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第五話「新入生代表」

『それでは、次に新入生代表挨拶です。新入生代表クェイス=ファスト君』


 入学式は順調に進んでいる。

 校長の挨拶から始まり、在校生挨拶と。ただ、在校生代表は入学式当日に高熱で倒れてしまい、在校生の友達が代わりに挨拶をしていた。


 在校生の名は、ナナエ=ミヤモト。

 生徒会長を務め、このボルトリンにおいて最強と言われている生徒だ。ちなみに、ナナエの代わりに挨拶をしたのは副会長を務めるマイキー=マクドナスだ。

 

 整えられた黒い髪の毛に、知的な雰囲気が漂うメガネ。

 制服に一切の乱れがない青年だった。

 最初は、彼が生徒会長だと大半の新入生は思ってしまっただろうが、違う。

 ならば、あんな知的で完璧な雰囲気のある副会長の上とはどんな存在なのか……誰もが気になってしょうがない状態だ。

 しかし……そんな空気を簡単にぶち壊すほどのインパクトがある者が現れてしまった。


『俺が、新入生代表! 主席! クェイス=ファストだ!!』


 出てきたのは、燃える炎のように赤い髪の毛の少年。

 やたらとオーバーなアクションをつけつつ、拡大魔法を封じ込めた魔石を手に挨拶を交わす。

 まず、第一印象がなんだこいつである。


『そう! 主席! つまりはトップということだ!! まあ、この辺りは俺が目指す最強への道の第一歩としては当然というところだが!!』

『あ、あのクェイス君? もうちょっと真面目に』


 と、オーバーアクションをしながらもただただ自慢をしているようにしか思えないクェイスに対して、めがねをかけた大人しそうな女性教師シーニ=エドワードが注意する。

 どこかミミルと同じような雰囲気を感じる。

 黄色の長い髪の毛をシンプルにゴムで束ねているだけで、目立った特徴があまりない。胸も普通サイズで、身長も高くもなく低くもなく。

 あるとすればとても教師とは思えない幼さが残る顔つきだろう。


『すまないシーニ女史!! だが、これでも真面目なんだ!! 俺は言いたい!! 俺は最強になるためここに入学した!! 今年で十五となった俺だが、未だに負けたことがない!!』


 負けたことがないのは素直にすごいと思うが、新入生挨拶とは自慢をするものなのだろうか? 在校生挨拶をしたマイキーは、すごく真面目にボルトリンのことを語った後、新入生のことを歓迎し、困ったことがあれば頼って欲しいと語っていた。

 マイキーの挨拶と比べるとレベルが違い過ぎる。


『俺が目指す最強は、どんなことにおいてもトップということだ! 現に俺は勉学、実技共にトップとなりこうして新入生代表挨拶を任せられるほどの優秀な成績を収めた!!』


 自慢しか言わないが、クェイスの実力はこうして新入生挨拶を任せられるほどのためなんとも言えない。しかし、このままただただ自慢話を続けていれば、止められてしまうだろう。

 教師や副会長であるマイキーを見ても、若干出ようかどうかと風にもぞもぞしている。


『しかし!! そんな俺の最強道に壁ができた!』


 今まで自慢だけをしていたクェイスの様子が変わった。


『確かに、俺は勉学、実技共に優秀な成績を収めて主席となった。なったが……聞けば実技で俺を超えているであろうという奴が居ると聞いた!!』


 そして、視線はシルビアへと向けられる。


『試験番号百三番! シルビア=シュヴァルフ!!』

「我輩か?」


 やたらと挑戦的な視線だ。

 生徒達も、シルビアのことは知っているため自然と視線が集まっていく。シルビアの席は、中央辺りに位置されている。

 離れた席からは、ユネとミミルが心配そうに見詰めている。

 

『お前という存在が現れなければ、俺の最強道も気持ちいい感じにスタートされたはずだ! 見た! 見たぞ!! お前が、俺よりも早く試験官を倒したところを!! まさに圧倒! 可憐!! 見惚れるほどに!! 妹に欲しいぐらいに!!』


