第二十六話「邪魔をするなら」
馬車から離れ一人巨人に突っ込んでいくシルビア。
巨人もシルビアの接近に気づき、進行を止めた。
「ふむ。こうして近くで見ると更に大きいと感じるな」
距離があっても大きく思えた巨人。
それが目と鼻の先となり、更に大きく感じる。その威圧感は、尋常ではなく並大抵の魔物ではこれほどのものは出せないだろう。
「さて、通じるかどうかはわからないが……おい! そこの巨人!!」
シルビアが近づいたと同時に立ち止まった。
普通の魔物であるならば何も考えず本能のままに、突っ込んできていただろう。が、巨人は立ち止まった。つまりそれなりの知能があると考えるべきだ。
「……返事はなし、と」
知能はあるが、言葉を喋ることはできないのだろうか。ならば、ここは本来の目的通り実力行使にて目の前の巨人を退けることになる。
さっそく先制攻撃を与えようと闘気を練り上げる。
刹那。
「む?」
その巨体から考えられない速度の蹴りが飛んでくる。
「っと!」
シルビアは即座に反応し、飛び上がって回避するも巨人もそれを読んでいたかのように拳を振りかざしていた。
空中では回避するのは難しい。
巨人はこれを狙っていた? そう考えると思った以上に知能が発達している魔物なのかもしれない。
「いい作戦だが、我輩には効かん!!」
拳が当たる前に、闘気を足下へと集め爆発させる。シルビアは更に天高く飛び上がり、拳を回避した。そしてそのまま再度闘気を足下に集め体を巨人に向ける。
「今度はこちらからだ!!」
臆することなく巨人へと突撃していく。爆発により突貫力を得たシルビアは、同時進行で拳にも闘気を纏わせていた。
「はあ!!」
ドゴン!! と岩を破壊する大きな音が鳴り響く。
シルビアの攻撃は魔物の心臓部分を大きく抉り取ったようだが、貫通はしていない。かなり厚い装甲なのか。シルビアの一撃でも軽いクレーターができた程度。
「中々の防御力であるな」
地面に着地したシルビアは、ふむっと感心しながらも思考する。これまでの攻防戦からわかったことは、予想外の巨体だが動きはかなり素早い。
尚且つ防御力も相当なものだ。となると、攻撃力も必然的に高いだろう。
それでいて、知能もある。
これほど厄介な魔物は、ボルトバの時でも戦ったことはない。これはかなり厄介な相手だ。
「……ほう。しかも、再生能力もあるのか」
先ほど抉った心臓部分の装甲が高速で再生していく。こういう魔物は、どこかに核があり、それを破壊しない限り動き続ける。
やはりこの魔物は【ゴーレム】の一種なのか。【ゴーレム】の特徴は岩の体を持ち、核を破壊しない限りどこまでも再生を繰り返す厄介な生命力だ。
(普通に考えるならば、核は額と肩にある宝玉であろうが)
攻撃を回避しつつ、相手を観察し、背後へと回り込む。
(明らかに弱点を晒しているのは、何かの作戦か? もし、そこまでの知能があるならば)
いや、考えていても何も始まらない。
ここは冒険あるのみだ。未知に挑むのは、冒険者としての本能。考えても答えが出ないのであれば、試せばいいのだ。
シルビアは、一時考えるのを止め、明らかに怪しい額と肩にある宝玉へと攻撃を開始する。
振り折された拳を回避し、右肩の宝玉へとかかと落とし。
が、そう簡単には砕かせてもらえないようだ。強固な防御結界に阻まれる。やはりこの宝玉が核と考えるべきか。
むき出しの弱点というのが引っかかるが、それも全て砕けばわかること。
「防御結界だろうが、なんだろうが……砕いてみせる!!」
ぐっと右拳を握り締め、再び宝玉の破壊を試みる。
さっきはかかとだったために弾かれてしまったが、今度は自慢の右拳だ。
「砕けろ!!」
魔を砕く拳。
魔力にて構成されているのであれば【魔砕拳】にて砕く。まるで皿のように防御結界は砕け、そのまま宝玉をも粉砕した。
すると、巨人は大きく揺れた。
「まずはひとつ」
・・・・・☆
「うおおおおおおお!!! 間に合え!! いや、間に合わせる!! 私をただの科学者だと思わないことだー!!!」
リューゼは全力で走っていた。
平原を、森を、川を。
いち早くシルビア達に追いつくために、普段は通らないような道をただただ真っ直ぐに。
「しかし、あの橋が壊れていたとは!! そうなると、彼女達は迂回し、別ルートで向かったに違いない!! ナナエの空間魔術で渡った確立もあるが……」
色々と思考し、二回目の森へ入っていくリューゼ。
「おや?」
それは突然だった。まるでリューゼの進行を邪魔するように、フードを被った者達が現れる。数にして、十人と言ったところか。
「何かようかな? 私は非常に急いでいるのだが」
「貴様なら理解しているはずだ。我らがなんのために現れたのか」
リューゼの問いに答えることなく、フード達は武器を構える。
「まったく……質問にはちゃんと答えるべきだ。それが常識というものだぞ。でないと、会話ができ」
「はあ!!」
「おっと!? それもだめだ。人が話している時は、最後まで聞くものだぞ?」
「貴様との会話は不要だ」
最初から話が通じる相手ではないと思っていたが、まさかここまでとは。リューゼは、やれやれと呆れつつ白衣の左ポケットから白い腕輪を取り出す。
「私は、あまり自分で戦闘するのは好きではない。試験官長をやっているのは、仕方なくなんだ」
そんな愚痴のようなことを言っているリューゼをフード達は着々と逃げられないように陣形を組んでいく。だが、リューゼは焦る様子もなく取り出した腕輪を装着した。
「だからね、こういうもので補強させてもらうよ。これは、シャリオくんのものと違って欠陥だらけのものだ。所謂……実験用の試作機だ」
腕輪をつけたほうを上げ、魔力を練り上げる。
「やれ!!」
一人の号令と共に一斉に襲い掛かるフード達。逃げ場はない。熟練の戦士でも回避するのは困難な陣形だ。
「起動せよ。グレゴラン」
「ぐあああっ!?」
「な、なんだこの光は!?」
しかし、リューゼから発せられる膨大なまでの光によりフード達は吹き飛ばされる。
「さあ、早く追いつきたいし、こいつの長時間の起動は危険なのでね。全力で行かせてもらおう」
光が弾け、再び姿を現したリューゼは白い鎧に包まれていた。
横には巨大な両刃剣が地面に突き刺さっており、リューゼはそれを軽々と引き抜く。
「ぐっ! これが、リューゼが作り上げた機械の鎧か……! お前達!! 陣形を変える!! あれだけの鎧と巨大な剣だ! 動きはかなり鈍くなっている!! スピードで翻弄するぞ!!」
「うむ。その判断は正しい。確かにこのグレゴランの見た目は重装甲な鎧で、この剣も大きい。しかし」
刹那。
距離を取ろうとしていた一人のフードへと、リューゼが接近する。
「なっ!?」
「それなりに動けるのさ。魔力は結構消費するが、ね!!」
そしてそのまま大剣を棍棒のようにフルスイング。
吹き飛ばされたフードは近くにあった岩へと激突し、気を失った。
「くっ!」
「どんどんいくよ。本当は、邪魔しなければ助かるのだが……そうもいかないみたいだからね」




