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第二十一話「楽しみだ」

 一般知識テスト返却日にはナナエには会えなかった。どうやら特務でボルトリンから離れていたようだ。副会長のマイキーから聞いたため本当のことだろう。

 そのため次の日にナナエに会うことになり、今現在生徒会室前に来ている。

 コンコンとノックをすると。


「入ってー!!」


 ナナエの声だ。どうやら今日はナナエが居るようだ。


「失礼します」

「お邪魔しまーす!!」


 今回はシルビアとシャリオで訪問。中に入ると、ナナエが大歓迎ムードで立っていた。


「やあ! やあ!! あたしに会いに来てくれるなんて嬉しいなぁ!!」

「今日は、頼みがあって」

「あー、わかってるわかってる!! シャリオちゃんのことだよね?」


 どうやらナナエには、二人が訪れた理由をわかっているようだ。


「うん! ナナエお姉ちゃん! わたしもシルビアお姉様の実家に行きたい!!」


 と、ナナエに抱きつき上目遣いで訴える。

 そんなシャリオに、だらしなく頬を緩め涎が口から出始めるが、すぐ引っ込め表情を戻す。


「大丈夫だよ、シャリオちゃん。そう言うと思って、昨日のうちに上のほうに許可取ってきたから!!」

「では、昨日特務というのは」

「それは本当だよ? 特務のついでに頼んできたの。シルビアたんにシャリオちゃんの懐き具合から予想していたからね」

「さ、さすが生徒会長さん!!」


 これが生徒会長なのかとシャリオは目を輝かせる。


「でしょー、生徒会長はすごいんだよー」

「すごい! すごい!!」

「でへへへ~」


 このままで話が進まないと感じたマイキーは、こほんっと咳払いをしてナナエに話しかけた。


「それで? 上と話した結果。どうだったんですか?」

「もちろん、許可出たよー。ただし条件として」

「条件として?」

「あたしがついていきまーす!! いえーい!! シルビアちゃんの家族のご挨拶だー!!」


 予想はしていたが、やはりナナエがついてくるようだ。が、これでシャリオも一緒にシルビアの実家に行くことができる。

 大喜びのシャリオだったが、更に喜ばせる言葉がナナエの口から出る。


「そうそう。リオーネさんも一緒に行くけど、大丈夫かな? シルビアたん」

「お母様も一緒でいいの!?」


 首が回転するんじゃないかという勢いでシルビアのほうを振り向くシャリオに、シルビアは首を縦に振る。


「もちろんだ。父上殿や母上殿は、快く受け入れてくれるだろう。手紙にはこう書いてあったからな。何人でもつれてきていいぞ! と」

「いやー、急に三人追加で悪いねー」

「気にすることはないのである。三人で住むには少々広い家ゆえ、寝泊りには困らないだろう」

「さすが貴族! 言うことが違うねー!! さあ! シャリオちゃん!! もうすでにリオーネさんにはそれとなく伝えておいたから、ダッシュで報告&身支度だー!!」

「おー!!」


 右拳を天井へと突きつけ、シャリオは一目散に生徒会室を飛び出していく。シルビアも彼女の後を追って出て行こうとするが、ナナエに呼び止められる。


「あっ、シルビアたん。ちょっと待った」

「どうした?」

「ちょっとお話があるんだよね。マイキーくん、代わりにシャリオちゃんのことお願いね」

「わかりました」


 ナナエの指示で、マイキーは一礼し颯爽とその場から走り出す。残されたシルビアは、いったい何の話だろうと静かにナナエが話すのを待つ。

 

