第二十話「清々しい朝」
「ふー! 清々しい朝ですねぇ!!!」
テストから解放されたユネは本当に清々しい表情で青空を見上げていた。いつもの早朝トレーニングよりも四人の顔色が良いようだ。
「まあ、明日になればまた変わるかもだけどね」
明日はテストが返ってくる。今は清々しい表情をしているが、返ってきたテストの結果次第では一気にどん底へと落ちるだろう。
「大丈夫ですよ!! ユネ達は絶対大丈夫です!! だから、すでに身支度を済ませていますよ!!」
「あら? それだけ自信があるってことかしら?」
「もちろんですよ! そういうピアナはどうなんですか?」
「当然。私が補習なんてありえない。すでに身支度は済んでいるわ」
かなり上機嫌のようで、いつもの言い争いもなく肩を組んで笑っている二人。そんな二人を、シルビアとミミルは微笑ましそうに見詰めていた。
「ねーねー、お姉様」
「どうした?」
すっかり四人の早朝トレーニングにも慣れてしまったシャリオは、おそろいのジャージを着こんでいる。ユネとピアナの会話が気になったのか、シルビアの裾をくいくい引っ張る。
「身支度って、二人はどこかにいくの?」
「ああ、そういえばシャリオには話していなかったな。我輩とピアナ、ユネにミミルの四人は長期休みに入ったら、我輩の実家に遊びに行くことになっている」
それを聞いたシャリオは羨ましそうにシルビアに飛びつく。
「ずるいー! お姉様!! わたしもお姉様の実家に行きたい!!」
「うーん、そうしたいのだが……」
シルビアだって、シャリオを連れて行きたい。しかし、シャリオは今ボルトリンで保護している。ボルトリンの監視外へと連れ出してしまっては保護した意味がない。
「つれてってー! つれってってー!!」
ついにはシルビアの肩に乗り、ツインテールで遊び始める。
「どうしたの? 楽しそうね」
「えっと、実は」
騒ぎに気づいた二人が、問いかけるとミミルが事の次第を説明する。それを聞いた二人はあーっと声を漏らす。
「そういうことならナナエに相談したら?」
「そ、そうだよ! ナナエさんに相談してみようよ!」
「……うん、そうするか。このままシャリオだけ仲間はずれというのも可哀想であるからな。シャリオ? 学校が終わった後で生徒会室に行こう」
「ほんと!?」
シャリオは嬉しそうに後ろに倒れ、そのままくるっと回転し着地する。
「ああ。許可が出るように頼んでみる」
「大丈夫ですよ! ユネ達が同行すると言えば許可が下ります!!」
「そうね。こっちにはシルビアが居るからね。余裕で許可が下りるわよ。それに、シャリオにはあの鎧が」
「あっ、鎧は今ないよ?」
「え? そうなの?」
時々腕輪になった鎧を置いてくることがあるため、今日もそうだと思っていたピアナ。
「うん。おじさんに返したんだー」
「おじさんって?」
「リューゼのことだ」
「リューゼって……あのテンション高い試験官長?」
「そうだ。テスト前の休日の時だ。校門前で待っていたんだ」
それから数日経ったが、リューゼは現れない。やはりあれほどの技術が詰め込まれた鎧を調整するのは、時間がかかるということか。
そもそもリューゼはボルトリンに居るのだろうか? 気配は感じられないが、ボルトリンに入っていくのは見た。ナナエの知り合いということもわかっているため、もしかすればナナエに聞けば居場所がわかるかもしれない。
「あー、大浴場に行った時か。まさか、あの試験官長があの鎧を作ったなんてねぇ」
「でも、それっぽい格好してたかも」
「しかし、そう考えると。少し不安になりますね。こちらとしては鎧あっての大丈夫だったんですが」
「そうね……もしもの時に自分の身を護る方法がないと」
いつまでもシルビア達が護れるとは限らない。もしもの時がある。敵の罠にはまり、分断されシャリオが一人になった場合。
鎧があれば敵に抵抗できるはずだが。鎧がないということは、少しきついかもしれない。長期休みはテストが返却されたから二日後からになる。そして、シルビア達が旅立つのは長期休みの初日だ。
この数日の間でリューゼがシャリオへ鎧を返却しなかった場合……どうなるか。
「大丈夫だよ! わたし、鎧がなくても戦えるようになったから!」
えいやー! とその場で拳を突きアピールするシャリオ。彼女の成長は一緒にトレーニングしているため四人とも理解している。
が、まだまだ発展途上。とんでもない魔力を保持しているが、それもまだまだ操れていない。不安がないとは断言できない。
「とりあえずナナエに聞いてからにしよう。さあ、走りこみをするぞ」
「そうね。走りながらでも考えられるし、行きましょう!」
「よーし! こうなったら、今からでももっと強くなるぞー!」
・・・・・☆
「さあ、お前ら。すでに一般知識のテストが返却されていると思うが……こっちも欲しいか?」
「正直欲しくないです!!」
「今からでもやり直したいです!!」
「そうかそうか。じゃあ、やり直すか? ほれ、新しいのがあるぞ」
「じょ、冗談ですよ!! あははは……」
一般知識のテストが全部返却され、生徒達は色々とおかしくなっているようだ。結果を知りたいが、怖くなっているのだろう。
タダイチが見せびらかしている紙の束に表情を強張らせている。冗談を言った生徒も居たが、すぐタダイチの返しに素に戻る。
「ま、長い話はなしだ。何を言おうともう時間は戻らない。お前達が拒否しても、俺はテストを返却するだけだ」
「無慈悲ですね、先生」
「ああそうだ。これは教師としての役割だからな。こうしないと、給料が入らない」
なんとも現実な答えに、生徒達は黙るしかなかった。
「よし。静かになったところで、さっそく返すぞ。俺から返すのは、基本と歴史の二教科だ。残りの教科は別の教師が返す」
「大丈夫だ……基本なら!」
「かなり不安だ!」
生徒達の嘆きの声が漏れる中、タダイチは次々に生徒の名前を呼びテストを返却していく。返却される度に、喜びの声を上げる者や悲痛の叫びを上げる者で分かれていた。
「次、シルビア」
「うむ」
教室内で一際小さいシルビアが、タダイチの前に立つ。
かなり身長さがあるため、若干微笑ましく思ってしまう。
「ほれ。お前は安定してるな」
「ありがとうございます」
他の生徒と違いシルビアは冷静にテスト用紙を受け取る。前に呼ばれた生徒との反応の差がかなり激しい。
こうして全てのテストが返却されたところで、タダイチが喋り出す。
「いいかお前達。今回のテストの結果を胸に、今後はもっと頑張れよ」
「はい……」
「はぁ……もうちょっと勉強すべきだったなぁ」
「マジかよ、ここの問題完璧に解けたと思ったのに……!」
「いい反応だ。だが、気持ちを切り替えろよ。今から普通に授業をするからな。おら、テスト用紙を仕舞って教科書を開け」
生徒達の嘆きの声はなくならなかったが、授業は進んでいく。長期休みまでは、普通に授業がある。テストが終わっても最後までボルトリンの生徒としてやってもらわなければならない。
(あっ、ここの問題間違っていたのか。うーむ……そこまでのミスではないが、次は頑張らなければな)