 最後の言葉は余計だった。

 今までは、ただのうるさい奴という認識だったが、それがやばい奴に変わっていく。


『おっと、興奮してしまった。だが!! これだけは言わせて貰おう!! シルビア!!!』


 今度はいったい何を言うつもりだ? もはや挨拶というよりも、シルビアに対しての宣戦布告のようなものになっていた新入生挨拶。

 本当は、聞きたくないような気がするが、クェイスは止まらない。


『俺は、今すぐにでもお前と戦いたい!! どちらが最強なのかを決めるためにな!! しっかーし!! 俺達は新入生であり、今日は華やかな入学式!! 今日のところは、止めておこう。俺も、しばらくこの学校での暮らしを満喫するつもりだ。というわけで!! 新入生代表! 主席! クェイス=ファストの挨拶を終わる!!』


 最後はまともだった。それが、残念だったと思う者も居れば、安堵している者も少なくはない。なにやら微妙な空気になってしまったが、まだ入学式は終わっていない。

 シーニは、頬をかきながらも進行を再開する。


『え、えーっと。では、この後に予定をお話します。新入生の皆さんは、それぞれの教室へ移動してください。そして、担任の教師が来るまで待機になります。以上をもちまして、入学式を閉式いたします』


 前半はすごく真面目だったが、最後のクェイスで全てが変わった。

 入学式が終わると、シーニが言うように新入生達は真っ直ぐ教室へと向かっていく。ちなみに、クェイスはマイキーや教師達に捕まっている。

 どうやら説教を受けているようだ。

 だが、当の本人は真面目にやっていたと言わんばかりに首を傾げている。


「し、シルビアちゃん!」

「おっと」


 クェイスを観察しながら体育館を出るとすぐミミルが背後から抱きついてくる。

 ミミルはシルビアよりも身長が高いため、まるで人形でも抱えているようだ。


「どうかしたのであるか? ミミル。それにユネ」

「どうかしたではないです。あの危険人物から、あなたを……あぁ、いえ失礼かもれませんが。護る必要はありませんか」

 

 どうやら、心配してくれているようだ。

 確かに、先ほどのやりとりでクェイスは危険人物というレッテルを貼られてしまっただろう。


「褒め言葉として受け取っておくのである」

「いえいえ。それよりミミル。そろそろ離れたほうがいいですよ?」

「え?」


 本来ならば、体格差があるためシルビアは動けない。

 が、シルビアはただの少女ではないのだ。

 ミミルはずっと目を瞑っていたため気づいていなかったようだが、まるでおんぶをしているかのようになっていた。

 そんな姿を同じく教室へと向かっている新入生達が微笑ましそうに見ていた。

 

「あわわわ!?」


 慌てて離れるミミルだったが、勢いがあったため転びそうになってしまう。

 それをユネがそっと助け、三人仲良く校内へと入っていく。


「も、もうちょっと早く言ってよ……! ユネちゃん!」

「足を引きずってるのに気づかないミミルがすごくて」

「すまないミミル」

「う、ううん! シルビアちゃんは悪くないよ。悪いのは、私だから。早く行かないと先生に怒られるだろうし」

「足は持ち上げたほうがよかったであろうか?」

「そ、そっち!?」


 他愛のない話をしながら廊下を移動していれば、教室へと到着。

 シルビアとユネ、ミミルは偶然にも同じ教室となっていた。

 そして、問題のクェイスは隣の教室のためユネとミミルは安堵している。すでに、何人かの生徒達が教室で待機しているようだ。


 遠慮などすることもなくシルビアが教室へと入る。

 すると、雰囲気から感じたのか。

 生徒達は、シルビアへと視線を向けた。


「注目されてますね、やっぱり」

「我輩としては、つつましい生活が望みなのだがな」

「つつましいって……」


 そんなものは模擬試合の結果から、無理だというのは誰もがわかっている。

 冗談で言っているのか。

 それとも本気で言っているのか。

 笑みを浮かべて発言しているため、どちらとも捉えることができるためユネやミミルだけではなく、聞いていた生徒達全員が眉を顰めていた。

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