「さてさて、シルビアたんもわかってると思うけど。リオーネさんとシャリオちゃんは今保護対象となっている。それはわかってるよね?」

「うむ。だからこそ、我輩も一度は渋ったのだが、あの勢いでは無理にでもついてきそうだったからな。ナナエに相談しに来たのである」

「いい判断だねー! 現状、シャリオちゃんを狙う勢力に動きはない。けど、こうして外に再び出るってことは……わかってるよね?」


 十分承知の上だ。

 シャリオの【王の魔力】を狙っている勢力が動かないのは、王都ガゼムラに居るからだ。ガゼムラは、ボルトリンでの出来事から警備レベルを最大限に上げている。

 常に腕よりの冒険者達が周囲を警戒し、検問もいつも以上に厳重。

 普段あまり人が通らない場所にも、目を向けている。そのため簡単には潜入することができないだろう。


 が、一度ひとたびガゼムラから出てしまえば四方八方から襲ってくる確立は非常に高い。本来ならば、出ないほうが一番良い選択肢だ。

 いくらシャリオがわがままを言おうとも、最低限ガゼムラ内に居て欲しい。そうではないと監視するほうも大変なのだ。


「わかっているのである。だからこそ、ナナエも共に行くのであろう?」

「そうだね。本当は生徒会の仕事があるんだけど、それは持っていくことにしたの。本当はさー、マイキーくんに全部頼もうかと思ったけど」

「さすがに全部はだめであろう?」

「まあね。そこんところは、あたしも生徒会長だしわかってるんだけどさー。……シルビアたん。かなり切羽詰った帰宅になりそうだけど」

「むしろ大歓迎だ。早めに可愛い妹分を狙う輩を叩けるかもしれないのだからな」


 シルビアらしい言葉だとナナエは小さく笑う。今となってはシャリオはかけがえのない存在となっている。もちろん彼女の力を利用されまいという理由もあるが、なによりも共に過ごすようになってからは本当の妹のように、それでいて孫ができたかのようで毎日が楽しいのだ。

 妹なのに孫というのは色々とおかしいだろうが、シルビアの感覚としては間違ってはいない。


「じゃあ、あたしも身支度をしなくちゃねー。シルビアたんも、戻っていいよ。それとマイキーくんに会ったら、すぐ戻ってきてって言っておいてね」

「承知した。では、また」

「じゃあねー!!」


 生徒会室から出て、しばらく廊下を歩いていると窓から外の景色が見えた。すでに下校時間となっているため生徒達が楽しそうに会話をしながら歩いている姿が目に付く。

 長期休みはもうすぐだ。

 シルビアのように実家に帰宅する者も居れば、惜しくも補習になった者達も居るだろう。そして、あえてガゼムラに残る者達も。

 それぞれ、長期休みに向けて刻々と準備をしている。

 

 シルビアも、久しぶりに父と母に会うためうずうずしている。なによりもユネ、ミミル、ピアナ、ナナエ、リオーネ、シャリオ。

 六人の客人を連れて帰るのだ。

 最初の反応は、どうなのか? 驚く? それとも大喜びする? 考えるだけで笑みが零れてしまう。


「あっ、シルビアー!! なんだかシャリオが大喜びで飛び出して行ったけど。良い返事、もらえたの?」


 荷物を取りに教室へ戻れば、ずっと待ってくれていたのだろう。ユネ、ミミル、ピアナの三人が出迎えてくれた。


「ああ。ばっちりだ。シャリオも、それにリオーネも行くことになった。更にナナエもな」

「わー、大所帯になっちゃったね。馬車に入りきるかな?」


 確かに七人となると、ギリギリ馬車に全員乗れるかどうか……。


「大丈夫よ。一番大きな馬車を選べば全員乗れるでしょ? さすがに馬車を二台頼むとお金かかっちゃうし」

「おー、貴族とは思えない貧乏性な言葉ですね」

「元! よ」

「ですが、家出しているだけで破門になったわけじゃないんですよね? だったら、まだ貴族なんじゃ」

「もー! 今更そういう話題はなし!! なーしー!! ほら、さっさと帰るわよ」


 やはりユネはピアナを弄るのが好きなようだ。ミミルに何度ももーっと注意されるも、止められない。それで仲が悪くなるわけではないため、ピアナもそこまで気にしていないのだろうか?

 急に話を断ち切り、そそくさと教室から出て行く彼女を追いかけ三人も出て行く。

 ピアナの機嫌を直そうとユネが話しかけると、急にデコピンを食らわした。

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