーティーが必要だ。
それをたった一人の冒険者見習いが圧倒している。
生徒会長を務めるナナエも思わずドヤ顔である。
「うぅ……」
ただ圧倒しているとはいえ、相手の高速再生により決定的なダメージを与えられていないようだ。それを見ていたシャリオの表情が、どこか不安そうなものに変化していた。
「どうしたの? シャリオちゃん?」
「お、お姉様苦戦してる?」
「ふーむ。確かに、苦戦しているといえばしてるかもしれないね。どうにも決定的なダメージを与えられていないようだし」
だが、シルビアならば何とかその打開策をすぐ考えるだろうと。
それよりもナナエが気になるのは、あれほど巨大な魔物だけが襲ってきたということだ。シャリオが狙いならば、もっと多くの魔物を襲わせるはず。
確かに目の前に居る巨人はかなりの強敵だが……。
「……」
やはり落ち着きがなくなっている。
心配するなと言われたが、戦闘を見ている内に心配と他の感情が湧いてきているのだろう。その場で足踏みしているのが何よりの証拠だ。
それを察したナナエは、頭をぽんぽんと軽くタップする。
「行きたい?」
「え? で、でも今のわたしには鎧がないし……」
ここでただ待っているよりも、シルビアと共に戦いたい。だけど、シルビアは自分のために戦っているうえに鎧がない。
そんな自分が出て行っても、役に立てないだろう。
いつも本能のままに、子供ゆえの純粋さで行動していたシャリオだが、今は何かが違う。ちゃんと頭で考えて、本能を抑えている。
(まったくもう、リューゼったら。いつもなら早々に終わらせるっていうのに)
ナナエもナナエで仕事の都合上、シャリオを危険に晒すわけにはいかないのだが。
「はい、これ」
「なにこれ?」
可愛い女の子が困っている時は助ける。ナナエは、いつかシルビアと共に使ったあの四角い箱を二つ渡す。
「これはね」
その使い方を短くもわかりやすく教える。すると、シャリオの表情が一気に明るくなっていくではないか。
「さあ、お姉様のピンチに駆けつけよう」
「うん!!」
そして、シャリオは駆け出した。
「ちょっ! お嬢ちゃん!! そっちは危ないよ!!」
再び御者の男性が呼び止めようとするも、ナナエがまた止める。
「まあまあ。大丈夫ですよ」
もし、シャリオを他の勢力が襲おうともこっそりと仕掛けた迎撃魔術が即座に発動するようになっている。それにナナエに目の届く範囲ならば、いつでもシャリオを助けることができる。
だからこそ、見送った。
彼女の助けたい意思を尊重して。
「ふう……シルビアたんと出会ってから中々ハードな人生になってきたなぁ。まあ、楽しいから良いんだけどー」
・・・・・☆
「次で最後だ! 覚悟するのだな!!」
弱点である核をひとつまたひとつと破壊していき、最後に残ったのは額の宝玉だけとなった。
(しかし、いまだに引っかかる。わざわざ弱点である核を外側に……何かがあると見ていいだろう)
あえて核を破壊されやすくしているのであれば、全てを破壊した時なにかが起きる。
そう考えて、シルビアは最後の宝玉へと突撃していく。
巨人も抵抗するように何度も腕を振るうが、シルビアは闘気を使い空を蹴り、回避する。
「さあ、何が始まるのか! この目で確かめさせてもらおう!!」
最後の宝玉を粉砕し、一時的に巨人から距離を取る。
全ての核を破壊されたことにより一層大きく体を揺らし、膝から崩れる。しばらくうな垂れ、何も起こらないのか? と思わせた刹那。
「オオオオオオオオオオッ!!!」
突如として、顔を上げ咆哮する。
そして、岩の鎧へと徐々に亀裂が入っていく。
「これは」
「お姉様ー!!!」
シルビアの予想通りになったと思ったところへ、聞いてはならない声が耳に届く。振り向けば、ナナエと共に戦った時に使った変身アイテムを手にシャリオが向かってくるではないか。
珍しく焦るシルビアは、一気に闘気を足に溜め込み爆発させる。
「シャリオ!」
「ひゃうっ!?」
そのままシャリオを浚うように抱き、巨人から距離を取る。
「オオオオオオオオオッ!!!」
更なる咆哮を上げると、一気に岩の鎧が弾け飛んだ。真っ直ぐこちらに飛んでくる岩を砕き、真の姿を露にした巨人を見詰めつつ、口を開く。
「シャリオ。どうして、来た? 我輩は、待っているようにと言ったはずであるが」
「だって! ただ見てるだけじゃ嫌なんだもん!! わたしのために戦ってくれる。護ってくれてるってわかってるけど。そう思えば思うほど……」
いつものわがままではない。必死に考えて振り絞った言葉だ。
そんな決意ある言葉を聞いたシルビアは、静かに手を差し出す。
「お姉様?」
「仕方ない妹であるな。ここまで来てしまった以上、待っていろとは言わない。共に戦おうではないか」
戦いなど、命の奪い合いなど、汚いことなどほとんどと言っていいほど知らなかった純粋な心を持った彼女の決意をシルビアは確かに受け取った。
だからこそ、手を差し伸べる。
共に戦おうと。
こうなることをわかっていて、ナナエも変身アイテムを渡したのだろう。
「……うん!! お姉様!!」
しっかりとシルビアの手を握り締め、横に並び戦うべき相手を睨む。
先ほどの岩の巨人は、もういない。
そこに立っているのは、獣のような顔に隆々とした筋肉。鋭利な牙に爪。さっきまでの巨人がパワータイプならば、今の巨人はスピードタイプと言ったところか。
「鎧の下はあんな姿であったか」
「わー、狼さんだ」
「さて、シャリオ。これの使い方はすでにナナエに習ったと思うが」
「うん! 大丈夫!! お姉様……一緒に戦おう!!」
「いいであろう!! 共に!!」
変身アイテムを持った手を交差させ、二人は同時に叫ぶ。
変身するための起動呪文を。
《クロス・オン・エンゲージ!!!》
刹那。
変身アイテムから膨大なまでの輝きが放たれ、二人を包み込む。
「二人の力を束ね」
シルビアが言い。
「二人の心を束ね」
シャリオが言い。
《今、一つの強大な力を生み出す!!》
声重ね、叫ぶ。
弾けた光の球体から出てきたのは、一人の少女。流れるようなシルバーピンクのツインテールを靡かせ、その眼を開く。
赤と青の美しきオッドアイ。どこかボルトリンの制服に似ている服を着こなし、ミニスカートと黒のニーソックスからできる絶対領域が眩しい。
可愛いだけではなく、表が黒、裏が赤のマントでかっこよさを出していた。
「おお。これはすごいな」
(お姉様とひとつになっちゃったー!!)
「お? その声はシャリオ」
二人は文字通りひとつとなった。体の主導権はシルビアにあるようだが、シャリオの意識ははっきりしている。相手に聞こえるかどうかはわからないが、シルビアにははっきり聞こえている。
(そうだよ! これで、お姉様の強さとわたしの【王の魔力】が一緒になった! 怖いものなんてないよ!!)
そう、ひとつになったということは力もひとつになったということだ。シルビアの圧倒する戦闘センスと、シャリオの強大な【王の魔力】がひとつになった。
いったい何が起きるのか、シルビアにでさえわからない。
が、危険と感じてはいない。
「であるな。さあ、相手も目が覚めたようだ」
今までうな垂れていた獣の巨人がゆっくりと顔を上げ、こちらを睨みつけていた。
まさに獲物を狙う飢えた獣だ。
(よーし! 第二回戦開始だよ!!)




