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第二十二話「いざ、実家へ」

 ついに長期休みへと突入した。生徒達は、リミッターが外れたかのように歓喜の声を上げ、一年は飛び跳ね、走り回っている。

 それは二年や三年とて同じことのようだ。

 終業式もこれと言ったトラブルもなく終わった。今回は、新入生挨拶のようなものがなかったのが幸いした。もしあったのならば、クェイスがまた何かを言い出しただろう。


 実家に帰る生徒達は、初日で数え切れないほどだ。

 中には数日後に行く者達も居るようだが、終業式が終わってすぐ馬車に乗り込み王都から出て行くというのがほとんどだろう。


 そのためガゼムラの馬車乗り場はこれからレースでも始まるのではないかという馬車の数々。その中でも一際目立つ馬車があった。

 馬車が他よりも大きめというのもあるが、乗車する人物が大きな要因だろう。

 

「さあ! いよいよ帰宅だよー!!」

「あなたが帰宅するんじゃないでしょ。私達はシルビアの実家に遊びに行くのよ? そこのところわかってるんでしょうね。この人は……」


 終業式が終わってからすぐ来たゆえに、ボルトリンの制服姿のナナエが一際高いテンションで天へと拳を突き上げていた。


「ま、まあまあ。それだけ楽しみってこと、ですよね?」


 ナナエの謎発言に眉を顰めていたピアナ。ミミルは、それとなくフォローを入れると。


「そうだともー! フォローありがとーミミルちゃーん!!」

「ひゃっ!?」


 感極まったか、それともテンションのままなのか。ミミルに抱きつくナナエ。頬と頬を擦りつけ、動物を愛でるように頭を撫でている。

 そんな光景を唯一大人の女性であるリオーネが微笑ましそうに見詰めている。その姿は、まさに母親。


「ふふ、楽しそうですね。皆さん」

「わたしも楽しみー!! 早く馬車に乗るよー!! ねー! お姉様!!」

「うむ。そうであるな。御者の人を待たせるわけにもいかない。皆、さっそく馬車に乗り込もう。まずは、リオーネ殿」

「いいのですか? では、失礼しますね」


 大人を尊重しての行動か、シルビアはリオーネを一番に乗車させる。その後、ユネ、ミミル、ピアナ、ナナエ、シャリオと続き、最後にシルビアが乗車したところで馬車は動き出す。

 馬車は、向かい合うような作りになっており、御者側の席には、ユネ、リオーネ、ミミル、ピアナという順番で四人座っている。

 そして、向かい側の席にはシャリオを真ん中とし、左にシルビア、右にナナエが挟むように座っている。これがシルビア達が考えた、護りの陣形。


 まず、一番狙われるであろうシャリオはシルビアとナナエが護り、次に狙われるであろうリオーネを三人で協力し護る。

 ミミルを内側にしたのは、もしもの時の防御と回復要因としてだ。リオーネ自身も回復魔術は得意とのことで、両脇がダメージを受けても即座に回復できるようになっている。


「ねー、お姉様。お姉様の実家ってどれくらいで到着するの?」


 馬車がガゼムラを出て、すぐシャリオがシルビアの実家について問いかけてくる。それに反応して、ユネとミミルも気になると視線を向けてきた。


「そういえば詳しく話していなかったか。我輩の実家があるのは、この中央大陸の西方地区にある大都市フラッカにある。ここからだと馬車でも五日はかかるだろう」

「フラッカって……あぁ、あそこか」


 ピアナはフラッカについて詳しそうに声を漏らす。


「フラッカ……なんだか聞いたことがあるような」


 ユネが頭を悩ませているところにピアナが仕方ないわねぇっと口を開く。


「フラッカはね、ガゼムラに続く中央大陸の四大都市と言われてるところよ。特徴としては、貧民街と貴族街に大きく分けられているってとこかしら」

「わたくしもフラッカについては全てではありませんが、知っております。ピアナさんが言った二つの他にも中央には中立街があると」

「その通りだ。フラッカは、その三つの街で構成された大都市。上下関係に少しうるさいところであるな」

「す、少しって……完全に上下関係にうるさいところじゃないですか」


 ユネが心配になるのも頷ける。都市の中で、これほど分かれているところは珍しくはない。どこの都市や街にも栄えている場所とそうでない場所は存在する。

 ガゼムラとて、貧民達が住んでいる場所が存在している。いつの時代も、全てのものが平等に暮らすという夢は、中々難しいことなのだ。


「や、やっぱり私達が行ったら、迷惑なんじゃ」

「そんなことはない。昔はかなり荒れていたようだが、中立街が設立されてからは貧民でも、貴族でも隔てなく過ごせるようになったようだ。まあ、自分は貴族なんだぞ!! と威張っている者達がいないと言えば嘘になるのだが」


 フラッカは、最初の頃は貧民街と貴族街だけだった。そのため貴族達が威張り散らかし、貧民を見下し、金にものを言わせて暴力を振るっていた。

 それを中立街を設立させた人物により、徐々に変わっていった。

 まだ完全ではないにしろ、昔に比べればフラッカは大分変わっただろう。昔ならば、成り上がり貴族であるシルビアの父親カインが貴族街に住むなどかなり難しかった。


 貴族とはいえ、元は貧民だ。

 成り上がり貴族など貴族ではない! と否定され追い返されていただろう。こうして、暮らせるようになったのは全て中立街のおかげ。

 中立街へ行けば、貧民でも働くことができ、何か貴族とのトラブルがあればすぐ警備兵達が駆けつけてくれる。暴れるようならば、貴族だって捕縛されるのだ。


「ふーむ。そこまでフラッカを変えてしまった中立街のトップとは、何者なんでしょうか?」

「わたしも気になる!」

「ナナエ。あなたは何か知ってないの?」

「えー? あたしに聞くの? そういうことはピアナちゃんが詳しいんじゃない?

「知らないから聞いてるんじゃない。あなただったら、皆が知ってなさそうなことだって知ってるんじゃない?」

「そういう雰囲気ありますよね」

「うん」


 あたしはただの一生徒会長なんだけどなーっと珍しく困ってるようで頭を掻くナナエ。そんなナナエを見て、くすっとシルビアが笑っていると。


「ん? 馬車が止まった?」


 順調に進んでいたはずの馬車が急に止まった。どうしたのだろうと、窓から外を窺うが特に敵が囲んでいるということはない。

 周囲にも魔物や人の気配もまったくない。


「どうなされたのですか?」


 と、リオーネが業者へと窓を開けて問いかける。


「すみません。お客さん方。どうやら、橋が」

「橋?」


 ドアを開けて、自分の目で確かめると、あーっと納得した。どうやら、最短ルートのために渡るはずの橋が壊れているようだ。

 かなり頑丈な作りのはずだが、修復にかなりの時を使うほどに壊れている。


「嘘。どういうこと? ここ最近嵐なんてなかったわよね?」

「うん。それとも、橋の上で戦闘でもあったのかな?」

「この橋を破壊するほどの戦闘ですか……それは相当激しいものだったでしょうね」


 シルビアを追って、次々下りてくる少女達は、橋の壊れ具合に眉を顰める。何重にも魔力を込めたレンガを積み重ね、作り上げられた橋。

 シルビアもここを通ってガゼムラへとやってきた。他にも西方へと向かっていた馬車が何台がその場で困ったように止まっている。


「すみませんが、別ルートで向かいます。そうなると、予定よりも時間がかかってしまいますが」

「構わない。そこまで急いでいるわけではないゆえ」

「ありがとうございます。さあ、お乗りください。出発します」


 予定では五日ほどで到着するはずだったが、別ルートで行くことになってしまった。おそらく半日か一日程度だろうが……。


(気になるな。あの破壊具合……まるで誰かが意図的に破壊したような)


 ナナエもそのことが気になっているようで、視線をシルビアへと向けていた。ここからは、更に警戒心を高めようと頷き合い、窓から外を見詰めた。

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